第2部 第24話 ギワノの風穴
崩落によって出来た大穴への対応と
それらの対策に当たる為に、急遽、王都に戻らなければらなくなったウーバン王と側近の家臣達。
彼らを乗せたハンヴィーの中で、ギワノ山裾野の
「なに? ギワノ山の裾野にある、風の吹き出す穴? それは間違いなくギワノの
ウーバン王に聞いた場所と、ミーラの見た霧の消えた場所はほぼ一致した。
「「じゃあ、明日はギワノの風穴探索ですね」」
「いや、それはやめておいた方がいい。あの中に入るのは危ない」
サキさんと西園寺さんの言葉を聞いて、ウーバン王が即座に止めようとした。
「ウーバン王、ギワノの
「理由は分からんが、朝から昼にかけて急に強い風が吹き出す洞窟だ。とにかく岩が脆くてな、過去に落盤事故が起きたので入る事を禁止している。特に、我らドワーフの体重だと、いつ足元を踏み抜くか分からない危険な洞窟なんだ」
「踏み抜くって・・・洞窟の下に空洞でもあるんですか?」
「よくわからんが、学者が言うには浸食がどうこうで空洞が出来やすいらしい」
「なるほど・・・つまり、中にさえ入らなければ良いわけですね?
紗希、良いわね?」
「何を使って
こんなわけで、明日は午後から、みんなでギワノの
「まあ、あの中に、あの赤いナニカがいるなら、こちらとしても対処を頼みたい。
ナオ殿、よろしく頼む」
「ウーバン王、元々、洞窟の中には入れないのですよね? それなら、後々の事を考えて、洞窟自体を埋めてしまっても良いんじゃないですか?」
「そうだな、埋める方法も技術者達に考えてもらおうか」
さて、これだけは言っておかないと。
「・・・後、ウーバン王、あくまで、もしかしたらですが」
「どうしたのかな? ナオ殿」
「明日、ギワノの風穴に行って・・・結果的に埋まってしまったらゴメンナサイ」
僕は予防線を張って、深々と頭を下げた。
「なるほどな・・・その可能性もあるのか?」
「はい」
そして、翌日の午後。僕達8人は、出したままの2台のハンヴィーでギワノの
地図を頼りに僕達がギワノ山の裾野で見つけたのは、洞窟の入り口というよりも、斜面に出来た大きな裂け目にだった。その裂け目の両側にはゴツゴツとした岩肌が顔を覗かせている。
赤い霧への対策か、みんな
「長谷川さんも危ないから被って」
サキさんに言われて慌てて防護マスクを被る。
西園寺さんは、ハンヴィーから、またM202ロケットランチャーを取り出し、
サキさんは
ミラセアとサキさん以外がグレネードランチャーを使うのは初めてじゃないかな?
「みんな、準備いい? 一斉に行くよ~」
早乙女さんの掛け声にあわせて、僕と西園寺さん以外の全員が裂け目に向かってグレネードランチャーを構える。
「発射!!」
ボシュ
幾つもの小さなグレネードの砲弾が放物線を描きながら、裂け目の中に落ちて行き、
裂け目の中から白い煙が立ち上がった。
「さ~て、あの赤い粘液が感覚器官だとしたら、催涙ガスの影響はあるのかな?」
「粘液と眼に催涙ガスなんて、最悪の組み合わせっぽいよね」
「まあね、これで効果が無ければ、次は別の方法を使おうか。
みんな、マスクは外しちゃダメだよ、もう1発行ってみようか」
40mmグレネードの砲弾を入れ替えて、みんながもう一度構えた。
「いっくよ~ 発射!!」
ボシュ
またもや、放物線は裂け目に向かい、裂け目の中から白煙を上げる。
しばらく待っていると、裂け目の奥から微かに赤いモノが出てくるのが見えた。
「催涙ガスが効いたみたいね、綾女、いいわよ」
綾女さんが、M202ロケットランチャーを肩に担いで構える。
「残り3発、全部いくよ。後方の安全を確認、発射!!」
ロケット弾が次々と裂けめに飛び込んで、爆発と煙の中に白い炎が眩しく燃え上がるのが見えた。けっこう距離があるはずだけど、燃え上がる炎の熱が、ここまで伝わってくる・・・暑い。
「綾女、暑いね、洞窟から、ちょっと距離を取ろうか」
「長谷川さん、次はコレを出してもらえますか?」
ロケットを撃ち終わって、まだ興奮状態が続いている西園寺さんに言われるままに出したモノは、1m足らずの長さ濃い緑色の筒で、端の歪な形の部分が赤茶色に塗装されていた。
