第5話 ねじこまれたモノ

〖マカ〗


ナオの言葉を借りると・・・


エルフの国の無表情イケメン王と天然国宝級美少女王妃の二人は、

ここに滞在している間に、何度か訪ねて来てくれた。


そして、先ほど国元への出立前に、わざわざ挨拶に来てくれたというのに・・・


二人の甘い雰囲気は、ナオの心を容赦なく切り刻んだ。







『イケメンなんて・・・爆発すればいいのに・・・』


「ナオ、ちゃんと王妃の姉君を紹介してもらう約束はしたのだろう?」


『そうなんだけど、なんか今は連絡がとれないらしい。どんな人かな?』


「私の聞いた話では、あの王妃によく似ているらしい」


『そうなんだ・・・それはもう間違いなく、美少女だね』


「それにエルフの、中々の実力者だと聞いている」


『えっ?・・・戦士なの? 魔法使いとか僧侶じゃ無くて?』


「いや、前にも言ったと思うが魔法なんて無いからな。それよりも・・・どういう脈絡で、僧侶なんて言葉が出て来たんだ?」


『回復魔法は無いからギフト・・・あれっ? 【ヒール】が使えるならマカって僧侶枠? それとも賢者枠?』


「ナオ、気を付けろ。今、不用意にギフトが発動したぞ。僧侶というか神官なら、光輝神ルキクフを信仰している連中が教会を作って、よくわからん教義を広めているな」


光輝神ルキクフって、やっぱり光の神様? なんかカッコイイね』


次元神メザキユを封印するのに手を抜いて、今も寝てるけどな」


『じゃあ、手を抜いたのって光輝神ルキクフなの? その信仰している人たちはその事を知らないのかな?』


「それどころか、今は寝てることも知らないんじゃないか? 光輝神ルキクフの寝言を神官が聞いて、『神託が下りました』とか言って信者に広めたら面白そうだ」


『甘いモノが食べたい・・・とか? 信者に買い占められて、町から甘い物が消えそうだね』


「ナオ・・・それは良い手だな? それを使ってオーランドの特産品をあいつらに買い占めさせよう」


『マカ、オーランドの特産品ってなんだっけ?』


「オーランド・ハニー あの蜜菓子に使われている蜂蜜さ。後はどの方法を使って神託をでっちあげるかだな。よしっ!! アートにも手伝わせよう」


『僕には見えないけど、きっとマカ・・・すっごく悪そうな顔をしてるよね?』


「いやだな、今年採取できたオーランド・ハニーの量がチョット多いみたいなんだ。

国民の為に何か考えるのは、国王として当然の事じゃないか・・・ガッ!!」


『なっ!!』







・・・それは突然だった。


いつのも3時間ごとに訪れる呪いとは、関係の無いタイミングで

まるで不意打ちするかのように・・・


私の頭に何かが痛みが走り、身体が反射的に玉座から離れようとして、そのまま床に倒れこんだ。


『マカ・・・これ、いつもの呪い・・・じゃないね・・・頭の中だけが、すっごい痛い・・・これ何?』


「わからん・・・何かが無理矢理ギフトの・・・それもストレージの中に・・・ねじこんできた」


『ストレージの中に・・・ねじ込む? そんな事・・・出来るの?』


「少なくとも・・・こんなバカげた事は、ヒトには・・・不可能だろうな」




あまりの激痛にギフトを使う事も出来ず、ただ床を転がりながら痛みを耐えるしかなかった。どれくらいの時間が経ったのだろう・・・その痛みは、始まった時と同じように、唐突に終わりを告げた。


