閑話 親方達の哀歌
これは、名も知らぬドワーフ達の挑戦の物語
その壱〖イヤーマフ〗
ウーバン王からの依頼で王宮に出向き、王から直々に最優先での対応を頼まれた。
「耳当てを作りたいんです。 音が聞こえないように」
俺は、それを聞いた時、
「そんなモノ、何に使うんだ?」
そう、聞き返した。
「大きな音が原因で、耳を傷めるんです」
ヒト族の娘の言葉が、よく解らなかった。
その娘も、俺の表情から、その事に気が付いたのか、
「実際に体験して貰った方が早いですね」
と俺達を移動する箱に乗せて、
よくわからんが、目の前に金属の光沢を残した、デカイ馬車みたいなモノが3台並んでいる。
「M109 1号砲 発射!!」
ど~~~~ん
耳の痛くなるような、でかい音が周囲に響き渡った。
「これより大きな音が近くで頻繁に起きるので、ヒト用と獣人用に耳栓として作って欲しいんです」
「ああ・・・よく解った」
よくわかったが・・・獣人用って、どうしたらいいんだ?
その弐〖ソフトケース・ハードケース〗
「武器を持ち歩くのに、宝飾品のように傷や衝撃から守りたい?
献上品の為の装飾した箱でも作るのか? すまないが、意味がわからない」
「最優先は、中のモノに衝撃を与えない事と、中のモノ同士がぶつからない事です。装飾は一切必要ありません。後は砂や埃が入らないようにとか、中の衝撃を吸収する緩衝材から細かいゴミが出ないようにしたいとか、なるべく軽く、なおかつコンパクトにまとめたいとか、まあ色々と注文はありますが、始めは分からなくて結構ですよ。まずは綿で包むようにして持ち運びますから、それから進化させて行きましょう」
・・・先は長そうだ。
その参〖マガジン・ローダー〗
「まがじんろーだー? なんだ・・・それは?」
そのヒト族の娘は、曲がった黒い箱と金属の筒のようなモノを取り出して。
「はい、このマガジンという、バネ付の箱に中に、この弾丸という決まった形の複数のモノをまとめて押し込むだけの道具です。構造自体はそれほど難しくないんですが、最終的に何種類か必要になるので。まずは一種類、
・・・みんな、すまん。ここが、どうやら一番わかりやすい依頼のようだ。
その肆〖簡易シャワー〗
俺の目の前に広げられた紙には、4本脚の奇妙な動物の絵が描かれている。
「この生き物が・・・何か聞いてもいいか?」
ヒト族の娘が、さも心外だといった態度で、動物の絵を指さしながら説明を始める。
「違うわよ。ここが樽で、これは樽を支える4本の脚、それで、4本の脚をぐるっと天幕で覆うのよ」
「つまり・・・大きな樽に4本の長い脚を付けて、脚の部分を天幕で覆いたい?」
「そう、樽には水を入れて、樽の底の板をずらすとか、どうにかして、一定の時間、雨の様に水滴が天幕の中に降り注ぐようにしたいの」
「どうにかして? そんな簡単な話じゃ無いような気がするが、これは何かの道具なのか? こんなモノ、いったい何に使うんだ?」
「
「・・・旅行って、旅に、そんなデカイモノを持って行けるのか? 1個積めば、馬車の荷台が半分埋まるんじゃないか?」
「何言ってるの? 2ヶ月の船旅用だから。3日に1回に我慢したとしても
20個、いや30個は同じモノを作ってもらうつもりだけど」
「船旅に・・・こんなモノを30個も持って行くのか? そんなに船に積んで大丈夫なのか?」
「それについては方法があるので、あまり気にしないで。
天幕は覗き防止の為に隙間なく、入口は濡れた手でも開閉しやすくお願い。
上から降ってくる水の量が調整出来れば、なお良し。
それと、水を入れたままで運ぶので、脚は頑丈にしてくださいね」
「どうやら本気みたいだな。わかった、とりあえず試作品を作ってみるから出来たら連絡する」
〖一条真輝〗
アイロガの職人さん達に自分達の要望を伝え終えた後の時間、自分たちのお気に入りを調べる事に費やす。
中庭に置かれた、M163対空自走砲、M2ブラッドレーA1、OH-58カイオワ、大型発電機、電機ヒーター。
今にも、対空自走砲の方にフラフラと歩いて行こうとする綾女と紗希を、とりあえず引き止める。
「そっちは後だ。先にこっちの確認を終わらせよう。まず綾女、この発電機、どう見ても大き過ぎないか?」
発電機は、ちょっと大きめの物置くらいの大きさがある。
「600KVAって書いてあるね、燃料はディーゼルみたい。まあ、小さいならともかく、大きい分には大丈夫じゃないのかな?」
「そっちよりも、真輝、こっちの電気ヒーターって、もしかして電気温水器?」
「これが電気温水器だとしたら、紗希がさっき頼んだシャワーに、この二つを加えて温水シャワーとか、お風呂にグレードアップ出来るんじゃないか?」
「旅先でお風呂か、追加でバスタブも作ってもらおうか? 長谷川さんなら設備が大きくなっても、持って行く分には大丈夫よね。これは優先的にドワーフさんに協力を頼まなければ」
「紗希ちゃん、リストの中に自衛隊の野外入浴セット2型は無かったの?」
「そんなのを見つけたら、真っ先に出してもらってるわよ」
「紗希、椿、さすがに
「綾女、真輝、椿、2ヶ月の船旅は本当に大変だったんだからね。今の所、船旅の予定は無いけど、あんなのフルオート撃ち放題のご褒美が無かったら絶対に耐えられないよ」
「まあ、今までは宿と王宮に寝泊まりだったから、あまり気にはならなかったな。
蜃竜の時だけは、寝るのは天幕だったけど、それでもさすがは王宮、沐浴の用意を最優先でしてくれてたし」
「真輝、もうバルカンに行っても良いよね?」
「真輝、もうブラッドレーに行っても良い?」
「真輝ちゃん、それじゃあ、後、よろしく~」
椿だけは、こちらに確認もせずにハンヴィーに乗り込んだ。
「お~い、椿ぃ~、無線の電源だけは入れておけよ~」
「・・・わかった~」
さて、私もカイオワをいじらせてもらいますか。
※イヤーマフ ヘッドホン型の耳栓です。
※樽の大きさは、アメリカンスタンダードバレル200L、ほぼドラム缶1本分と同じ容量を想定しています。樽に水を入れて脚と天幕を付けたら総重量は300kg近いものになりますね。
※野外入浴セット2型、自衛隊の装備品で被災地等の映像で見かけるお風呂セットです。
1度に30人、1日1200人も入れるそうです。
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