第3部 第3話 ヌメヌメパタパタ と ニョロニョロ?

〖ナオ〗


「どういう事も何も・・・混沌神エニピム封印ふういん・・・けてるぞ」


マカの口から出たという名前、僕やサキさん達だけでなくキーラとミーラがそろって首をかしげているところをみると・・・あまり知られていないモノのようだ。


「マカ王よ・・・なぜ混沌神エニピムなどという名が出て来るのじゃ?」


ミラセアは知っているみたいだな・・・


「いや・・・ちょっと待ってくれ・・・エルフもドワーフも輝光神ルキクフに愛想を尽かしたオーランなどとは、比べられないくらい昔から精霊を信仰していると聞いている。まさか混沌神エニピムとの戦いについて、何も伝わって無かったのか?」


何か呟きながら頭をかきむしるマカ・・・それなのでやめてくれ・・・


「少なくともわらわは聞いた事が無い。そもそも精霊信仰と混沌神エニピムに何か関係があるのか?」


それを聞いても、マカは頭を抱えて何かを考え込んでいた・・・


「とりあえず、ミラセアさん。その混沌神エニピムについて教えて頂けますか?

封印だとか次元神メザキユ並みに危なそうな内容に聞こえるのですが?」


まったく蚊帳の外に置かれた西園寺さんが声をかける、

これにはオリムルさんが答えてくれた。


「古い・・・いくつかの神話には確かに混沌神エニピムの名が記されております。暗黒神ゲーラム次元神メザキユ幻想神マグバと並ぶ邪神の一柱として・・・まあなのですが」


「名前だけ・・・なんですか?」


「そうなのです、いくつかの古文書に名前だけは残ってはいるのです。ところが神々の戦いにはのです」


「出てこない?」


「はい、ですから研究者の中では、神々の戦いよりもっと前に暗黒神ゲーラムによって滅ぼされた獣の神エニメインの書き間違いではないかといわれています」


それを聞いて、やっとマカが話しだした。


「ミラセアクアラ殿・・・すまない・・・私は・・・神々の戦いに混沌神エニピムが加わっていた事は、古くから精霊信仰を続けているエルフやドワーフならば当然知っているものだと思い込んでいたんだ」


「いや、そのような話を祖先が知っておれば、それこそ神話の形で残しておるだろう?」


「私は・・・混沌神エニピムについて知り得た事を残そうとして・・・出来なかった」


「出来なかった?」


「神々の戦い・・・輝光神ルキクフ次元神メザキユを封じ眠りに付き。暗黒神ゲーラムには大気神オクネス大地神オウネスそれに大海神オシネス三柱の兄弟神が向かい封印、封じた三柱も傷つき眠りについた。

幻想神マグバ翼の神ザーメインは相打ちになって滅びた・・・」


「そうじゃな・・・多くの神話では、そう伝えられておる」


混沌神エニピム暗黒神ゲーラムに命じられるまま輝光神ルキクフに突っ込んでいった、それを精霊を司る名も無き神と4つの大精霊が迎え撃ったんだ


「・・・そのような話、聞いた事が無いぞ。オリウムドラム、お主はどうかな?」


「私も・・・聞いた事はありません。それと火水風土を司る四大精霊については確かに記録にあります、しかし精霊を司る名も無き神とは? そのような存在についての記録も私は見た事が無いですな」


「そうじゃな、マカ王よ・・・その様な話、いったいどこで知ったのだ?」





「私は・・・・・・妻に、聞いたのだ」


「「「「つま?」」」」


「そうだ、私の妻、シーナローンはサウラタに棲む水の精霊と意志疎通のできる”水の精霊の愛し子”だった。どうやら水の精霊に教えて貰ったらしい・・・のだ」


「水の精霊の愛し子・・・か?」


「ああ、エルフやドワーフの中では精霊人スピリアと呼ばれているのだろう?

