第2部 第21話 ルゼル湖探索
あの連装ロケット砲2基と自走砲による2日間の攻撃の翌朝、
ウーバン王は安全確認の為、馬を一頭、
3台の車両と山の上に設置した迫撃砲はそのままにして、午後にもう一度馬を放して安全を確認した後、ウーバン王は兵士と冒険者に
今は、そこかしこで生存者の確保の為に馬に乗った兵士と徒歩の冒険者が赤い霧を警戒しながら動き回っている。
もし、何か妙なモノを見つけたら、
そして、僕達は・・・・
霧が晴れた盆地の中を、このBMP-1という気密性能に優れたという触れ込みの小さな戦車でカタカタと履帯を
乗員3名、後ろに8人も乗れるこの鉄の箱、一条さんの操縦で、その後ろの車長席に僕が、大砲の所にはサキさんが座っていて、他の人たちは後部に乗っている。
どこかで チチチチチ・・・ と鳥の鳴き声が聞こえてくる
「サキさん、ほんとうにコレ・・・気密性能あるの?」
一条さんは、まるでオープンカーの様に操縦席の天井のハッチから顔を出して操縦しているし、僕もサキさんも顔を出している。後ろを振り向くと後部席も天井にある4つのハッチが全て解放されて皆の上半身がデッキの上に出ていて、
キーラにいたっては後部デッキの上に腰を掛けてしまっている。
「きっと大丈夫よ、何か起きたら、中に入ってハッチを閉めてね。コレなら水の上も走れるから」
「サキさん、その追加情報必要かな?」
後部デッキから西園寺さんの声が聞こえる。
「長谷川さん、確かに、この超骨董車両は汚染地域での使用を想定されているけど、あまりにも年式が古すぎるわ。各自、防護マスクは絶対に手放さないで」
「有益な情報ありがとう、西園寺さん」
「いえいえ」
後ろを振り向くと、西園寺さんはニコニコ笑っているが、
その手はデッキの上にある細長い箱に添えられたままだ。
「ところで西園寺さん、その手元に置いてあるソレ。
僕が前に頼まれて出したロケット砲だよね?
出した後で、確かハンヴィーに積んだままになってた・・・」
「はい、M202ロケットランチャーです。ちゃんと中身のロケットは焼夷弾にしてありますので、ご心配は無用です」
「・・・そうですか」
心配はしていません、ちょっと不安になっただけです。
「ナオ、てるみっと出して」
ああ、不安が別方向から飛んできた。
「キーラ、後で出すから、西園寺さんに対抗しなくていいからね」
「長谷川さん、このままルゼル湖に向かって良いのかな?」
「はい、一条さん、よろしくお願いします」
湖の
臭いを堪えて車長席から降りて、固まった身体をほぐすように伸ばしていると
僕の服の裾が引っ張られた。
「ナオ、てるみっと」
「わかった、ちょっと待って」
【ストレージ】 ヴォン♬
テルミット手榴弾の入った、重い木箱を出すと、キーラだけで無く、各自が箱から取り出して持って行く。
「しかし、湖に水が残っておらんのか? これではただの谷間じゃな。耕作地としても復旧は難しいの」
「ここが、本当に湖だったの?」
眼前に広がるのは、かつて湖だった焼け焦げた谷間
「来たことは無かったが、確か景勝地じゃったはずじゃ」
「確かミーラの話では湖の中央付近が変だったんだね」
【ストレージ】 ヴォン♫
双眼鏡を取り出して、谷の中央を覗いて何かあるのか探してみる。
黒く所々焼け焦げた地面の一角に、光沢のある黒と不吉な赤が見えた。
「なんだ・・・アレ?」
思わず口から出た言葉が・・・震えている。
あえて例えるなら、巨大な黒いフジツボの集合体だろうか? 1つ1つが人の背丈ほどありそうだ。それが、おそらく百以上地表に顔を覗かせていて、そのフジツボの口と何ヶ所かの砕けた跡から不吉な赤い色が見えている。
「長谷川さん、双眼鏡、私にも貸して?」
サキさんの声が聞こえるが、僕は、双眼鏡から目が離せずに、
そのままの体勢で左腕を黒い靄に突っ込んで次々に双眼鏡を取り出して
周囲に差し出した。
「どうしたの、長谷川さん、らしくない・・・ひっ・・・何、あれ?」
アレを見た、それぞれが嫌悪の声をあげている。
「・・・サキさん、見た? ここは危ない、すぐにこの場から逃げよう。いいね?」
全員が
全員がBMP-1に乗り込んだのを確認して、
