第4話 僕の初恋

オーランド王国 王宮 謁見の間



〖ナオ〗


彼女を見た、その瞬間・・・


僕がさっきまで感じていた、呪いによる痛みのこと・・・


全て頭から消えて・・・どうでも良くなった・・・





僕の目の前に立っているのは、艶やかな白いドレスを着た美少女


サラサラとした金糸きんしの髪、晴れた空色の澄んだ瞳をした使





〖頼むナオ、少しでいいから表情を引き締めてくれ〗


《無理、だってエルフの美少女だよ》






僕の身体は、自然と彼女の前で片膝をついていた・・・


『好きです。どうか・・・僕と・・・つき』


ボコーッ!!


マカの右拳が、躊躇ためらいいなくマカ(僕)の顔に叩き込まれる。


〖ナオ、キサマ、エーライザル王国のに何を口走ろうとしてるんだ〗


《ごめん、マカ。つい、でも・・・王妃おうひ? この美少女、まさか人妻なの?》


〖横で旦那が、私を殺しそうな眼でにらんでいるのが見えんのか? それに、こっちでは男性が片膝をついて女性に告白するなんて、プロポーズの時だけだからな〗


マカの切羽詰まった(心の)声に、目の前の美少女から視線を外して横に向けると、無表情の腹が立つくらい端正な顔をしたイケメンが立っていた。


まったく表情には出て無いが、ギラギラした眼だけが『』と雄弁に訴えている。





「あなた・・・どうしましょう? 私、マカ王にプロポーズされてしまったみたい」


《ああ、想像以上にきれいな声が耳に心地よいな》


「そういえば、外務大臣から宣戦布告の正式な手続きの仕方を聞いて無かったな?

