第9話 その抱擁は痛みとともに・・・

〖ナオ〗


「ナオ、どうしたのじゃ? 顔色が悪いが。 マカ王に何か言われたのか?」



不安そうに問いかけるミラセアを見て・・・僕は覚悟を決めた。


「ミラセア・・・・」










「キーラ、ごめんチョットどいててもらえるかな?」


僕は・・・まずは僕のひざうえ蜜菓子みつがし頬張ほおばりながらくつろいでいでいるキーラを降ろして・・・



ミラセアの前に出て、


「・・・ナオ?」


「ごめん・・・」


「・・・いや」


ミラセアの表情が曇る・・・


「あの時は・・・長くても5~6年待ってもらえれば、君の呪いを解きに来れると思っていたんだ」


「ナオ・・・・」


「1000年も待たせて、本当にゴメン。もう、君が呪われる事は無いから・・・安心して」


ミラセアの青い瞳から、一筋の涙が流れる。


そして・・・膝をついたままの僕を、その胸にかき抱いた・・・












 ガチッ  メキャ  パキッ


ミラセアのタクティカルベストが・・・何か堅いモノが顔に食い込む


ちょうど、右のあたりには手榴弾M67が吊られていて

ゴリゴリ当たって痛い・・・


大丈夫だと頭では理解していても、爆発物はやっぱり怖い。


それでも、次の一言を絞り出す為に必死に耐えた





「僕は・・・君の事が好きだ・・・」


 メキメキッ  バキバキッ


ミラセアの腕に力が入り、頬骨が押しつぶされるのを感じる


「ナオは・・・わらわのために来てくれたのだな」


「・・・さっきまで忘れていたことも含めて、ゴメンね」


 メキャ  ピキッ  「ゲゥ」


ミラセアの腕に力が入り、僕の口からも変な音が出た。

が僕ののどを突くように圧迫してきたせいだ。






〖マカ、教えて・・・プロポーズってこの後?〗


《喜べ、ナオ。女性からの抱擁がプロポーズOKのサインだ》


〖もしダメだったら?〗


《後ろを向いて立ち去って終わり。ただ、獣人の場合はたおされると聞いている》


〖エルフも別のルールだったりしないよね?〗


《大丈夫だ、エルフやドワーフも同じだったはず》


〖良かった。それで・・・この後は・・・どうすれば良いの?〗


《・・・耐えろ、ここで押しのけるのだけは絶対にダメだ。それは拒絶を意味する》


〖どうしよう・・・もう息が、それにまた顔の左側が痛くなってきた〗


《頑張れ、とにかく我慢だ【ヒール】》


〖ありがとう、マカ・・・ついでに呼吸が楽になるギフトって持って無い?〗


《残念だが、そんなギフトは無い》


〖・・・そうか、じゃあミラセアに伝えて、『ありがとう、僕は幸せだった』って〗


《おい、ナオ・・・ナオ~~~~!!》





〖ミラセア〗


突然、ナオにしては珍しく強引にわらわを押しのけようともがきだした。


「ぷふぁ~ す・・・すまない・・・・・・」


「マカ王か?」


「の・・喉に何か食い込んで息が出来なかった。ナオの奴に『押しのけるのは拒絶を意味する』と教えたせいか、今まで必死に頑張っていたのだが・・・さすがに限界だったのでな、申し訳ないが私が出てこさせてもらった」


