第2部 第32話 黒い・・・なんだコレ?
枝や葉っぱで大雑把に隠された
陽が落ちてしばらくは、馬の
「ナオ様、こちら側に灯りが近づいてきます。誰か来たみたいです」
「まさか、町の方で何かあったのかな?」
「いえ、ゆっくり歩いてますので違うと思います。3人ですね、灯りを持って、
あっ・・・今、灯りを隠しました」
「ドノガンさんには、あれだけ危険だと念押ししたのに。どういう事だろう?」
「どうやら、子供のようじゃの」
「子供か・・・あぶないね、でも保護するにしても・・・」
今、ブラッドレーの兵員室には僕を含めて5人。ここに子供とはいえ3人も入れたら身動きが取れなくなる。
「とりあえず、救急車ハンヴィーの後部席に呼んで話を聞いてみるよ。
すまないけど外に出るから、何かあったら援護をお願いするね」
「わらわも行こう」「ナオ様、私も行きます」
ミラセアがM4カービンを、ミーラがMAC10という
後部ハッチから外に出て
【ストレージ】 ヴォン♬
いつもの救急車ハンヴィーを取り出した。
ミラセアが運転席に乗ってエンジンを始動、子供達のいる方に向きを変えてから
ヘッドライトを点灯させる。
「そこな3人、隠れておるのはわかっておる。さっさと出て来い」
隠れているつもりなんだろうけど、3人の
「なんじゃ、立てんのか? それとも、このまま踏みつぶして欲しいのか?」
ようやく、立ち上がった子供達はキーラより少し年下だろうか?
少年が3人、3人共腰に短い剣を着けている。
「ねえ、君達。ギルドマスターには危ないから絶対に来ないようにお願いしてたんだけど、何しに来たのかな?」
「・・・・・・・」 だんまりか・・・
ハンヴィーの後部ハッチを開く
「とりあえず、そこに居ると危ない、この中に入ってくれるかな?」
「ナオ様、まずは腰の剣を渡してもらいましょう。剣を外してこちらに投げなさい」
ミーラがMAC10を少年に向ける、銃の事は分からなくても、ミーラの声に潜む冷たさとハンヴィーのヘッドライトに怯えたのか、あわてて剣を外してこちらに投げて来た。
少年たちが投げた剣を僕が集めて、先にハッチの中に乗り込む。
後から入って来た少年3人を並んで座らせ、
最後にミーラが入ってきて、ハッチを閉めてくれた。
「え~と、僕はナオ、冒険者ランクA、このカリキュレーターのリーダーをしている。君達の名前は?」
「俺はホーバン、こっちはコートン、それから、こいつはガラダン」
赤茶の髪の生意気そうな男の子が、濃紺の髪の大人しそうな子と灰色の髪の真面目そうな子を紹介してくれた。
「それで、君達、ここに何をしに来たの?」
「何をって、コートンの所の馬小屋が襲われたんだろ? 来た冒険者はヒョロイ兄ちゃんと後はお姉ちゃんばっかりだし、それなら俺達が襲った奴に一太刀喰らわせてやるつもりできたんだ」
なんとも勇ましい話だが、これって、馬泥棒か何かと勘違いしてないか?
