第2部 第25話 イドの怪物

ギワノの風穴かざあなを埋めた後、僕達は2台のハンヴィーで、あの高い鐘塔を持つ黒焦げの教会に到着した。


「全員、防護マスク着用で、まずは催涙弾から行くよ!!」


ロケットランチャーを手にしている西園寺さん以外のメンバーが、みんなグレネードランチャーを構えたので、僕もあわててマスクを被る。


「みんな、目標は正面の入り口、準備OK? 行くよ~」


「発射!!」


ボシュ


放物線を描いて、催涙弾が教会に飛び込んでいって白煙を上げる

しばらく待つと、入口の奥に赤いモノが見えた気がした。


チチチチチチ・・・・・


ヂヂヂヂヂヂヂヂ・・・・・・


ああ、この音は・・・気のせいじゃなかったみたいだ。


「綾女、出たよ」


「ええ、まかせて」


ロケットランチャーを構える西園寺さん


「後方の安全を確認・・・発射!!」


ロケットが入口から教会の奥に飛び込んて爆発、焼け残った教会側面の窓が外側に吹き飛ばされ、白い炎が舞い上がった。






白い炎が収まるのを待って、催涙弾が打ち込まれ、赤いモノが見えたら即座に焼夷ロケットを、と交互に撃ちこんではいたが、4度目に撃ちこんだ催涙弾の後、ついに何も出てこなくなった。


「それじゃあ、中を探索しようか? 各自、防護マスクは外さないでね、銃と催涙手榴弾とテルミット手榴弾を確認。多分地下に通じる穴か何かがあるはずだけど見つけたら教えてね」


7人が教会の中に入っていく。


僕も、その後をついて教会の中に入って行く、中にはイスなどの燃え残った残骸が散乱していた。

硬い石の床に、散らばる炭の塊を踏みつぶしながら中に入ると、みんなが何故かそこに集まっていた。一番奥に見える祭壇の手前の床、幅1mの長さ3m程の部分、、焼け落ちてしまっているようだ。


