第2部 第33話 王冠に刻まれし謎

アイロガ王国、王都オリハガーダ、中央ギルド


ワイバーン退治に行ったつもりが、黒いナニカと遭遇する事になった僕達。


「冒険者ランクA、カリキュレーターのナオです、サーサンタのギルドマスター、ドノガンさんから手紙を預かってきました、至急、ここのギルドマスターに会わせてもらえますか?」


受付で手紙を渡してしばらくすると、ギルドの裏に案内された。






初めて見る灰色の髪のいかついドワーフとその隣には・・・ウーバン王?


「ナオ殿、ちょうどギルドに来ていたんだ。黒い、よくわからない生き物の被害が出たと聞いたんだが?」


「俺が、ギルドマスターのボーダンだ。その黒いのとやらを見せて貰っていいかな?」


「わかりました」


【ストレージ】 ヴォン♬


あの黒い生き物、残り6体を全て取り出す。





ボーダンさんが、何か紙を見ながら、他の職員と一緒に黒い生き物を調べている


「黒い人型、コウモリのような大きな翼、尖った大きな耳、大きな口で眼が無い・・・か、ドノガンの手紙の通りだな。すまないが、追加報酬については王宮と相談してから連絡させてもらう」


「そうだな、王宮ウチからも専門家を呼んで、この生き物を調べるとしよう。それと、サーサンタの町にも調査員を送らなければならないな」


「中央ギルドからも調査を得意とする冒険者パーティーを何組か送る事にするよ」


「ウーバン王、ギルドマスター、馬だけでなくワイバーンまで襲う相手です。どうか、慎重に調査するようお願いします」


「ああ、もちろんだ。それからナオ殿、筆頭鍛冶師カーダン刻印術研究者オリウムドラム殿が王宮で待っているようだ。私も、ギルドマスターとの話を終えたら王宮に戻るから、一緒に行こう」






王宮に到着した僕とミラセアは他のメンバーと別れ、ウーバン王と一緒に

再びあの地下の部屋に降りて行った。


あの部屋の中には筆頭鍛冶師カーダン、そして満ち足りた表情の刻印術研究者オリウムさんが待っていた。


「伯母上、あの王冠に刻まれた刻印術エグノスを一通り確認、解析してみました。

いや~、あれだけ楽しめたのは久しぶりです」


「・・・お主の感想はどうでもよい。それで、どうじゃった、何かわかったのか?」


「はい、聞いてください。まず、あの王冠に刻まれていた刻印術エグノスは見事な物でしたが、あれだけでは刻印術エグノスは成立しません。おそらく、この王冠のすぐ近くに、もっと大規模な刻印術エグノスが刻まれていたはずです」


「そうなると・・・凶王の王宮の中か?」


「おそらくもっと狭い範囲ですね。それこそこの王冠を被ったままで、人が触れる事が出来る位の距離だと思います。伯母上、これがどういう刻印術エグノスなのか調べる為に、是非ともその王宮に行きたいです」


「おまえは話を端折り過ぎだ。今分かっている事だけでも伝えようとは思わんのか?」


筆頭鍛冶師カーダン殿?」


「呪姫殿、他にもこのエルフ殿が色々と教えてくれたぞ。あの柱が意味の無いモノであったこともな」


「それは、どういう事じゃ?」


「いや、伯母上。別に意味が無いとは言っていないです。ただ、この王冠に刻まれた刻印術エグノスには、勝手に動いたりとか、誰かを操ったりといった面白そうな機能は欠片も見つからなかったんですよ。もしかしたらその王宮の刻印術エグノスと組み合わせれば、あの柱が必要になるような刻印術エグノスが成立するのかもしれません」


「つまり、この柱を立てたドワーフは、王冠に刻まれた刻印術エグノスを読み解く事はできなくても、この王冠がどういうモノかを知っていた事になるのか?」


「この柱の意味も、その王宮跡にある残りの刻印術エグノスの解析さえ出来れば、ある程度分かるはずです。伯母上おばうえ、もちろん行きますよね?」


筆頭鍛冶師は非常に渋い顔で、制止しようと説得している。

「何度も言ったが、あの凶王の王宮に行かなければならんのだぞ。死の呪いの影響がどこに残っておるかもわからん場所に・・・わかっているのか?」


「何を言うかと思えば。こんな素晴らしい刻印術エグノスを見せられて、中途半端な所で終わらせるわけにはいかないだろう? ここで行かなければ、それこそ気になって眠れなくなるぞ」