「ちょっと待って、まだ、その襲った奴が何か分からないけど、そいつは少なくともワイバーンを殺せるんだよ。君達はあの剣でワイバーンを殺せるのかな?」
「ヒョロイ兄ちゃん、ワイバーンって・・・何?」
やっぱりか・・・
「サキさん、聞こえる? どうやら、ここが危ないことを知らずに来たみたいだ。これからサーサンタに送り届けてくるよ」
ヒィ―――ン
突然の馬の暴れる声と音が外から聞こえてきた。
『赤外線サーチライト、点灯!!』
『ナニあの生き物? クレイモア、点火』
スピーカーの向こうで、カチカチカチと音がして、外から何かの破裂音が聞こえる。
メキッ パキッ
・・・ところが、その破裂音とほぼ同時に、僕の、すぐ頭の上で何かが踏みつぶされるような音がして、ハンヴィーの車体が縦に揺れた
『長谷川さん、ハンヴィーの上に何かが2体降りてきたよ』
『綾女、
『椿、砲塔動かすよ』
『了解、長谷川っち、危ないから伏せててくれる?』
無線からの声を聞いて、ミーラが濃紺と灰色の髪の子を床に引き倒した。僕も赤茶の髪の子の肩を掴んで屈みこむ。
外で銃の連射音が響いて、僕のすぐ上の天井が軋んでいる。ここは覗き窓一つ無い箱の中なので、外で何が起こっているか見えなくて非常に怖い。
銃声が途絶えたのに、天井の軋む音は断続的に続いている。
「・・・何か、まだ上で動いてるみたいだけど?」
『長谷川っち、1体ハンヴィーの屋根に引っかかってもがいてる。ハンヴィーの装甲があるから、コレは撃っても良いのかな?』
「早乙女さん、撃つのをやめてくれてありがとう。ミラセア、そっちは無事?」
「こっちは大丈夫じゃ、椿よ、そこから見て、ハンヴィーの周りに何かおるかな?」
『ここからは見た感じだと何もいないよ』
「わかった、ならば屋根の上はわらわがトドメをさしておこう」
聞き慣れたM4カービンの連射音の後、天井の軋みがピタリと止まった。
ハンヴィーの中で聞こえるのは無線の声だけになっていた。
『馬の周辺にも動くモノはもういないみたい。綾女、そっちは?』
『2体、ハンヴィーの屋根の上に、羽の生えた人影みたいなのが見えたけど、どっちも機銃が当たっているわ、1体だけ屋根に引っかかったままね』
『しかし、まさかハンヴィーの上に直接降りてくるとは・・・』
『どうする紗希ちゃん、降りて死体を確認しておく?』
『紗希、いつ次の襲撃が来るかわからないから、それは止めておきましょう。さっきだってハンヴィーの上に降りられるまで、誰も接近に気が付けなかったのよ。死体の確認は夜が明けてからの方がいいわ』
『それもそうね、じゃあ朝まで交代で見張って、外の死体の確認は外が明るくなってからね』
「えっと、ヒョロイ兄ちゃん、俺達は?」
「このハンヴィーに乗せて町まで連れて帰ろうと思ってたんだけど、上に余計な荷物が乗ったままみたいだね。外が明るくなって上の荷物を降ろすまで、ここで我慢してもらおうか?」
翌朝、各自銃を持って警戒しながら外に出てみると・・・
ハンヴィーの上に1体と横に1体、馬の死体の傍には5体の、黒いナニカの死体があった。
少年たちも気持ち悪そうに黒い死体を眺めている。
「ヒョロイ兄ちゃん・・・あれ、何?」
見た目の印象を、そのまま口にすると・・・
「全長2mの人型、コウモリみたいなツバサと、鋭いかぎ爪に尖った大きな耳を持った、黒い悪魔?」
「ナオ、お主の世界には、こんな生き物がおるのか?」
「いや、いないよ。伝説とか、空想の生き物とかかな?」
「どうでしょうか、伝説だとこんな筋肉質では無くて、貧相なくらい痩せてたり、だらしなく太ってたりしますけど」
「ナオ、これ、口はあるけど、眼、無い」
キーラが、その生き物の口を開けて見せてくれる。黒い頭部にある、大きな裂け目のような口の中にはサメみたいな鋭い歯が幾重にも並んでいる。大きく尖った耳と裂けた口以外何も無い黒いヌメヌメとした頭部が異様に見えた。
「かなり気持ち悪いけど、しょうがない、持って帰ろう」
