第2部 第22話 対蜃竜作戦会議

アイロガ王国 王都オリハガーダ 王宮内会議室



昨夜は、赤い粘液と目玉が夢に出てきて、よく眠れませんでしたが、

それは、だったみたいです。





テーブルの上には環状山脈リング周辺の地図が広げられ、サキさんが地図のルゼル湖の中央に手榴弾M67を置き、2基のロケット砲と自走砲の所に、それぞれ1本づつ見慣れたバレットの弾丸12.7mmを立て、環状山地リングの峰に設置した迫撃砲の場所には1本だけライフル弾7.62mmが立ててあった。



「サキさん、なぜ手榴弾なのかは聞かないけど、あの赤いのと黒いの、

 もうあれが蜃竜しんりゅうでいいのかな?

 あれだけのロケットと榴弾の中でも生きてたわけだね」


「紗希ちゃん、あの黒いフジツボみたいなの、何ヶ所か割れてたね、あれが対戦車榴弾HEATの影響かな?」


「いや、椿、あの2日間、155mm対戦車榴弾HEATで150近く撃ちこんだはずだ。

それで有効だったのが、あの何ヶ所かというのは無理がないかな?」





西園寺さんが ”あくまで想像だけど” と前置きしてから


「もともと、全部、土の下に埋まってたんじゃないかな? 榴弾HEがあそこにかたよったせいで、あの部分だけ土が吹き飛ばされたとか?」


「そこに対戦車榴弾HEATが当たった? 他の部分は、あの黒い外殻とその上の土の層とで守られているのかな? それとも土の下で砕けた外殻が見えないだけ?」


「綾女ちゃん、155mm対戦車弾HEATって、どれくらいの厚さの装甲まで有効だったっけ?」


「口径の5~8倍を貫通するって聞いた事があるわね、それだと75cm~120cmの装甲を貫通するはずだけど、分厚い土の層や黒い外殻相手ならどうかしら? 貫通力に関してはTOWミサイルと大して変わらないんじゃないかな?」


「狙うとしたら、黒いフジツボか、その周辺部分だね。まずは、霧を押さるのが前提だけど」


「紗希ちゃん、この防御陣地トーチカ、どうやって攻撃しようか?」





サキさんが地図の上の手榴弾を少し持ち上げて、コンと音を立てて

同じ場所に置き直した。


「有効な攻撃方法を考えると、地中貫通弾バンカーバスターになっちゃうね」


「おいおい、確かにアレなら地下30mまで貫通するけど、そもそもだろ?」


「はいはい、紗希ちゃん、もしリストにあっても、アレを使うなら爆撃機とパイロットとなが~い滑走路が必要よね」


「まあ、使えないのも分かってるけど、近づかずに土の中を攻撃する方法か~」





話が行き詰まってきているようなので、この機会に気になっている事を聞いてみた。


「サキさん、僕達が見た赤い粘液と黒いフジツボだけど、赤いのが本体かな? それとも黒い方だと思う?」


「なんせ”しん竜”ですから、黒い外殻が殻で、赤いのが中身じゃないですか?」


蜃気楼しんきろうの語源・・・だったっけ? でっかいハマグリが見せるまぼろし


「あれも確か、古代中国で竜かハマグリで揉めてませんでした?」


「そんな話だったっけ? あの甲殻竜みたいに、黒い殻ごと地中から立ち上がったりしないよね?」


僕の頭の中には、まだアノ甲殻竜のイメージが強烈に残っている、

あのフジツボの集合体は、僕には甲羅にしか見えていない。


「いくらなんでも、無理だと思いますよ? 上に乗ってる土砂だけで、数万とか数十万トンあるんじゃないですか? まあ、立ち上がって土砂が無くなれば対戦車榴弾HEATが効きそうですから、むしろありがたい気もしますが」