「どうせ、刻印術エグノスの事となるとろくに眠っておらんではないか。それにまだ刻印術エグノスの全ての資料は届いておらんのだぞ、行くなら我らに刻印術エグノスの解説を全て終えてからにしてくれ」


「バカを言うな、そんな事をしたらあの王宮に行けるのが十年後になってしまう」


「すまぬが、筆頭鍛冶師殿、そこまでは待てぬ。こやつは連れて行くぞ」


「ありがとうございます伯母上、そういえば刻印の中に文字が隠されておりました。作者の銘ではありませんでしたので、おそらく、この王冠に与えられた名だと思います」


「王冠の名じゃと?」


「はい、この王冠の名は”うつわ王冠おうかん”・・・そう名付けられていたみたいですね」






こうして僕達はオリウムさんと共に、準備が出来次第この王都を出て、滅びた凶王の国に向けて旅立つことになった。


明日からはその準備だ。その事をみんなに伝えようと、ミラセアと2人地上への階段を登っていく。


「ミラセア、凶王の国へ行くには。ここからサウラタの町を経由して北に向かうんだよね?」


「元々、サウラタの町は、凶王の治めていた国、オーランドの地方都市じゃったからの。あの事件の後で皇国に組み込まれたのじゃ」



「ミラセアは、そのオーランドの王宮に調査にいったんだよね?」


「そうじゃよ、そういえばあの都に向かう途中、都から逃げる大勢の避難民に出会ったのう。街道が避難する人々で埋まっておって、都への移動が大変じゃった」


「そんな事があったんだ・・・まあ今回は慌てずに安全に行こうか。でもミラセア、よくわからないけど、王都って呪われてなんでしょ? どうやって入ったの?」


「いや、呪いだと分かったのは、突入する少し前じゃ。増援の我らが到着した時も、まだ何が起きたのか分かってはおらなんだ。王宮内でクーデターだとか毒物が撒かれたとか、色々な憶測が飛び交っておった」


「そうなんだ、なんで呪いだったわかったの?」


「先に到着した部隊もな、逃げて来た住民からそういった色々なウワサを聞いて、警戒して外から王宮を見張っておったのじゃが、いきなり黒いドームが現れたそうじゃ」


「黒い・・・ドーム?」


「ああ、王宮を包むようにな。それはしばらくするとはじけるように消えてしまい、その3日後に再び、前よりも大きなドームが現れた」


「もしかして、どんどん大きくなっていったの?」


「そうじゃ、その黒いドームを調べる為に、あの蜃竜の時と同じように黒いドームの中に縄を付けた家畜を追い込んで確かめたのじゃ」


「あの方法って、前からやってたんだ」


「まあ、そうじゃな。黒いドームの中に入ったその家畜は黒い靄に包まれて倒れ、ドームから引きずり出したが、ほどなく崩れ落ちて消えてしまったよ」


「呪いって崩れて消えてしまうんだ・・・凶悪だね」


「何故か、わらわだけは死ななんだが。ドームが消えた後であれば、その場所に追い込んでも家畜は生きていたのでな。ドームの中心と思われる王宮の奥を探る為、12組の捜索隊が組まれ、わらわ達は、その中の1組じゃった。ドームが消えたタイミングで、わらわ達3人は王宮に突入したのじゃよ」


「そうだったんだ」


「あとは、王宮の奥で、玉座に座る黒い人の様な影を見つけたわけじゃ」


「先王様にも言ってたけど、その人影とは話も出来なかったんだよね?」


「ああ、一緒におったヒト種の戦士ソレガノ。奴が話しかけたら、いきなり黒いナニカを飛ばしてきて、あやつが転げながら避けていたのを憶えておるよ」


「いきなり攻撃してきたんだね」


「ああ、次にドワーフの戦士オレハンが狙われ、その隙にわらわは剣を手に突っ込んだのじゃが、剣を突き刺したのと同時に攻撃されて避けられなかった。その攻撃で気を失って、その後の事は憶えておらんな」


「今回は、その玉座まで行く事になるんだけど。ミラセア、大丈夫?」


「それよりも、オーランの王宮に辿り着くまでが大変じゃぞ。街道も無い荒れ地を行くわけじゃから、さて、たどり着くまで何日かかるか」


「・・・街道って、残って無いんだっけ?」


「1000年じゃぞ、残っている方がおかしい」


「じゃあ、途中で補給は?」


「サウラタを出れば、補給できるのは、おそらく・・・水くらいじゃな」


「それはマズイ・・・いそいで準備しないと」


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