【ストレージ】 ヴォン♬
そして、持って帰って来た、サーサンタギルド。
まず、3人の少年を引き渡しにいくと、
あのドノガンさんが、鬼のような顔で腕を組んで立っていた。
「ホーバン・・・ガラダン・・・コートン・・・」
「叔父さん」「お父さん」「ドノガンおじさん」
ああ、この中の一人はドノガンさんの息子なのか。
「私が叱るのは一番最後にさせてもらった」
「叔父さん、さ・・・最後って?」
「他の2人を、何日も待たせるわけにはいかないからな・・・・連れて行け」
屈強なドワーフ達に連れられ、馬車に乗せられる3人の少年達
「に・・・兄ちゃん、助けて~」
「ほら、僕は、ヒョロイ兄ちゃんだからね。君達を助けるなんて無理なんだ、ゴメンな少年達」
その後の数十分にも及ぶ、ドノガンさんの謝罪の後、やっと、あの黒い生き物の話をはじめる事ができた。
【ストレージ】 ヴォン♬
ギルドの裏で、ドノガンさんに見せる為に、黒いナニカの死体を7体とも出す。
「・・・呪姫さま・・・これは何でしょうか?」
「わらわに聞かれてもな、すまぬが、こんな奇怪な生き物を見たのは初めてじゃ」
「そうなのですか?」
「ドノガンさん、これから、ギルドはどう対応されるんですか?」
「そうですな・・・呪姫さま、この奇妙な生き物ですが、他にも数多く、たとえば数十とか百を超える数がいると思われますか?」
「どうじゃろうな。今の所、襲われたのはワイバーンが1頭と馬が合計3頭か?
昨夜、この7体が襲ってきた後の増援が無かったことから考えれば、それほどの数はおらんと思うが、どうかな?」
「はい、この近辺の冒険者からの情報からも、あのワイバーン以外は大型動物の死体等の情報も入っておりません。絶対とは言い切れませんが、それほど数が多い生き物とは考えにくいですね」
「まあ、警戒を緩めるわけにはいかんが、おそらくそうじゃろうな」
「では、当分は夜間の外出禁止を徹底して、昼間の内にこの黒い生き物の捜索を行います」
「そうか、我らは正直探索には向かんと思うが、どうして欲しい?」
「差支えなければ、万が一の夜襲に備えて、明日の朝までこのサーサンタに滞在していただけますか?
あの黒い死体は、調査を担当する冒険者に説明するのに1体だけ残しておいて頂いて、残りは王都に持って行って頂けるとありがたいです」
「わかりました、お預かりします」
【ストレージ】 ヴォン♬
比較的状態の良い1体を残して、他は全てストレージに回収する。
「この件は、中央ギルドと王宮に報告しなければなりません。
すぐに中央ギルドマスター宛てに説明の手紙を書きますので、
ドラゴンスレイヤー殿、どうかよろしくお願いします」
「ええ、それも、預かります」
「あと、重ねてお願いがあります。今回の報酬ですが私の一存では決められません。ですので、とりあえずワイバーンに予定していた報酬を受け取って頂いて、この件の報酬については中央ギルドに問い合わせていただけますでしょうか?」
「わかりました、そちらも王都ギルドで相談ですね」
こうして、翌朝。僕達はドノガンさんに託された手紙と共に、王都に戻る事になった。
「ねえ、ミラセア、変な事を聞くんだけどいいかな?」
「なんじゃ?」
「いや、あのドノガンさんの子供がキーラ位の身長だったんだけど、
あの子達、これからドノガンさんみたいに大きくなるのかな?」
「おお、詳しくは知らんが別人のように変わりよるぞ。
『エルフは変わらず驚かれ、ドワーフは変わって驚かれ』だそうじゃ」
※救急車タイプのハンヴィーM996ですが、後部は装甲で囲まれた箱状になっていて窓はありません。後部に両開きのハッチドアとステップ、両サイドに小さな両開きのドア、運転席と後席を行き来出来る小さなドアがあります。
中のシートは向かい合わせに3人掛けのベンチシートが2つです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます