第3話 ドワーフ、エルフ・・・そしてヒト

〖マカ〗


玉座に座ったまま、呪いがもたらす10分間の激痛をすっと耐え忍ぶ。


最近は薬の効きが良いのか、ナオのおかげで気が紛れているのか・・・

以前よりは少し、痛みが楽になったように感じていた。


ようやく痛みが治まって、ひたいの汗をぬぐい呼吸を整えていると、私の口が動いた・・・


『ねえ、マカ、ちょっと聞いてもいいかな?』


「なんだ、ナオ・・・あらたまって?」


『アートさんが、マカは次元神メザキユって神様に呪われているって言ってたでしょ。どうしてそんな事になったのかと思って』


「まあ、正確に言うと次元神メザキユが、私に狙いをつけて呪いを送り込んでいる訳じゃないんだ・・・」


『えっ? そうなの? それじゃあ、アートさんが言ってたのは?』






「・・・ナオ、君になら本当の事を教えてもかまわないが。この事を知っているのは、私と私を研究対象にしているアートだけだ。だから他の人間には内緒にしてくれ。アートもこの事に関しては、他の人間の前では絶対に口にしないようにしている」


『でも、どうしてアートさんはその事を知っているのに、マカが次元神メザキユに呪われているなんて言うの?』


「・・・結果が同じだからだよ。私が次元神メザキユの呪いにむしばまれている事実は変わらないからね」


『僕にもその理由、教えてくれる?』




ナオに分かりやすくか・・・


「えっと、簡単に説明するとだな・・・大昔、この地上で、たくさんの神々が二手に分かれて戦争をしたんだそうだ」


『なんだろう、そういうのファンタジー世界の設定で見たかもしれない』


「神々は長く激しい戦争に疲れ果てた挙句、多くは共倒れになった。そして、残った神は、この地上をほったらかしにして、散り散りにどこかに行ってしまったのさ」


『なんか、ありがたみの無い最終戦争ハルマゲドンだね』


「はるまげどん? 伝説によると争った挙句、色々な神が滅びたり、追放されたり、封じられたり、眠ったりと・・・まあ色々あったらしい」


『ほんとうに、ざっくりだね』


「神がいなくなって、地上は平和に暮らしてたんだ。ところがだ、今から700年ほど前に、封じられていた神が突然暴れ出してね。どうやら封じたほうの神が手を抜いたらしい」


『その、手を抜いた神様は?』


「まだ呑気に寝てるよ。さすがに神の封印は破られなかったみたいなんだけど、封印に隙間が出来てしまってね。今度は破れなかった腹いせに、その神が封印の隙間から呪いをまき散らして、その呪いのせいで地上が滅びそうになったんだ」


『その神様、逆切れして暴れたんだ・・・』


「そうだな。それでみんなで封印の隙間をふさごうと色々頑張ったんだが、ダメだった。ヒトも、ドワーフも、エルフも呪いのせいで人数が半分になってね。もうふさげなくてもいいから、なんとか呪いだけでも防ぐ方法が無いかって、知恵をしぼったんだ」


『ここにはドワーフやエルフもいるの?』


「ああ、ドワーフは頑強で技術に優れていて、エルフは長命で知識に優れていた。

そして、この2つの種族が協力して最悪なモノを作り出したんだ」


『・・・最悪なモノ?』


「隙間を埋める事が出来ないなら、まき散らした呪いを集めて、この世界とは違う場所に送り込めないかって。そうして作られたのが、まき散らされた呪いをに集めて。その人の魂が、いずれ行くその行き先に、集めた呪いを送り込む装置だ」


『魂が、いずれ行く?』


「私は行った事は無いが、この呪いは死後の世界というか、別の世界に送られ続けているらしい・・・

その装置というのが、このうつわ王冠おうかんと、ここにある黒束こくそく玉座ぎょくざなんだ」


『・・・まさか、マカの受けている呪いって?』


「そう、このと1日に9時間座っていなければいけない玉座ぎょくざ。戴冠式の後およそ15年で取り換えられる、別の世界に呪いを送り出すパイプ・・・それが私の役目だ」


『・・・どうして、マカなの?』


「技術はドワーフ、知識はエルフが出したから、犠牲はヒトが出せ・・・だとさ」


『・・・ひどいよ』


ナオ・・・泣くなよ、前が見えないじゃないか。


「ああ、まったくだ。何が酷いって、やつらは自分の子孫にこの事を言い残さずに死んでいきやがった。おかげで、何も知らない今のドワーフやエルフを恨む事も出来ない。まったくもって腹が立つ」


