第2部 第30話 ワイバーン再び

皇都から、ここ、アイロガの王都オリハガーダに戻った事を、中央ギルドに報告に行った後・・・


王宮の中庭で忙しそうにしているに声を掛けた。


「みんな~、ちょっと良いかな?」


「ごめん、長谷川さん、今、ブラッドレーの機関砲、焼夷榴弾M792にするか徹甲弾M791にするか悩んでるので、後でいい?」


「ごめんなさい、長谷川さん、バルカン砲の照準システムの設定を調べてるの、後でいいかしら?」


「ごめん、長谷川さんカイオワの事を調べ出したら、なんか止まらなくなっちゃって、ちょっと待ってもらって良いかな?」


「長谷川っち、今、ライフル調整中なんで、後で」






「ナオよ、みないそがしいようじゃな。は、わらわ達だけで行こうかの?」


「「「「ワイバーン!!」」」」


「そうかな? 一応みんなにも相談しておいた方が・・・・あれ?」


忙しそうにしていたの4人共が、いつの間にか直立不動で並んでいる?




「ところで、サキよ。サウラタの宿での事なんじゃが、夜中にキーラがサキから渡されたピッキングツールとかいう道具を使って、ナオの部屋に忍び込んでの」


「「「紗希!!」」ちゃん!」


サキさん以外の3人の視線が、久しぶりにサキさんに突き刺さる。


「ごめん、サキ、ばれた・・・」


3人の刺すような視線を受け、サキさんがあたふたと言い訳を始める・・・

「・・・キーラちゃん、言ったよね。万が一の為に教えるけど、緊急時以外は使っちゃダメだって」


「あの町でナオうなされる、だから緊急」


キーラ、そこで胸を張っちゃダメ。


「サキとキーラは今回、ここで留守番で良いかの?」


「それはヤダ」「やっ!!」




「しかし、サキ、そのピッキングツールとやら、なぜあのようなモノをキーラに渡したのだ?」


「えっと、リストを眺めてたら、中にピッキングツールを見つけてね。この世界の錠前って作りが単純そうだったから、これなら私にも使えるかと思って試してたの。それをキーラちゃんに見つかって」


「キーラ、サキの弟子になった」


ミラセアが額を押さえて、珍しく厳しい声で注意した。

「キーラよ、今後は絶対にやめよ。宿の扉の外でゴソゴソしておるところを見られたら、盗人ぬすっと扱いされ、最悪、その場で斬りつけられるぞ?」


「・・・わかった、やめる、ごめんなさい」




「紗希、お主はもっとまずいぞ。わかっておるか?」


「えっと・・・まずいって・・・何?」


「獣人のキーラでも危ないのじゃぞ、お主なぞ、見つかればその場で抵抗もできずに殺されておるわ」


「・・・ごめんなさい、もうやめます」




ようやく、ギルドで受けた依頼の説明が出来る。


「それじゃあ、説明するね。ワイバーン討伐の依頼があったのは、この王都オリハガーダから南南西にあるサーサンタという町です。王都から南西部にあるサイラダームの街で1泊、そこから街道を南下することになると思う。みんな、明日の朝の出発でいいかな?」


「それで、ワイバーン相手に何を使う? やっぱりバレットかな?」


「紗希ちゃん、私、スティンガー使ってみたい」


「ワイバーンなら、バルカン砲を使っても良いんじゃない?」


「ブラッドレーなら、25mm機関砲とTOWミサイルの両方が使える。もし近づいてきたらM240機銃でけん制・・・完璧?」




「・・・みんな、ちょっといい?」


「どうしたの長谷川さん?」


「いや、盛り上がっている所悪いんだけど、今回、ワイバーンが出たのが町の近くで、しかもなんだ。このままだと町に迷惑を掛けちゃいそうだから、やっぱりミラセアと行って来ていいかな?」




