第2部 第29話 筆頭鍛冶師

王宮で僕達を出迎えてくれたのは、ウーバン王と・・・・


「ウーバン王、どいつが刻印術エグノスの研究者だ?」


白い髪と髭、そして鋭い眼をしたドワーフの老人だった。





しかし、その問いに、ウーバン王が答える事は無かった・・・

なぜなら、オリウムさんを見た途端、顔色を変えて大声で騒ぎだしたからだ。






「呪姫殿、どうして、ここにエリダルカラム王がいるんだ?」


「ウーバン王、良く見よ、別人じゃ。こやつはエリダルカラムの兄、オリウムドラムじゃよ」


「・・・ちょっと待て、まさか、刻印術エグノスの研究者というのは?」


「このオリウムドラムの事じゃな、いかにエルフと言えど、他に刻印術エグノスを研究しておる物好きなどおらんぞ」


「それでもエルフの王族に代わりは無いだろう?・・・いや、待ってくれ、オリウムドラム殿なら、エーライザル王国では王位継承権1位のはずだぞ? こう言ってはなんだが、本当にアイロガの秘密は守って貰えるのか?」


「こやつがエーライザルを出てから、もう30年近い。エリダルカラム本人からも聞いたが、近々、王位継承権から外れる事が発表されるそうだ」


オリウムさんが、それを聞いて心底嬉しそうな笑みを浮かべている。


伯母上おばうえ、それ本当ですか? エリダルカラムのヤツ、やっと決心してくれたか。これで安心して研究に専念できます」


「お主というヤツは、これだけ好き勝手やっておいて、どの口が言うのか・・・」


伯母上おばうえ? そうか、先王妃は確か呪姫様の妹姫でしたな」


「こやつといい、エリダルカラムといい、ひとの事を伯母上おばうえ伯母上おばうえとうるさいわ。ウーバン王、一応、本人には秘密にする事を約束させたぞ。ところで、そちらが筆頭鍛冶師殿か?」


「ああ、筆頭鍛冶師のカーダンだ。カーダン、こちらが呪姫様と刻印術の研究者オリウムドラム殿、そして、ドラゴンスレイヤーのナオ殿、キーラ殿、ミーラ殿だ」





白い髪と髭の老齢のドワーフが鋭い眼光でオリウムさんを睨みつけている。


「儂が筆頭鍛冶師をしているカーダンだ、刻印術の研究者とはあんたか?

本当に、エルフの刻印術の秘密をドワーフに見せるつもりなのか?」


警戒するカーダン老人に対して、オリムルさんは、特に気にした様子も無く。


「あなたが筆頭鍛冶師殿か? 皇国にあった刻印術の資料とエーライザルで集めた資料は、その内ここに届くから。それよりも刻印術だ、早く書き写して解析に取り掛かりたいんだが、どこにあるんだ?」


「自由に見ろだと?」


「ああ、見るのは構わないが、古い物も多いから扱いは慎重に頼む。当時の刻印術に使われた術具や工具も別便で来るが、そっちは使い方を説明するから触らないでもらえるかな?」


「使い方を説明するだと? 刻印術はエルフの秘術、かけがえのない宝であろう? 正気か?」


筆頭鍛冶師の言葉を聞いて、オリウムさんが視線を老鍛冶師に向けたまま、動きを止めた。


そして、鍛冶師の手を握って、滂沱ぼうだの涙を流し始める。


「良くぞ言ってくれた筆頭鍛冶師殿。そうなのだ、刻印術エグノスはエルフの秘術、かけがえのない宝なのだ。その宝が、今は使えないなどという、そんなくだらない理由で放置され消えて行こうとしていたんだ。こんな暴挙がゆるされるはずが無い」


オリムルさんが熱く語り出した・・・・


「どうせ、他のエルフには見向きもされない刻印術エグノス。他国に全ての情報が流出しても何の問題も無い。エーライザルの奴ら、何が古臭いカビの生えた刻印術だ、後で地団駄踏んで後悔するがいい」


オリムルさんが、ヒートアップしてきた・・・


「筆頭鍛冶師殿、どうか安心してくれ、エーラザイルの資料は全て私個人で集めた物だし、皇国の資料も私が正式に譲り受けた物だ。ただ、になるはずだから、保管場所の確保を頼みたい」


「・・・・どうやら正気・・・というか本気のようだな」


筆頭鍛冶師殿は完全に毒気を抜かれている。


「キーラ、ミーラ、これから王宮の地下に行くんだけど、ウーバン王との約束で君達は連れて行けないんだ。すまないけど、先にサキさん達と合流していてくれるかな?」


「ナオ殿、サキ殿なら、さっき中庭で見かけたぞ」


「ウーバン王、ありがとうございます。キーラ、ミーラ、後で行くってサキさん達に言っておいてくれる?」


「承知しました」「ん」




ウーバン王と筆頭鍛冶師、刻印術研究者と僕とミラセアは再び地下の、

あの部屋に案内された。


オリムルさんは、あの黒い柱には目もくれず、王冠に顔を近づけて、まばたききすらこらえて食い入るように見つめている。


「これほどのモノが、刻印術が失われたはずの2000年前にも作れたというのか? これはまさに奇跡としか言いようがない。筆頭鍛冶師殿、この王冠の材質は何だ? この色と質感は金に何を混ぜたと思う? この黒い石は?」


筆頭鍛冶師が懐から紙の束を取り出した。


「これを見てくれ、色の変化から推定した金に混ぜ込まれたと思われる金属のリストだ。黒い石は、同じモノに見えるが、どうやら3種類の石が使われている」


紙の束をめくりながら、オリウムさんが唸り出した。


「筆頭鍛冶師殿、金属の推定は難しそうだな。石の方は間違いなく刻印術との親和性を理由に選ばれているはずだ。数日中にここに届く資料にも、そういった記載があったはずだから確認してみてくれ」


「何? そんな資料が、あと数日で来るのか?」


「皇都の分は・・・だ。エーライザルには手紙で指示を出したから、全ての資料がここに到着するのは、おそらく1月ほど後になる」


「それならば、資料が到着するまでに資料用の部屋をいくつか空けさせねばならんな」


オリウムさんは筆頭鍛冶師と上手くやれそうだ。


「ウーバン王、ここは大丈夫のようですね。僕達はこれで戻ります」


「筆頭鍛冶師殿、オリウムドラムよ、何か分かったら教えてくれ」





地上に通じる階段を登りながら


「そういえば、僕、ギルドに顔出しするの忘れてた」


「この王宮に直接来たからの、皆に合流する前にギルドに行って来るか?」


「そうだね、外に車も出しっぱなしだから、あれで行ってこようか?」




王都オリハガーダの中央ギルドで、定番の挨拶をして。


「すみません、カリキュレーターのナオです、冒険者ランクA。

 先ほど、サウラタから到着しました。

 しばらく滞在する予定です」

 

「ドラゴンスレイヤーのナオ様ですね、ようこそ王都オリハガーダへ。

 が出ておりますが、いかがですか?」


まいった、この大陸に来てからワイバーン狩りはやってないのに

ギルドで僕達の情報が共有されているようだ。


「それはありがたいですね。是非、受けさせてもらいますよ」


こうして、急遽、ここアイロガでのワイバーン討伐を受ける事になった。

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