『ドワーフとエルフに・・・この事は言わないの?』


「今さら言ってどうする? 当時はまだ残っていたドワーフの技術もエルフの知識も今は無い。私がこの役目を放棄したとたん、今地上に居る生き物の半分が死ぬとすれば逃げられなかった。 最小限の犠牲という点だけを見れば、確かにこれ以上の方法は無いんだ」


『でも、それだとマカが死んでしまうんだよ?』


「そうだな・・・それに作ったエルフとドワーフも意図してなかった事なんだが、この王冠のせいで私を含め歴代の王は、記憶とギフトまで継承してしまったんだ」


『記憶とギフト?』


「呪いを受け続ける内に、最初の王がギフトに目覚めた。この身に溜まった呪いは別の世界に流れて行くが、記憶とギフトが代々の王に蓄積していったんだ」


『それじゃあ、マカは歴代の王様の記憶とギフトを持っているの?』


「ギフトはおそらくだが最初の王が手に入れたモノから、記憶は2代目の王のモノからだな。2代目の王が見た、最初の王が自ら王冠をかぶる姿も、そのかたわらで滂沱ぼうだの涙を流すエルフの姿も、座り込むドワーフの慟哭どうこくの姿も、全て私の中に残っている」


『・・・・・・』


こんな話は、ナオにするべきじゃ無かったかもしれないな。

ついでだ、この事も話しておくか・・・


「こんな記憶を引きついでしまった時から、死の運命は避けられないものと半ば覚悟はしていたんだ。まあ、死ぬ前にもう一つイヤな事が起きるんだが」


『死ぬよりイヤな事があるの?』


「ひどい嫌がらせがあるぞ。死ぬ直前に次元神メザキユが話しかけてきて、自慢話を聞かされるんだ」


『・・・何それ?』


「記憶を引き継いだこっちは、その内容を知っているんだが、次元神メザキユは王が死ぬ前に自慢話を始めるんだ」


『なんで、自慢話?』


「自分のオモチャ箱コレクションを誰かに自慢したくて仕方がないみたいだな。自分が封じられる前に、どこかの次元の戦場で見つけて、搔き集めた凶悪な兵器のコレクションだと。今度解放されたら、そこら中にばら撒いて、自分を封じた神々に復讐したいらしい」


『その話を聞くだけで、スゲーいやな奴だね』


「まったく同感だが、こっちは死ぬ前に聞く内容もわかっているからな。実際には鬱陶しいだけなんだ」


『もしかして、僕も一緒に聞くの・・・その自慢話?』


「・・・たぶん、そうなるな。よし、ナオと2人なら自慢話も我慢できるに違いない」


『自慢話だけで気が滅入るのに、マカが聞くのは同じ話なんでしょ? 最悪だね』


「ナオにも先に教えておいてやろうか? なんでもらしいぞ」


『なんなの、その最終兵器。まるで僕の世界の核兵器みたいだね』


「なんだ・・・ナオの世界には、そんな物騒なモノがあるのか?」


『確か・・・核兵器廃絶とか、縮小とかニュースで言ってた気がする』


「物騒な世界だな」


『竜はいないけど、そういう意味では物騒な世界かもしれないね』






「そういえば、ナオ。来週あたり、他の国から代表が挨拶に来るから、ちょっと忙しくなるぞ」


『へー、他の国からなんだ?』


「なにせ、この国は国王が外に出られないからね。大昔からの約束で、他の国の代表はこの国に挨拶にくる事になっているんだ」


『呪いの事は隠されてるのに、そういう事は決められてたんだね』


「まあ、誰も私に国から出て来いと言わないようにね。ナオ、君は最近思いついた事を、そのまま口に出してしまっているみたいだぞ。他の国の代表の前ではくれぐれも気を付けてくれよ」


『いくら僕でも、さすがに初対面の人に、話しかけたりしないと思うよ』






『』ナオの声(マカの口を使った)です。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る