「長谷川さん、大丈夫だから、間違っても町中で撃ったりしないから」


「そうそう、撃つ方向も気を付けるから。それに長谷川っち、むしろスティンガーなら一瞬で終わるかもしれないよ」


「流石にワイバーン1頭にバルカン砲は過剰火力オーバーキルだったかな?」


「そうそう、TOWミサイルを飛行目標に当ててみたいとか、これっぽっちも考えてないから、安心して」


それぞれが口々に言い訳を始めることになった。まあ一部、言い訳に聞こえないセリフもあったみたいだけど・・・






結局、翌朝になって。は2台のハンヴィーで王都南西の街サイラダームに向けて出発した。


2台の内、前を走るTOW搭載ハンヴィーを僕が運転、サキさんが助手席で今朝渡したリストを眺めている。


「サキさん、約束は忘れないでね?」


「近くの町や人に迷惑を掛けない」


「絶対だからね?」


「わかってます。ところで長谷川さん、次の休憩の時に1つ、ストレージから出してもらっていいかな?」


「何か見つかったの?」


「スターライトスコープ、星の光の明るさでも周囲が見える暗視装置・・・かな?」


「カッコイイ名前だね。それに便利そうだ」







そして休憩時。

【ストレージ】 ヴォン♬


言われた通りに取りだしたのは、不格好な筒状のナニカ。


「これは、カメラの望遠レンズみたいだね?」


「たぶん、椿が詳しいかな・・・椿、これ見て」


早乙女さんが目を輝かせて、不格好な筒を眺めている。


「アサルトライフルにも装着できる4倍スコープの暗視装置だね、電源はなんだろう? まさか単3の乾電池2本? ちょっと調べて見るね」


そのまま、抱えて持って行ってしまった。



「椿・・・持ってちゃったね。そういえば、長谷川さん。今回、ワイバーンが出たのって、サーサンタって町の近くって言ってた?」


「そうだよ、どうかした?」


「ほら、今までのワイバーン討伐って、いつも家畜被害を受けた農村からだったから。でワイバーンが出たの初めてじゃない?」


「そういえばそうだね。やっぱり大陸が違うからかな? ワイバーンの習性が違うのかも知れないね」






しかし、2日後、無事にサーサンタの町に到着した僕達が、

挨拶に行ったギルドで聞かされたのは予想外の話だった。


「え~っと、ギルドマスター? って、どういう事ですか?」


灰色の髪のドワーフ、ギルドマスターのドノガンさんは、ウーバン王よりも一回り大きい体躯を、縮めるように恐縮している。


「ドラゴンスレイヤー殿、これほど急いで来てもらったのに、ほんとうに申し訳ない。実は、昨日の朝、この近くにある森のそばでワイバーンの死体が見つかったんです」


「もしかして、他の冒険者に先を越されましたか?」


まあ、ワイバーン1頭だったし、先を越されたならしょうがない。


「いやいや、わざわざワイバーンを狙うような酔狂な冒険者は、この辺りにはおりませんし、報告もありません。それに、見つかったワイバーンの死体は、何かに喰われていたんですよ。複数の動物に食いちぎられたような跡が残っておりました」


「食いちぎられた跡じゃと? 町長、そのワイバーンの死体はまだ残っておるのか?」


「はい、呪姫様。ギルドの裏の倉庫に引き上げてきています」






ワイバーンの死体を見せてもらいうため、ギルドの裏に回って・・・倉庫に入ったとたん、真っ先に強烈な腐臭が鼻に刺さった。


もしかして、ワイバーンってストレージに入れておかないと、こんな臭いになるの?


全員が鼻を押さえている。


「トドメは首のようじゃが、何ヶ所も食いちぎられておる。後は爪の跡か? 食いちぎった生き物は、何じゃろう? どうやら複数のようじゃな?」


「内臓、持ってかれてる。ナオ、この爪、なんかある」


キーラが自分の鼻をつまんだまま、ワイバーンのかぎ爪に引っかかっているモノを指でつまみだした。


「・・・黒い、何かの皮のようじゃな? キーラ、見た事は?」


「無い、黒くてぶよぶよ気持ち悪い・・・はい」


キーラは、それをドノガンさんに渡す。


ドノガンさんが、ちょっと嫌そうに掌の上に置かれた、黒いぶよぶよを見つめている。


「私も見た事は無いですな。他のギルドの職員にも確認してもらいます」


この黒いモノの正体さえわかれば、何か対策が立てられるかもしれない。

今夜は宿に泊まって、明日、あらためてギルドを訪ねる事になった。

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