「ナオ、大丈夫か? しかし、これは・・・頭が割れるかとおもったよ」


『うん、僕もこれまでで一番痛かった。一体なんだったの?』


「いや・・・わからん。ストレージの中に莫大な量のナニカを無理矢理ねじ込んで行ったあげく、最後に目録を焼き付けて行きやがった。目録付の大量のプレゼントみたいだな」


『こんな痛いプレゼントいらない』


「まったく同感だが、いったい何をプレゼントされたのか? とりあえず・・・この焼き付けられた目録から1つ出してみようか」





【ストレージ】 ヴォン♬


出てきたのは、僕がテレビや映画で見た事があるものの、

近くでは見た事の無い圧迫感の塊・・・

それが石の床を砕くような音と共に目の前に現れた。


「なんだ・・・・これは?」


『マカ・・・なんで・・・こんなモノが、にあるの?』


大きな鈍色の箱の上に薄い箱が乗っていて、その側面から1本の太い棒が突き出している。


「ナオ? これが何か、知っているのか?」


『多分、僕のいた世界の兵器で・・・戦車だと思う』


「ナオの世界? まさか、これが次元神メザキユのオモチャ箱か?」


『あの、死ぬ間際に自慢してくるアレ? ねえ、マカ。これが本当に僕の世界の兵器だとすると『地上を何度も滅ぼせる』が真実味を帯びてくるんだけど』


「わからんが、何かおぞましい魂胆がありそうだ。とりあえずアートを呼ぼう」







謁見の間にやってきたアートさんに、コレがおそらく僕の世界の兵器戦車であること。僕の世界では、地上を何度か滅ぼせる程の兵器が存在する事を説明した。


「マカ王、なんと言うか・・・あののおぞましい魂胆が見えて来た気がするのですが、私の予想を話させてもらっても良いですか?」


「正直、聞きたくないが、他に聞ける人間も無いな・・・頼む」


「おそらくですが、マカ王のストレージの中に入れておいて、マカ王の死と同時に、オモチャ箱の中身をこの地上にばら撒くつもりでしょうな」


「つまり、なんらかの方法で、次元神メザキユ自身が封印を破って出て来る準備が整ったというわけか?」


「それがマカ王の死か、それとも次代の王の死のタイミングを狙ってかは、わかりませんが。いや・・・違いますね。これはマカ王の死に合わせて出て来る可能性が高いです」


「どうして・・・そう考える?」


「マカ王の中に目録があると言う事は、もう説明も自慢話もするつもりは無いということです。そして、マカ王の死と共にストレージの中身をぶちまけるつもりなら、次の王にストレージを引き継がせない方法も見つけてあるかもしれません」


「これは・・・自慢話を聞く必要は無くなったが、次元神メザキユ本人が私の目の前に現れるかもしれないな」


『耳元で聞かされるのもヤダけど、対面で聞かされるはもっと嫌だね』






「・・・ところで、アート。この戦車が壊した床の事は、どうやって説明したらよいと思う?」


「マカ王、私は呪いの研究者です。その件には力になれそうになりません。では」


アートのヤツ、まるで逃げるように謁見の間から出て行きやがった・・・






深夜・・・


「マカ王、起きていらっしゃいますか?」


「アートか? 私はな。ナオなら眠っているぞ」


「その時間を狙っておりました。実は一つ案がございましてな」


「ナオに内緒でか?」


「ええ、クソ野郎の思惑を外す方法を・・・ナオ君は絶対に嫌がりそうですが」


「それは、面白そうだ。それで?」


「はい、ナオ君には色々と説明しましたが。実際にはパターンB、王が亡くなられた時にギフトが解除されて、ナオ君が向こうの世界に戻るというのが一番可能性が高いと思われます。ですので、マカ王のストレージを、あの忌まわしいオモチャ箱ごと異世界に送ってしまいませんか?」


「おい、さすがにそれは・・・」


「引き継いだ結果、パターンAなら、お二人共亡くなっていて手の出しようが有りませんし、クソ野郎が封印から這い出してくれば、どの道我々は終わりです。もしパターンCだった場合は、ナオ君と次の王に何とかしてもらいましょう」


「子供に・・・厄災の詰まった箱を渡す事になるぞ」


「まあナオ君なら、その箱の中身をむやみにばら撒く事はしないでしょう」


「それも・・・そうか? しかし・・・」


「なにより、あのクソ野郎がドヤ顔で出てきても、大事なオモチャ箱はナオ君と一緒に別の世界なんて・・・クククッ・・・大笑いではないですか。次元神メザキユがどんな顔をしているかはしりませんが、そのドヤ顔が見事に歪むのだけは見てみたいですな」


「しかし、本当に次元神メザキユが出て来るのか? 光輝神ルキクフの封印を破って?」


「さあ、最近は光輝神ルキクフを崇拝する教会が増えて来ましたが。マカ王、まさか封印に手を抜いたあげく、惰眠を貪っている神を当てにするんですか?」


「まあ、私も神になど祈った事は無いからな。今まで通り祈りは水の精霊に捧げるとするさ」


「マカ王とあの方の縁結びをしてくれた精霊ですな? それなら寝ている神よりは、よほど当てになるでしょう。それではマカ王、ストレージのナオ君への引継ぎをお願いしますぞ」


「ああ、今夜のうちにやっておくよ・・・ナオは嫌がりそうだがね。

まあ、詫び代わりだ。ストレージの中に、ナオの好きな蜜菓子も入れておいてやろう」

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