「ナオ、さっきから聞こえるこの音なんじゃが?」
「そうだよね、良く考えたら、ありえないよね」
「うん、こんな声、聞いた事無い」
そうだよ、昨日まで、さんざん焼夷弾を撃ちこんでいた場所に鳥なんて・・・・・・いるはずが無いんだ。
「一条さん、スグに出して、とりあえず来た道を帰ろう。みんな周囲の警戒をお願い」
イヤな予感に気持ちだけが焦る、しかし、その予感はBMP-1が出発してすぐに的中してしまう事になった。
後ろを双眼鏡で見ていたサキさんが、声をあげた。
「長谷川さん、あの湖の奥の黒い所から、赤いのが盛り上がってきてる」
「長谷川っち、
「全員、今の内に防護マスクかぶって」
チチチチチ・・・
チチチチチ・・・・・・
湖跡の方から聞こえてきているこの音も、間違いなく大きくなってきてる
「みんな・・・逃げるの優先で、各自の判断で攻撃をお願い」
「スピートを上げる、かなり揺れるから撃つなら注意して」
「ナオ、アレ」
キーラが指さした先は、今、BMP-1が進んでいる通りの左側にある、高い
高い
この時になって、初めて、僕は、この赤いモノを近くで見る事になった。
赤い濁った半透明の粘液が
チチチチチ・・・・・
ヂヂヂヂヂ・・・・・
ああ、間違い無く、あそこから聞こえる・・・
「ロケット砲を使う、後席、全員座って」
後ろを見ると、西園寺さんがロケット砲から4本の筒みたいなのを引っ張り出して、肩に担いだのが見えた。
構えてから、前のフタを開ける。
「後方の確認よし・・・・発射!」
鈍い音を立てて、発射された焼夷ロケットが、教会に向かって飛ぶ。
教会の正面にある大きな扉付近で爆発して赤い飛沫を飛び散らせながら
猛烈な勢いで燃え上がった。
その赤い飛沫の一つが、通りにまで飛んできて、BMP-1が通りすぎる傍におちた。
僕の眼は間近でソレを見てしまった・・・
濁った赤い粘液の中に、いくつか浮かぶ黒い眼球、その全てが確かに僕達を見ていた。
チチチ・・・・
「どうして、あの教会の中に、あんなモノがおるのじゃ?」
「それは後で考えよう、他の建物からも溢れてこないか気をつけて」
「おそらくあれがキーラちゃんの言っていた教会ですね」
「ん、でも教会、来るときは、赤いの何も無かった」
「湖跡の動きに呼応して出てきたのかもしれぬな」
どうやら、無事に逃げきれそうだ。
「みんな、もし兵士や冒険者を見つけたら、すぐに逃げるように声をかけて。
徒歩ならデッキの上に乗せてあげて。とにかく、ここを脱出しよう」
「お~い、乗せてくれ~」
赤い粘液を警戒しながら急ぐ僕達に声が掛けられる、ドワーフが3人とヒトが2人。
さすがに、デッキの上は無理だな。
「一条さん、止めて。ハンヴィーを出す」
「了解」
僕はBMP-1から飛び降りて
【ストレージ】 ヴォン♬
黒い靄から、ハンヴィー救急車を取り出し、後ろのハッチを開けた。
「ここに乗って!」
「助かった、湖跡から赤いのが上がってくるわ、教会は燃えているわ
いったい何が起きてるんだ?」
ごめんなさい、教会は僕達がやりました・・・
「わらわが運転しよう、ドワーフは後ろにヒトは前に来い」
ミラセアがハンヴィーの運転席に向かう
「ミラセアさん、後ろからカバーするから先に行って」
サキさんの声を聴いて、ミラセアはハンヴィーを出発させた。
こうして、冒険者を乗せたハンヴィーとBMP-1が麓を登る道に差し掛かった頃。
「長谷川さん、湖跡、たぶん黒いのがあった辺りから赤い霧が出てきてる」
「サキさん、ある程度回復したから霧を出し始めたのかな?」
「私達が来たのを確認して動き出したのかも?
死んだ振りでおびき出された可能性は、さすがに考えすぎですかね?」
「長谷川っち、見た感じ黒いのに被害は出てたよ。今度は出来ればピンポイントで狙いたいね」
「また赤い霧を払う所からですね?」
「みんな、その辺の話は、無事に逃げられてからにしてくれるかな?」
「ナオ殿、兵も冒険者も逃げてきたが、いったい何があったのだ?」
「ウーバン王、ルゼル湖の下にまだいました」
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