西園寺さんが、その筒の
しかし、コレは・・・僕には雨漏りの修理に使う、ちょっと大きめのシーリングガンにしか見えなかったが、サキさん達の反応は少し違っていた。
「綾女、それ・・・あったの?」
「そう、あったのよ、紗希」
「綾女、それ・・・危なくないか?」
「真輝、多分大丈夫よ。でも、あまり射程が長くないはずだから、
みんながグレネードを撃ちこんでから、前に出て撃ってみるね」
洞窟の炎が小さくなったのを確認して、みんながまたグレネードランチャーを構える
「いっくよ~ 発射!!」
ボシュ
裂け目から白い煙が上がるのを確認して、西園寺さんがシーリングガン? を手に裂け目に向かって走る。
裂け目の目前まで近づいて、シーリングガン? を構えて、引き金を引いた。
ボシュッ
先端から、何かが飛んで行って裂け目の中に落ちて、真っ赤な炎が上がった。
西園寺さんが手にシーリングガン?を持ったまま慌てて走ってくる。
「・・・・・・サキさん、あれナニ?」
「ドイツの使い捨て火炎放射器、DM34だったかな? アレを撃つ所なんて初めて見た。ドイツ国内でも、もうずいぶん前に使われなくなったはずだけど、リストにはあったんだね」
西園寺さんが防護マスクを被ったまま息を切らせて帰って来た。
「綾女ちゃん、あれ、近過ぎない?」
「綾女、射程が短すぎる、やめておいた方がいいぞ」
「ええ、洞窟に届いて良かった、後はロケットランチャーにするわ」
そうして何度か催涙ガスとロケット弾を撃ちこむ内に、赤い粘液は出てこなくなった。
「じゃあ、そろそろ埋めようか?」
楽しそうなサキさんの言葉に
「えっ?」
思わず、反射的に問い返した。
「長谷川さん、あの穴埋めても良いんだよね?」
「いや、サキさん。ウーバン王には、結果的に埋まったらごめんなさいとは言ってきたけど、埋めますとは言ってないよ」
「でも、長谷川さん。あれだけ催涙弾を撃ちこんでも、何かの拍子に別の空洞と繋がる事になれば、そこに赤い粘液が残っている可能性があるんだよね。
今のうちに塞いじゃいましょう」
「サキさん・・・本当に、それが理由かな?」
「半分くらい・・・かな? 後は、甲殻竜の時に使った
「まあ、後々の事を考えると、必要な事なんだろうね」
「・・・というわけで、みんな、裂け目の周辺に、等間隔にC4を置いて、それぞれに電波式の遠隔起爆装置を付けて、内側に崩そうか?」
「真輝ちゃん、C4のブロックって、一ヶ所に何個使うの? 少し掘って埋めた方がいいかな?」
「C4のブロック3個でバス吹き飛ばしたり、3個半で鉄骨の柱を切ったりしてるけど、どうだろうね? 目測3m間隔の1ケ所5個づつでやってみようか?」
裂け目の両側に3m間隔に浅くではあるが埋めていくと、片側に6ヶ所つづ、両方で12ヶ所にC4を設置する事になった。
威力の予想がつかないので、とにかく十二分に距離を取ってハンヴィーの影に隠れる。
「いくよ~ 5、4、3、2、1
轟音と共に12個の爆発が起きて、裂け目の両側が崩れて、埋まったけど・・・・
「紗希ちゃん、かなり大規模に崩れたね」
「うん、ちょっと多すぎたかもしれない。まあ、結果オーライだよ」
裂け目は、なだらかな窪地に変貌していた。
「え~っと、みんなが見て、他に気になる所は無いかな?」
「長谷川っち、
「あの教会か? それじゃあ行ってみようか?」
こうして、僕は、あの赤い粘液と眼を見てしまった教会に再び向かう事になった。
※実際の風穴では季節による変化はあっても、時間による風の変化は無いそうです。この作品の独自設定になります。
※HK69グレネードランチャー 直径40mmの小さな爆弾を遠くに飛ばす専用の銃です。今回は催涙弾を撃つのに使用しました。
※M203グレネードランチャー 使用方法は上記と同じですが、こちらはライフル等に取付けて使用するために、銃身と引き金しかありません。
※洞窟を塞ぐ為のプラスチック爆薬の量(総重量60kg)には何の根拠もございません。
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