第2部 第23話 砲火と崩壊
その日は、2基の連装ロケット弾全弾発射という、非常に物騒な赤い霧の除去作業から始まった。
『こちらサキ。マルス、全弾発射!!』
バヒュッゴーン バヒュッゴーン バヒュッゴーン バヒュッゴーン
バヒュッゴーン ・・・・・・
『こちらは真輝。ウラガン、全弾発射!!』
バシュバシュバシュバシュバシュ・・・・・・
それぞれ、発射時の白煙が治まったのを確認してから、ガラガラと音を立てて
ロケットコンテナを積んだ荷車が、馬2頭とドワーフさん達に引かれて近づいていく。
ドワーフさん達が手慣れた様子でロケットの装填を完了させ、
『マルス、全弾発射!!』
バヒュッゴーン バヒュッゴーン バヒュッゴーン バヒュッゴーン
バヒュッゴーン ・・・・・・
『ウラガン、全弾発射!!』
バシュバシュバシュバシュバシュ・・・・・・
再び、霧払いのロケットが発射された。
『キーラちゃん、
『ん、大体、
『こちらミーラ、湖跡周辺の霧は晴れました。あの黒い部分も見えています』
『ありがとう、綾女、M109 1号砲攻撃を始めて、キーラちゃん
『こちら綾女、1号砲、初弾発射!!』
『アヤメ、手前に1000』
『目標修正、1号砲、次弾発射!!』
こうして、M109 1号砲の砲撃と、続く幾度かの修正射撃が完了した後、早乙女さんの乗るM109 2号砲の砲撃がはじまった。
『こちら椿、2号砲、初弾発射!!』
マルスとウラガンは万一の事態に備えて、2度目のロケット装填を終えた所。
その装填作業の確認を終えた後、ウラガンに乗っていた一条さんはM109 3号砲に移動して・・・
手の空いたサキさんは、ロケット砲の待機要員としてここに残って、
今は
『こちら真輝、3号砲、初弾発射!!』
どうやら、3号砲の砲撃も始まったようだ。
この周辺の地図を広げたテーブルの横に幾つか置かれたイスの一つには
所在なくミラセアが座っている。
「ミラセア。ちょっと話したい事があるんだけど、いいかな?」
「ナオ、どうしたんじゃ?」
「西園寺さん達3人が来たことで、皇国と縁が出来て、ミラセアのおかげてエーライザル王国に、今回の件でアイロガ王国に
「まあ、そうじゃな」
「この
「そうか・・・・」
「まずは、このアイロガで書物や記録から調べるつもりだけど、
いずれは、その1000年前に滅びた、凶王の国の跡に行こうと思っている。
ねえ、ミラセア、凶王の国があった場所って、この3つの国の近くだったんでしょ?」
「・・・気付いておったのか?」
「先王の話の時に、なんとなくね」
「それで・・・なぜ、わらわに話すのかな?」
「ミラセアにとっては思い出したく無い事を調べるから、君は凶王の国には行かなくても良いと思うけど、それでも色々と聞く事になると思う」
「そんな事を心配せずとも、ついて行くぞ」
「それは、ありがたいけど、無理はしないでね」
「ナオこそ、あのように
何に魘されてるのか、それすら憶えて無いけど、否定も出来ないか。
「無理をしているつもりは無いけど、甲殻竜、赤翼竜、今度の蜃竜、もしかしたらマーグナスにいたシーサーペントも、これはちょっと多すぎないかな?」
「甲殻竜は以前からおったぞ、赤翼竜も、シーサーペントもな。まあ、さすがに蜃竜などという、あのような奇怪なモノは初めて見たがな」
「あまり考えたくは無いんだけど・・・ミラセアを包んでいたモノ、サキさん達を包んでいたモノ、呪いの文字、それから・・・色々なモノが、全部が繋がっている気がするんだ」
その時だった・・・
『キャー』『ギャ』
無線から、耳障りな雑音と共にミーラとキーラの叫び声が聞こえた、その直後、
轟音と共に大地が大きく揺れた。
「なんじゃ」
「地震か?」
まだ揺れている、かなり大きいな・・・・やっと揺れが治まった。
「ミーラ、キーラ、そっちは大丈夫?」
無線で問いかけるが・・・・・・返事が無い?