わざわざ探すまでもなく、床にぽっかり空いた穴の中、石の階段が地下の闇の中に続いている。


「ねえ、綾女。さすがにこんな危ない所を降りるつもりは無いけど、この穴って、どこかに繋がっているのかな?」


「確かリストに発煙手榴弾カラースモークが無かった? 近くのおうちから、この穴を塞げそうな板を借りてきて、穴の中でカラースモーク焚いてみましょうか?」


「煙が出て来る場所を探すわけね。やってみようか、みんな周辺の家を探して、板を借りてきて」



それぞれが近所から色々な板を借りていて敷き詰めるように、穴の上に並べていく。


「スモークは赤・黄・緑・紫、何色にするの?」


「赤を使うとアノ霧と間違われそうだから、赤以外で」


「じゃあ、紫で良いかな? 長谷川さん、発煙手榴弾スモークの紫で、あと手榴弾M67もお願い」


「ごめん、そう言われても、リストのドコ?」


【ストレージ】 ヴォン♬


箱の中から、各自が発煙手榴弾スモークを取り出して手に持っている。

サキさんは、それに加えて何に使うのか手榴弾M67を腰袋に放り込んでいる。


サキさんが、並べた板を1枚だけ外して隙間を作る

「この奥にスモークを投げ込んで、教会の外を探してみようか?」


一人づつ、発煙手榴弾のピンを抜いて穴の中に投げ込んでいくと、

板の隙間から、紫色の煙が立ち上がってきた。


サキさんは木の板を戻しながら、煙の立ち上がってきた所に板を重ねている。

「私は教会の中を監視してるから、みんなは教会の外で紫色のスモークが立ち上っている場所が無いか見てきてくれる?」


「「「了解」」」






・・・とは、言ったものの・・・


『紗希ちゃん聞こえる? スモーク出てこないよ』


『そっか~、そう上手くはいかないね、ちょっと待ってね』


しばらくして・・・教会の中から


ボスッ と音がして、教会の壊れた窓から紫色のスモークが漏れてきた。


「サキさん、どうしたの?」


『穴の中に手榴弾を投げ込んで、爆風で圧力をかけてみたの、どこかスモーク出てない?』


『紗希、見つけた。教会の裏だ』





サキさんを教会側の穴の監視に残したまま、教会の裏に回ると、一条さんの指さす向こう、おそらく墓地の奥あたりから微かに紫色の煙が上がるのが見えた。


その煙を目指して、簡単な木の柵で囲われた、墓地に入っていく。


ドワーフの墓標は太い杭が立てられ、銘を打った金属板が斜めに打ち付けられていた。


「あれは・・・・井戸かな?」


墓地の奥に石畳が螺旋を描くすり鉢状の窪地があって、その窪地の中心に低い円筒形の石積みと、その上に置かれた木のフタが見える。


フタの上には長い縄の付いた桶が転がっていて、フタの継ぎ目から、紫色の煙が漏れだしていた。






螺旋状の石畳を井戸に向かって降りていく


「長谷川っち、井戸も、ドワーフサイズ?」


確かに、石積みの直径が3m以上あるとか、なんでだろうか?


「いや確かに、ドワーフさんが中に入って掘るなら、大きくなるのは分かるけど。

 さすがに大きすぎるでしょ、これなら、穴掘りだけは他の種族に任せた方が良かったんじゃないか?」


「大きくなっても自分たちで掘った方が早いとか考えたのかな?

 でも、この大きな井戸と教会の下が繋がっているとしたら・・・・

 紗希ちゃん、聞こえる? 墓地の井戸からのスモーク発見」


『井戸の中なの? それだとロケット砲を撃ちこむのはちょっと無理だね。テルミット手榴弾で効くのかな?』


「紗希、井戸と言ってもすり鉢みたいな場所の底だ、ロケット砲でも大丈夫じゃないかな?」


その時、すり鉢の底から、微かに チチチチチ・・・・ とあの音が聞こえてきて、

そこに居る全員が歩みを止めた。


「紗希、井戸が浅いのか、井戸の縁まで粘液が上がって来てるのか分からないけど、

もうフタの下にいるみたいだ。みんな、上に戻ろう」


すり鉢の底が見下ろせる場所に立って、井戸を観察する。

紫の煙は出ているが、赤い粘液が出て来る様子は無い。


『こちら紗希、そっちはどう? こちらから?』


「いや、紗希ちゃん。押し込むってどうするの?」


『穴の中に催涙弾を撃ちこんでから、手榴弾で催涙ガスを奥に押し込むの』


「・・・じゃあ、出てきたら、綾女ちゃんはロケットランチャーで、私達はさっきの使い捨ての火炎放射器を使おうか?」


「長谷川さん、ロケットも残り1発なので、詰め替えのロケット出してください」


「こっちは、あの火炎放射器、何人使うか手を挙げて」


早乙女さんが手を挙げるのにつられるように、一条さんとミラセア、キーラ、ミーラが手を挙げた。


【ストレージ】 ヴォン♬


4本セットのロケット弾と使い捨て火炎放射器が5本を取り出して渡す。


「この距離だと、ロケット砲の炎が暑いかもしれないから。その火炎放射器を

先に撃ってから後ろに下がってもらったほうが良いかもしれないね」


「紗希ちゃん、こっちの準備は出来たよ」


『わかった、まずは催涙弾いくね~』





『次は手榴弾、井戸のフタに注目しててね』

「了解」





井戸のフタから漏れる、紫色の煙が噴き出すように出たかと思うと、

フタの隙間から赤いモノがにじみ出して来た。



「さあ、みんな火炎放射器を構えて、発射!!」


ボシュッ


各自の持つ火炎放射器の先端が発射され、井戸の周辺の地面に落ちて爆発し

燃え広がった。


5人がすり鉢の外に逃げ出す。


「後方の確認よし、発射!!」


ロケットが発射されて、炎の中心に命中して爆発、白い炎を上げて燃え上がった。





すり鉢の外では、西園寺さんが嬉しそうにロケット弾を積め替えてはいた・・・が。その後、サキさんが何度催涙弾と手榴弾を使用しても、焼け落ちた井戸のフタの下に見えるのは焼け焦げた土と石ばかりで、再び赤い粘液が出る事は無かった。