エルフの精霊人スピリアから《たとえ文章にするのが難しくても》、内容くらいは伝わっていると思っていたんだ」


とは・・・どういう事じゃ?」


「精霊と言うのは、そもそも言語を持っていない


「らしい?」


「ああ、意思疎通と言ってもフワッとしたイメージをやり取りする感じなんだ。

だから、当時はシーナローンの感じた事を無理矢理言語化してもらって、

それを私とアートで整理して文章化しようとしたんだ」


「それで・・・どうなったのだ?」


「あまりの情報の量とその曖昧あいまいさに挫折した。それでも、名も無き神と混沌神エニピムの戦いについてなら、ある程度話せると思う」


「ある程度じゃと?」



混沌神エニピム相手にその名も無き精霊神と4つの大精霊が一緒になって戦った

戦いは精霊神側が優勢で進んだらしいが、混沌神エニピムが勝敗を決する前に自分の身体を5つに分けて逃げ出したんだ

それで精霊神と大精霊は、その5つの分体それぞれを追いかけて追いついた場所で封印したんだ


「マカ王よ、さすがにそれは・・・ざっくりし過ぎではないか?」


「水の精霊の伝えてきたイメージをシーナローンに言葉に変換してもらったからな。色々と聞いた膨大な話を繋ぎ合わせて整理すると大体そうなる。」


「イメージを無理矢理言葉にって? どういう事なのかな?」


「それこそシーナローンの感覚だったから私にはわからなかった。

ちなみに混沌神エニピムは『ぐちゃぐちゃの大きいの』、水の大精霊は『大っきなザー』、精霊神の事は『ザーの王様』と言っていたな」


「マカ・・・ザーってナニ?」


「サウラタに居る水の精霊のことだ。精霊には名前が無いので妻がそう呼んでたんだと」


「マカ王、それでよく混沌神エニピムが5つに分れたなんて理解出来ましたな」


「ああ、全部紙に書きだしてアートと2人で頭を掻きむしりながら正解が何か考えたよ。『ぐちゃぐちゃの大きいのが黒いガチガチと緑のバキバキ、青いトゲトゲ、紫のギラギラ、赤いニョロニョロの5つに分れたの』・・・なんて書かれたメモが目の前に何百何千と並んでいたな・・・」


「それは、大変そうだね。5つに分れたって・・・もともとの形が想像できない、だからぐちゃぐちゃなのかな?」


「なんでも・・・『黒いガチガチ』は『赤いチチチ』を連れていて、

『赤いニョロニョロ』は『黒いヌメヌメパタパタ』の群れに囲まれていたらしい」


「ごめんねマカ、ざっくり説明してくれてありがとう」


「それよりも問題は、ナオ・・・赤い霧を吐いてチチチと鳴く生き物・・・コレって最近見て無いか?」


それって・・・もしかして?


「ルゼル湖やギワノ山で見た気持ちの悪いアレ?」


「王様、ということは・・・『黒いガチガチ』って、湖の底にいた黒いフジツボ?」


「おそらくアレが混沌神エニピムだったんだろうな」


「アレはしんなどでは無く、混沌神エニピムじゃったわけか?」


「僕達は知らない内に混沌神エニピムの頭の上から、地形を変えちゃうくらい大量にロケット弾を落としてたわけだね」


「そうだな・・・君達は混沌神エニピム次元神メザキユの大事な大事なオモチャ箱の中身を盛大にぶちまけてくれたわけだ」


「ねえ、マカ。さっきの話、チチチとガチガチ以外に気になる言葉が出てきたんだけど・・・もしかして?」


「気が付いたか? サーサンタで見た黒い羽根の生えた生き物。おそらくアレが『黒いヌメヌメパタパタ』だろうな」


「それがサーサンタにいるという事は?」


「あの近くに混沌神エニピムの一つ『赤いニョロニョロ』が居るはずだ。それを封じたのが精霊神か大精霊かはわからないが・・・既にその封印は解かれていると考えるのが妥当だろうな」



「おかしいね・・・かなり深刻な事態なのに、

ヌメヌメパタパタとかニョロニョロとか、名前のせいで緊張感が湧いてこない」


僕の言葉を聞いて、オリウムさんが説明をしてくれる。

「ナオ殿、もしあれが古い文献に書かれている通りの混沌神エニピムの眷属だとすれば、

ヌメヌメパタパタというのは、おそらく”餌を運ぶ翼”の眷属、アビキで間違い無いかと。チチチの方は”惑いの息”の眷属、クセビだと思われます」


「ガチガチとニョロニョロは?」


「サキよ、何を言っておる。バキバキ、トゲトゲ、ギラギラ、印象は違うが全部混沌神エニピムじゃぞ」


「とにかく、急いで混沌神エニピムの事をウーバン王に伝えないといけないわけだね。それじゃあ、オリウムさんの調査が終わり次第、ここを出てサウラタを目指そう。それからアイロガ王国に向かう」


「それならば、私は調査を急ぎます・・・明日中には全ての刻印を写し取ってしまいますので少々お待ちください」


「オリウムドラムよ、お主もしや・・・これから眠らずに写すつもりかな?」


「はい、帰りの道中ハンヴィーの中で眠らせて頂きますのでご心配なく」






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