第2部 第34話 凶王の国へ

目的地である凶王の国の王宮に行くためには、まずはこのアイロガの王都を出て、

国境を越えて皇国内の町サウラタに。そこからは北・・・


サウラタから北に向かえば、その先にはもう人の住む町や集落は無い。

その為の準備を万全にしないといけないんだけど・・・


そもそも、水は船旅の時から樽入りで大量に準備しているし、食料は保存食MREとキーラに強請ねだられるまま買った屋台の品が大量に入っている。天幕と寝袋はあるし、後は何が必要なんだろう?


「長谷川さん、この試作品のシャワーブース5台、すみませんがストレージにお願いします」


「長谷川さん、今回はハンヴィー2台で行くんですよね。念の為に両方共給油しておきますから、タンクトラックを出してくれませんか?」


「みんな、試作品のイヤーマフ持ってきたの、キーラちゃんとミーラちゃんには皮の帽子型だけど使って見てくれる?」


「長谷川っち、この機会に保存食MREの試食会やりたいね」


「ナオさん、すみませんが、この刻印術エグノスの資料と複写用の器具一式もストレージに入れておいて頂けますか?」


そう、今回はオリウムさんを含めたで行く事になる。


しかも、初めて、自分達だけでの野外宿泊キャンプだ。





その準備の最中、僕はキーラに手を引かれて、ミラセアとミーラと共にオリハガーダの街中を歩いていた。


「キーラ、何か大事なモノを買いたいって・・・何?」


「こっち、とっても大事なモノ」





そう言われて連れて行かれたのは、一件の屋台の前


「オジサン、串焼き100個、ナオが払う」


屋台に並んでいるのはの串焼きだ。僕の握りこぶしより大きな肉が5個、とても串とは言えない棒に刺さっている。


肉を焼いているドワーフのオジサンが、僕をギロリと睨んだ。


「100本なんて、すぐには焼けない。冷やかしは止めてもらおうか?」


キーラを見ると、キラキラした目でコッチを見ている。


僕はオジサンに金貨を1枚差し出して、祈るように声を絞り出した。


「すみません、串焼きを100本お願いします。焼きあがった串焼きは、この子達に2本づつ渡してもらえますか? キーラ、ミーラ、僕は向こうで受け取るから焼けたら持って来てくれるかな?」


「わらわも手伝おう、それなら6本運べる。あるじよ、良いかな?」


「これは・・・呪姫さまでしたか、失礼をいたしました」


それから、およそ2時間。僕は物陰でストレージを出しっぱなしにしたまま、次々に串焼きを放り込む作業をしていた。





「ナオ、ありがと」


「キーラ、君だけの分じゃないからね。ちゃんとミーラと分けるんだよ」


「ん」


「ナオ様、ありがとうございます」


「しかし、キーラ。いくらなんでも100本は、多すぎると思うよ」


「これだけあれば、キーラ、2ヶ月大丈夫」


「いやいや、キーラ、誰が2ヶ月なんて言ったの? いくらなんでも2ヶ月はかからないよ。船で別の大陸に行く訳じゃ無いんだから」






キーラには、そう言ったものの・・・


僕の目の前に整然と並ぶのは、あの後、王都中を歩いて注文し、王宮の中庭に集めてもらった大量の樽と木箱の姿・・・・・・


「ナオよ、お主こそ、いったい何ケ月分の食料と水をストレージに入れて行くつもりじゃ?」


「ごめん、キーラを見てたら、僕もちょっと心配になってきて・・・あくまで念の為だから気にしないで」


そして、過剰ともいえる準備を終えた僕達は、滅びた凶王の国に向かって出発した。






いつものようにサウラタの町に1泊した僕達は、2台のハンヴィーに分乗して僅かに残る街道跡の辿って北上を始めた・・・ものの、すぐに街道跡などまったく見えなくなってしまった。