『こちら、椿。今の、かなり揺れたね、綾女ちゃん、真輝ちゃん、砲撃を中断して車両周辺に異常が無いか確認して』
『こちら、綾女、見た所大丈夫みたい』
『こちら、真輝、こっちも大丈夫そうだ、地震かな?』
悪い予感と共に、背中が汗で、じっとりと冷たくなった。
僕の脳裏には大地を突き破って現れた黒い突起を持った甲羅の蜃竜の
浮かんでいた。
「みんな、キーラとミーラの返事が無いんだ、何かあったのかもしれない。
僕は、とりあえずキーラ達の所に向かうよ」
【ストレージ】 ヴォン♬
ストレージから救急車ハンヴィーを出して運転席に乗り込んだ。
「わらわも行くぞ」
『ちょっと待って、長谷川さん。私達も行くわ』
みんなが、慌ててハンヴィーに乗り込もうとした時・・・
『ナオ様、連絡が遅れ申し訳ありません』
ミーラの声が無線から聞こえる。
「よかった・・・ミーラ、大丈夫? ケガはない?」
『私も姉も大丈夫です。しかし、どう説明していいのか・・・』
「何があったの?」
『ナオ・・・・・・底・・・抜けた』
「へ?」
『この場所から双眼鏡で見たまま伝えます。湖跡の谷間の底が抜けて、大きな深い穴になってます』
ここに居るみんなが、一斉にサキさんの方を見た。
「ちょっと待って、確かに『湖の底が抜けるまで』って言ったけど、
本当に抜けるなんて思って無いわよ」
「・・・分かった、すぐにそっちに行くよ」
ミラセアが助手席に、サキさん、西園寺さん、一条さん、早乙女さんが後席に乗り込み、環状山地の峰に向かって出発。
引き続き、ミーラから連絡が入る
『ナオさま、揺れと轟音で、こちらも騒ぎにはなりましたが、けが人はおりません、迫撃砲や砲弾も問題無いようです』
『問題無い、ナオ、こっち、何する?』
「今、そっちに向かっているから。キーラ、ミーラ、斜面は崩れるかもしれないから近づかないように気を付けて」
「はい、双眼鏡で見た範囲で何ヶ所か地すべりが確認できます。
ナオさまもお気を付けください」
道中、峰の手前でも周囲に地滑りの跡見える中、なんとか無事に峰の上に到着した。
ハンヴィーから降りて、待ってくれていた2人に案内されて湖跡が見える場所に到着する。
【ストレージ】 ヴォン♬
双眼鏡を取り出してみんなに配ってから、自分も地図を思い出しながら双眼鏡を覗いてみた。
湖跡のかなりの部分が・・・大きく
「紗希ちゃん、すごいね、本当に湖の底が抜けてるよ」
「椿、だから、湖の底を抜くなんて、
「長谷川っち、あの穴の大きさだと、前に聞いた甲殻竜より大きそうだね」
「ごめん、距離があって分からないけど、そうなのかな?」
一条さんが地図を片手に呟く。
「長谷川さん、あの穴、大きいどころじゃないぞ、直径1km以上ある、多分、
「そんなに大きいんだ、すごいね~」
早乙女さんの言葉に、一緒になって頷く。
「何言ってるの、椿、そんな事よりやる事があるでしょう?」
みんながサキさんに注目した。
「紗希ちゃん、やる事ってな~に?」
「せっかく邪魔な土が無くなったのよ、あの穴に迫撃砲を撃ちこまないでどうするの?」
「さすが、紗希ちゃん、そういえばそうだね」
「迫撃砲1号から、撃ち始めるから、キーラちゃん、ミーラちゃん、
あの穴の中を目標にじゃんじゃん撃ちこんじゃって」
「ん」
「承知しました」
僕も何か手伝おうと、迫撃砲の方に向かう、
西園寺さんの傍を通り過ぎる時に、僕の肩に手を置いて、小さく呟いた。
「長谷川さん、ある程度榴弾を撃ちこんだら、次は焼夷弾を撃ちこみましょうね」
気のせいかな? サキさんと西園寺さん、ちょっと怒ってないか?
「早乙女さん、サキさんと西園寺さんの様子変じゃ無いかな?」
「ごめんね、長谷川っち、あの2人、すごくくだらない理由で機嫌が悪いだけだから気にしないで」
こうして、かなりなし崩し的に穴に向かって迫撃砲を撃ちこむ攻撃が始まった。
僕は3基の迫撃砲の傍に、それぞれ焼夷砲弾を並べていく。
向こうに見える幾つもの天幕の中に、昨日並べたばかりの600発、12tの榴弾、
アレをいつ回収しようか・・・そんな事を考えながら。
「長谷川さ~ん、こっちにも焼夷弾をお願いします」
「は~い、今行きます」
そうして、日が暮れるまで、迫撃砲の音が鳴り響き続ける事になった。
まだ砲撃の続く中、焼夷弾の配布を終えた僕は、双眼鏡で大穴を見詰めている。
「サキさん、砲撃のせいかもしれないけど、今、穴の縁が崩れなかった?」
「・・・崩れましたね」
「あれだと、危なくて、穴の縁には近づけないよね」
「ちょっと怖いですね」
「この状況で、穴の底の蜃竜が殲滅されたかどうか確認するのなんて、無理じゃないかな?」
「長谷川さん、前向きに考えましょう。あんな穴の底でいくら赤い霧を吐いても
地上まで届きません、結果オーライです」
「紗希ちゃん、それ絶対に違うと思う」
「まあ、蜃竜が、この次あの穴の底から出て来るのが何百年か何千年後かは分からぬが、ウーバン王には、この記録を後世に残してもらわねばならんな」
「長谷川っち、あの大穴に、近づけないなら、次はギワノ山の裾野だね」
「・・・そうだね、後でウーバン王に
※前回説明し忘れました。
FGM-148 ジャベリン アメリカ製の歩兵携帯型対戦車ミサイル
ミラン フランス製の対戦車ミサイル
※直径1km程の大きさの比較対象が中々見つかりませんでした。
江の島、新宿御苑、仁徳天皇陵(周濠部分含む)、
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