「赤い霧を使って、生き物を呼び寄せる事から考えても、動けない?」


「その可能性もありますね。赤い粘液は触腕でしょうか?」


「触腕って蛸なんかの獲物を捕る為の腕だったっけ?」


「眼みたいなのがありましたし、どこかに耳もあるのかな? 腕以外に感覚器官も兼ねてそうですね」


「アレ・・・教会からも出てきたよね」


「そういえば、どうしてだったんでしょう? 地下で繋がってるとか?」


「教会と湖跡が地下で? そういえば、ミーラがもう一ヶ所見つけてたよね」


「はい、ギワノ山の裾野の霧が消えていた場所に、確かに赤いモノが見えました」


「霧が消える場所、地形的に風が吹き込む場所か、もしくは吹きだす場所かな?」


「吹きだすだと、紗希ちゃん、あれかもしれないね、富士に行った時に聞いた風穴」


「温度の関係で、風が吹き出す洞窟だっけ?」


「その洞窟の中にも、赤い粘液がいる可能性があるわけですか?」


「余計に殲滅は難しそうだね」






色々と話をしている内に、サキさんが何か思いついたようだ。


「あまり綾女の案を使いたくは無いんですが、こういうのはどうでしょうか?」


「西園寺さんの案?」


「紗希・・・私は何も言ってないけど?」


バレットの弾丸2本を指さしながら


「まずは、この2基のロケット砲で赤い霧を払います、それぞれ2回も撃てば大丈夫でしょう」


「それは、今まで通りだね」


残ったバレットの弾丸の横に、どこから出したのか、新たな弾丸を2本立てて


、M109を3台並べて、湖の底が抜けるまで155mm対戦車弾HEATを撃ちこんで上の土砂と黒い外殻をグズグズにします」


「紗希・・・私はM109を3台並べるしか言ってないわよ」


今度は、山の上に置いたライフル弾7.62mmの横に、新たに同じ弾丸を2本立てた。


「それから、120mm迫撃砲を山の上に並べてグズグズになった外殻の上に

 榴弾を落とし続けます」


「それで、大丈夫かな?」


「いえ、この迫撃砲は赤い粘液を外に出さない為のです。そこまですれば殻から出てこれないでしょう」


「それが牽制なの? それじゃあ本命は?」


「別働隊が目標2kmまで近づいたところで、見えている黒い外殻に向けてTOWミサイルなりなりなりを


「じゃべりん? みらん? なにそれ?」


「リストの中にあった、です」


「まあ、とにかく、ちゃんと見ながら攻撃する訳ね?」


「長谷川さん。できれば、一緒に戦車砲も撃ち込みたいのに、リストに戦車が見つからないんです」


「ごめんね、それについては何とも言えません」


「ただ、問題もありますね」


「何かな?」


「人員です。迫撃砲の扱いはドワーフさんが慣れてきましたが、それでも前進観測者FOと照準調整に2人は欲しいです。

それと、目標から2kmの位置で、あの教会のように湖以外の方向から襲われた場合を考えると、ミサイルの発射役と装填役以外に車両の守備要員が欲しいですね」


「迫撃砲弾はあらかじめ山の上に準備しておくとして、僕が目標近くに居れば、車両を出して逃げ込めるし、ミサイルの弾切れも無くなるよね?」


「それはそうですが・・・・・・」


「キーラは前から前進観測者FOの経験者だし、ミーラも迫撃砲の調整は憶えたよね?」


「ん」

「おそらく、大丈夫だと思います」



「それじゃあ、2人に迫撃砲はまかせようか?」


「紗希、今回私は車両の守備要員に廻るわ」

「綾女が廻ってくれるの?」


「わらわも一緒に守備に廻ろう」


「そうなると、紗希と椿がミサイルの発射担当で、私と長谷川さんが装填担当かな?

 2人いればミサイルの装填作業はだいぶ楽だと思うよ」


「サキさん、この5人で行くわけだけど、車両はどうしようか? またBMP-1?」


「赤い霧対策を考えるとBMP-1なんですが、昨日は1回もハッチを閉めてないんです。何かあった時に、ハッチを閉めた状態で逃げられるかどうか」


「小さな覗き窓からの視界になるわけか、あの教会の異変だと気が付けて無いかも。周りがよく見えないのは怖いね」


「今回は、車両の位置が湖畔からは、少し離れた場所になりますから、赤い霧の警戒だけしておいてハンヴィーのTOWミサイル搭載車両で行きましょうか?」


「わかった、サキさん、後でどのハンヴィーか教えて」


「了解です」









翌日から、今回の作戦準備に取り掛かった。


ウーバン王に、今、M109を設置してある周辺に、もう2基分の整地をお願いして。それと今回は、ロケットコンテナ用に2t程の荷物を積んでも大丈夫な荷車を4台用意してもらう。


環状山地の峰に登って120mm迫撃砲の隣に、新たに2基の迫撃砲を設置した。

近くにいくつもの天幕が張られ、その中にストレージから取り出した迫撃砲の砲弾を並べていく。それが合計600発 およそ12tだそうだ。


その作業を終えて山から降りてくると、M109周辺の整地が終わっていた。


【ストレージ】 ヴォン♬


そこに、ストレージから、新たにM109を2台を設置した。


「ナオ殿、荷車の準備が出来たぞ」


「ウーバン王、ありがとうございます。すぐにロケットコンテナを乗せに行きます」


荷車の上にロケットコンテナを出していると、今度はサキさんに声を掛けられた。


「長谷川さん、M966のハンヴィー出して」


僕が、そのハンヴィーを取り出すと


「あと・・・装填用のTOWミサイルとジャベリンとミランを・・・・」


「サキさん、ごめん、わからないから、リスト指さして教えて」


「長谷川さん、ハンヴィーに積むのでM202のロケット弾も出してください」


「西園寺さん、どっちのロケットか教えてくれる?」


もう少し、準備にかかりそうだ・・・




地中貫通弾バンカーバスター 地下壕等を攻撃する為に開発された特殊爆弾

       航空機から落として30mの土の層または6mのコンクリートを

       貫通してから爆発します。

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