「サキさん、この井戸と教会の穴を塞いでしまいたいんだけど、何がいいかな?」


『井戸の石組みを崩すだけなら、ダイナマイトかC4があれば十分だと思う。真輝、そっちをお願い。教会の方も爆薬を増やせば石の階段を崩落出来るかな? そっちが終わってから、どうするか決めようか?』


「ああ、こっちはまかせて、ダイナマイトだと井戸の底の燃えカスで、投げ込んだ途端に爆発しそうだから、C4を使うよ」


一条さんがサムアップで応えてくれた。


「じゃあ、サキさん。一条さん達に井戸を塞ぐ件をお願いして、終わったらそっちに行くね」




「というわけで、長谷川さん、プラスチック爆薬C4と起爆セット出して」


【ストレージ】 ヴォン♬


一条さんが、プラスチック爆薬C4を3個テープで纏めて何か作業をしている。


「タイマーは30秒くらいかな? みんな、すり鉢の上まで離れててね」






一条さんは、井戸の中に纏めたプラスチック爆薬C4を投げ込んでから

螺旋の道を無視して、直線的に斜面を駆けあがって来た。


すり鉢の外で伏せる。

「そろそろ、30秒かな?」


ドン!!


一条さんが、再び井戸に駆け下りて、底を覗いてから、こちらに登ってきた。


「長谷川さん、井戸の底の方の石組みが崩れて埋まっているから、これで、もう大丈夫じゃないかな?」


「お疲れ様、ここは大丈夫みたいだね、皆で教会に戻ろうか?」





教会の中に入ると、サキさんが一人で考え込んでいた。

「紗希~、あっちの井戸は塞げたと思うよ」


「ありがと真輝、さて、この階段をどうやって埋めようか?」





「きっちりした、石組みの階段だね、頑丈そうだ」


「ある程度の量の爆薬を使えば、天井の方が崩れるんじゃないかな?」


「電波式の起爆装置付けた爆薬を布か何かで包んで、あの奥に投げ込もうか? 」


「2人で投げ込むなら5~6kg位まで大丈夫かな? なにか袋か、それとも包むのに布を探そうか?」


横で話を聞いていた僕も周囲を探したけど、教会の中は黒焦げで、使えそうなモノは残ってない、板みたいによその家で・・・・・・袋・布?


「えっと、袋か布ならいいモノがあるよ」


【ストレージ】 ヴォン♬


「コレとコレ、どちらか・・・使えるかな?」



「長谷川さん、袋って・・・・・」


森林迷彩ウッドランドパターン背嚢バックパック戦闘服ファティーグ


「いや、たぶん使わないから、いいかな?」






穴の爆破に備えて、西園寺さんと一条さん以外のメンバーは教会の外で待機、

僕達は正面入り口の見える所にサキさんといるけど、早乙女さんだけは教会の裏側に廻っている。


教会の中では、

森林迷彩ウッドランドパターン背嚢バックパックに詰められた、起爆装置付きのC4。

背嚢バックパックの肩ベルトを両側から持って、西園寺さんと一条さんが

勢いをつけて階段の奥に投げ込もうとしている。


「綾女、準備はいい?」

「ええ、大丈夫」


「「せ~の~」」


階段の奥に投げ込まれたの確認して、2人は教会の外に駆けだしてきて、

外に出てから両脇に別れた。


それを確認して、サキさんが起爆装置のスィッチを入れた。

「起爆!!」


教会の正面扉の方から外に、爆風と共に何かの破片が飛び出す。


『紗希ちゃん、聞こえる? 教会の裏で地面の陥没を確認。無事に崩れたみたいだよ』


「椿、ありがとう。これでミッションクリアだね」


なるほど、地面の陥没で穴が崩れたのを確認したのか。

こうして、教会と井戸の蜃竜退治を一先ず終えることになった。



※螺旋状の下り坂を作って底に井戸を作る方法は、脆い岩盤を考えると一般的な方法だと思います。


※すみません、2日に1回の投稿ペースが少し崩れそうですm(__)m

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