とりあえず、ここはマカ王に手袋を投げつければいいのか?」


イケメンが身に着けた手袋をはずそうとしている。


《マカ、相手に手袋を投げつけるって、決闘の申し込みだったっけ?》


〖ちょっと違う。他人の手を借りず、この手で殺してやるという決意表明だ。

冗談じゃない、こんな情けない理由で、エルフとの戦争など起こさせてたまるか〗


マカが身体のコントロールを僕から奪い取り、膝を付いたまま、自らの打撃で腫らした顔をエルフの王に見せつけてから頭を下げる。


「ミカラスキレア王、ほんとうに申し訳ない、先日から少し体調を崩していてね。

どうやら熱に朦朧とした状態で、キセラムフリス王妃の美しさ当てられ、夢か幻の中にいるような気持になってしまったようだ。どうか、この失言を許して欲しい」


エルフの王は無言で殺気の籠った圧力をかけてくるが、その空気を無視して王妃が応えてくれた。


「そういえば、マカ王はあので一緒になられた王妃様を亡くされて、もう長くお一人なのですよね?」


「キセラムフリス、マカ王の大恋愛とは? 」


〖よしっ!! 王妃の言葉に王の気がれた、このままなんとか誤魔化すぞ!!〗


王の言葉に、少しあきれたようすで、王妃が答える


「あらっ? あなたと一緒に見たでは無いですか? ほら、サウラタが舞台の、身分違いの2人が水の精霊の導きで結ばれる、歌劇ですよ」


「あの水精石サウジアの精霊が出て来る歌劇、あれはマカ王がモデルなのか? 確か『マーク王子と水の精霊の愛し子ローナの物語』だったな」


《マカの大恋愛って、歌劇になってるの?》


〖ナオ、若い頃の話だ。恥ずかしいから、その話は勘弁してくれ〗


「ミカラスキレア王、キセラムフリス王妃、あの歌劇は劇作家により、かなり脚色がされています。昔の話で非常に恥ずかしいので、どうかご勘弁ください」


「あの、マカ王・・・」


「なんでしょうか? キセラムフリス王妃」


「実は、私の姉が一人でおりまして、もしよろしければ、一度会って頂けますか?」


『お姉さんですか? ぜひ、紹介してください』


僕の口は自然に動いていた・・・






エーライザル王国の国王と王妃が、謁見の間から出た後・・・


「ナオ、なんて事を言ってくれたんだ・・・」


『ごめんマカ、あまりに僕の理想の美少女だったので、身体と口が勝手に動いちゃった』


謁見の間での様子を隠れて見ていたアートさんだけが、声を殺して笑っている。


「ナオ君、まさかエルフの王妃に求婚するとは。この件が外部に漏れたら、それこそマカ王の名が歴史に残るかもしれませんな。さしずめ、享楽きょうらくの王でしょうか?」


「アート、それだけは勘弁してくれ。それからびではないが、ミカラスキレア王にを送っておいてくれないか?」


「承知いたしました。マカ王をからかうのはこれ位にしておきましょう」


『マカ、何か送るの?』


「ああ、びというか、親善のあかしだな。私は”ある樹の苗木”を送るようにしているんだ」


『親善のあかしか・・・そういうの良いかもしれないね』


「ナオ君、騙されてはいけませんよ。これが親善の証とは表向きの事、マカ王の恐ろしい策略です」


「アートも人聞きの悪い事を言うな。たんなるに使わせてもらっているだけだ」


『マカ、いったい、何の苗なの?』


夜仙香樹カオラン・ドマ―ンという樹だ、白い小さな花が咲き、夜になるとその花が強く香るんだ」


『へー』


「それから、こんな事も出来る」


【マインド・プランツ】






次の瞬間、ふと僕の意識が遠くなって、目の前に見知らぬ広場と噴水が見えた。


《どこ・・・ここ?》


〖ここは、海の向こうにある別の大陸だ。グザシマイス王国の確かバールキナという町だね。今の所、このギフトを使って見る事の出来る一番遠い場所のはず〗


《なんだか、剣や槍を持った人が歩いてるね》


〖ああ、こうして短い時間ではあるが、夜仙香樹カオラン・ドマ―ンの所に意識だけを飛ばす事が出来るんだ〗


《じゃあ、エルフの国に送るのも?》


〖まあね。送った苗木をどこに植えるかは向こう次第だが、この国から出られない私の気晴らしと、大事な痛み止めの手段だからな〗


《マカは、ここにいれば痛みを感じないんだね》


〖意識を飛ばせていられるのは数分だけで、1日に1度しか使えないから、滅多に使わないけどね。ほら、そろそろ時間のようだ・・・〗


目の前の広場と噴水が消え、視界は見慣れた玉座からの風景に戻っていた。


「お戻りですか? マカ王」


「ああ、ナオとバールキナの町を見て来た。相変わらず冒険者が多く活気のある町だったよ」






「ところで、マカ王、ナオ君」


「何だ、アート?」


『どうしたの、アートさん?』


「いえ、結局のところ、ナオ君がどうしてマカ王の中にいるのかを突き止めることが出来ませんでした。それで、呪いの研究者として、今後どうなる可能性があるか、推論だけでもお伝えしようかと思いまして」


「推論か?」


「はい、あくまで呪いやギフトを研究してきた結果から導きだした、私の推論です。よろしいですか?」


「わかった、聞かせてもらおう」





「マカ王、ナオ君。ギフトも呪いも、掛けた相手が死ねば解けて、効果が切れます」


『解けない物もあるんだね』


「はい、私の一族が持つ呪いを固着させるギフト、これは先祖が固着させたモノもそのまま残ってますね」


『アートさん、そんな、ギフトを持ってたの?』


「ええ、私自身では呪いを生み出す事は出来ませんが。既に存在する呪いを別の人に擦り付けるくらいなら、意外と簡単に出来ますよ」


『サラッと怖い事言わないで』


「あとは、マカ王のストレージの様に、無理やり次の人に中身ごと引き継ぐ事も出来ますね」


「あれは、別のギフトを使って無理矢理引き継いでいるだけだ・・・それがどうかしたのか?」


「いえ、つまり、マカ王の死と同時に、ギフトの効力が切れてナオ殿が戻れる可能性があります」


『僕が一緒に死ぬ可能性は?』


「それもありますね。あと、実はナオ君が向こうの世界で死んでしまっているとか、マカ王の持つ記憶とギフト一緒にナオ君も次の王に引き継がれるとかでしょうか?」


『アートさん、できれば僕が既に死んでいた設定は考えたくないです』


「わかりました・・・つまり、こういうことです。

 パターンA マカ王と一緒に死ぬ

 パターンB マカ王が死んで、ナオ君が元の世界に戻る

 パターンC マカ王が死んで、次の王にナオ君が引き継がれる

・・・こんなところでしょうか?」


『一緒に死ぬか、帰れるか、次の王様と一緒か・・・この3種類の可能性?』


「まあ、可能性だけで言えば何でも言えますよ。例えばナオ君が帰る時に、今度はマカ王を引っぱって連れて行ってしまうなんてどうですか?」


『パターンD・・・今みたいだね?』


「その時はマカ王とナオ殿の立場が逆になりますね」


「その時は、ナオ、何かうまいモノでも食べさせてくれ」


『それは良いけど、僕は未成年だからお酒はダメだからね。マカがお酒を飲んだ時、僕まで気持ち悪くなったんだから気を付けてね』


「しょうがない、酒はナオが成人するまで我慢するよ」






《》ナオの声(マカだけに聞こえる)

〖〗マカの声(ナオだけに聞こえる)です。


※歌劇『マーク王子と水の精霊の愛し子ローナの物語』

劇作家がモデルになった人物から、登場人物の名前を変えて脚本を書いております。


※この頃になると、ナオはマカの身体で不自由なく動けるようになっていて。口に出さずに会話出来る様になっています。

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