「ああ、すまぬな。銃剣M9のどを突いておったみたいじゃ。そんな風習もあったのう」


「せっかくのプロポーズに水を差してすまない、少し休ませてやってくれ」






〖ナオ〗


ハァ~ ハァ~ ハァ~ ・・・・・・


僕は今、石の床に寝転がって空気の大切さを実感している。


ちなみに、責任を感じたミラセアが僕に膝枕をしてくれようとしたんだけど

さっきの堅い感触を思い出して、顔の痛みがぶり返した事を理由に辞退させてもらった。



〖ありがとう、マカ・・・助かったよ〗


《ああ、その事は良いが・・・ところで・・・アレはどうする?》


〖アレ?〗


《ほら、向こうでよくわからない準備運動をしてるキーラの事だ》


マカに言われてキーラを探すと、なぜか離れた所で膝の屈伸運動をしているキーラと目が合ってしまった。



〖ラジオ体操? サキさんに教えてもらったのかな? でもなんで今?〗


《あの行動の理由はわからない。ただ、どうしてだか・・・何を考えているかは予想がついてしまった。》


〖マカ、すごいね。僕には想像もつかないよ〗


《おそらく・・・『ミラセアの次はキーラの番』だな》


「えっ?」思わず声が出た。


キーラが僕に駆け寄ってきて、寝転がっている僕の傍で片膝をつく

そして、さあ抱き寄せろと言わんばかりに両腕を広げた・・・


どうしたら良いのか分からず、助けを求めてミラセアやサキさん達に視線を送るが

後ろを向いたまま頭を抱えてしゃがみこんでいるミーラ以外は、皆ポカンとこちらを見ている。



〖マカ・・・コレ、どうしたらいいと思う?〗


《・・・いっそ、蹴り倒してみたらどうだ?》


〖僕が? いや、キーラを蹴るなんて無理〗


《まあ、ナオが本気で蹴ってもキーラには簡単に避けられるだろうな。ここは、言葉で説得するしかあるまい》



僕は立ち上がってキーラの前に立つ


「・・・キーラ、なんとなく言いたい事はわかるんだけど。」


キーラがニヤリと笑ってウンウンと頷く


「僕はキーラにプロポーズするつもりも、キーラのプロポーズを受けるつもりも無い」


「えっ?」


キーラが泣きそうな顔で僕を見上げているが、僕もこの言葉をたがえるつもりはない。


その決意が伝わったのか、キーラは両腕を降ろし下を向いてしまった。


「すみません、ナオ様。姉には私からよく言っておきます」


ミーラが項垂うなだれたキーラを引きずるようにして、中庭に出て行ってしまった。






〖マカ、キーラからのプロポーズなんて想像してなかったよ〗


《忘れているかもしれんが、キーラもミーラも、もう15歳だぞ》


〖僕の中で15歳は中学生だよ、プロポーズなんて絶対にまだ早い〗


《自分は14歳で人妻にプロポーズしておいて、よくそんな事が言えるな》


〖あれは告白、プロポーズのつもりじゃないからね〗





ミーラとキーラを見送った後、

マカは妙に慣れた手つきで、みんなのお茶を入れなおしてから自分の席に戻ると


「さて、私の膝の上も軽くなったことだし。そろそろナオの世界で、気が付いたらナオの中に居た話でもしようと思うが良いかな?」


と脚を組んで、気取ったポーズで話を始めようとしたのだが・・・




・・・中庭から聞こえてくる騒音がそれを台無しにした。


「おねえちゃん!! なんであんなプロポーズしたの?」


「変ちがう、ナオと一緒」


「そっちじゃなくて・・・いや、そっちもだけど。

あたしちゃんと言ったよね? おねえちゃんはいもうとどころかむすめ扱いされてるから

攻めるのはまだ早い、今は様子を見なきゃダメって」


「そう、様子見た。ナオの心臓ドキドキ、臭いも変わった・・・だからプロポーズ」


「確かにナオ様の感情を読むのに心音と体臭の変化が使えるとは言ったけど、今回のそれは、ミラセア様へのプロポーズのせい。おねえちゃんは関係無いの」


「次はうまくやる」


「今みたいな事をしたら、もう膝の上なんて乗せてくれないわよ」


「えっ?」


後は声が小さくなって聞こえなくなった。




「ねえミラセア・・・もしかして、今の時代のプロポーズって違うの?」


「確かに、少しばかり古風なプロポーズじゃったな。」


「ごめん。もう一回調べてから、やり直して良い?」


「あれで良い・・・いや、あれが良かった」


「ありがとう。あと聞くのが怖いんだけど、ミーラが言ってた心音や体臭って?」


「獣人じゃからな、あの二人にはナオの心音や体臭の変化で感情などが読めるのかもしれぬな」


《ナオ、いい雰囲気の所悪いが、もう話しを始めていいか?》


〖ゴメン、もう少し後にしてくれる?〗






※〖〗ナオの声(マカだけに聞こえる)

  《》マカの声(ナオだけに聞こえる)です


※タクティカルベスト ベストの前面や背中側に拳銃のホルスターや弾薬ポーチ等

色々なモノが取付可能になっています。


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