今は、ハンヴィーのボンネット程の高さの草が生い茂る中を、ゆっくりと進んでいく。


「ミラセア、方向はこれで合ってる?」


「ああ、方向は間違えてはないが気を付けよ。確か近くに湿地があった気がする」


「一条さん、後ろは大丈夫?」


『こっちは大丈夫、それよりも、さっきみたいに熊と鉢合わせするかもしれないから、運転手ドライバー以外は銃を手放さないで』


そう、さっきは、いきなりメインベアに出くわして、ミラセアがM4カービンで追い払っていた。


「ねえ、サキさん」


『どうしたの、長谷川さん?』


とても、人が普通には歩けそうに無い草むらというか、茂みの中をゆっくりとハンヴィーが進んで行く・・・


「いや、この調子だと、あのシャワーブースを使えるような場所が無いような気がするんだけど」


『長谷川さん、大丈夫だよ。で何往復かすれば場所なんてすぐに造れるから』


「・・・重たい車両って?」


『えっと・・・架橋戦車・・・とか?』


ああ、あの当面使い道の無さそうな橋を架ける為の戦車だね。でもあれって・・・


『紗希ちゃん、それ、後方排気で火事が起きそうだから、やめたほうが良いと思う』


「まあ、ナオよ。泊まる場所の周囲まわりひらけた状態にして、中央で火でも焚けば、動物除けになるのではないか?」


「それもそうか。サキさん、とりあえず場所が決まったら、このハンヴィーで往復してみる?」


『ハンヴィーだとさすがに軽すぎます、自走砲M109なら重さは10倍以上だから一発ですよ』


「何が1発か理解出来ないけど、とにかく自走砲M109を出したらいいんだね?」





【ストレージ】 ヴォン♬


そうして取り出した、もう見慣れた感のあるM109自走砲


「それじゃあ、真輝、お願いね」


「わかったけど、万一スタックしたら牽引を頼むよ」


「スタックしたら牽引するより、長谷川っちにストレージに入れて貰ったほうが早いんじゃない?」


「それもそうか、長谷川さん、その時はよろしくね」


実際にはスタックする事も無く、わずか十数分で踏みつぶされた低木や草の敷かれた広場が出来上がっていた。






「じゃあ、長谷川さん。この中央にシャワーブースを出してください」


【ストレージ】 ヴォン♬


取り出したのは、あのシャワーブース、見た感じは小さな盆踊りのやぐらかな?


「じゃあ、僕とオリウムさんは向こうのハンヴィーにいるから、周囲の警戒も含めてよろしくね」


こういう場所シャワーブースからは、なるべく早く離れるのが正解に決まっている。


「長谷川さん、ちょっと待ってくれますか?」


だから、離れた方がいいのに・・・


「どうしたの、サキさん?」


「いや、周囲の警戒をするのに、銃を出してもらおうかと・・・」


いや・・・皆さんの手に持ってるのは、間違いなく銃だと思うんですが?





「長谷川さん、この辺りは、何が出るか分からない。つまり、でも問題無いって事だよね」


「それに、他に人はいないから、船の上以上に撃ち放題」


「長谷川っち、つまり実用性皆無の銃でも・・・思いっきり、趣味に走っても良いって事だよね?」


早乙女さん、そもそも実用性皆無の銃って・・・なんですか?


「長谷川さん、私、H&KのG11が使いたいな」


「長谷川さん、L85出して、あまりに評判が悪いから一度使って見たかったんだ」


「長谷川っち、FA-MAS出して、アレも一度くらいは使っておかないと」


「H&K CAWSをお願いします。ああっ AA12が見つからないと思ったら、なんでこんな試作銃が入ってるの?」


「みんな、お願いだからちゃんと警戒してね。あと翌日に影響させない事と、十分に睡眠時間は確保する事」


「「「「了解!! 今夜はブルパップ祭りだ!!」」」」





言われたモノをストレージから出すと、今度はキーラに袖を引っ張られた。


「どうしたの、キーラ?」


「今日はボンレス・ポーク・チョップだった」


「・・・ああ、今日食べた保存食MREね。確かそんな名前だった。キーラはそれに串焼きを追加したんだっけ?」


「明日はグリルド・ビーフステーキ、明後日はチーズ・トルティーニ、明々後日はカントリー・キャプテン・チキン、全部串焼き乗せで」


「キーラ、保存食MREのメニュー、僕よりずっと詳しいね」




こうした、ドタバタが5日続いて、さすがに皆の顔に少し疲労が見えだした頃・・・


ミラセアが前方に見えてきた、妙にきれいな円錐形をした山を指さした。


「ようやく見えてきたの、ナオ、向こうに見えるあの山の麓が王都オーランがあったところじゃ」


そう、僕達はようやく凶王の国の王都にたどりついたんだ。






※スタック ここでは車両等がぬかるみにハマって動けない状態に使っています。


※H&K G11 以前第1部第18話で説明だけはさせて頂きました。

色々あって正式採用はされず、特殊な弾丸だけがマニアに高額で取引されているそうです。


※L85 イギリス製アサルトライフル 問題が多すぎる銃として有名です。

あまりに多いので、説明は避けさせて頂きます。


※FA-MAS フランス製アサルトライフル


※H&K CAWS H&W社が作った連射可能な試作ショットガン。某有名なAA12と違って特殊弾等は使用できません。


※ブルパップ 上記4種類の銃は全てブルパップ方式といわれる銃の全長を短くする為の方式が用いられています。

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