第2部 第26話 お願いとリスト解読会議

ギワノの風穴かざあなを塞ぎ、教会の地下と墓地の井戸を塞いだ事で

僕達の当面出来る事はやったんだと思う。


ウーバン王に、井戸の件も含めて、報告に行くと・・・


「そうか、井戸も危険なのか。それでは、今度は環状山地リングの中にあるの調査が必要になるか・・・・」


と呟いて考え込んでいた・・・が、ふと思い出したように、妙に姿勢を正して・・・


「ところでナオ殿、少し相談なのだが?」


「・・・なんでしょうか?」


「今回、我が国は君達に、ここまで世話になった訳だが、この報酬はどうしたらいいだろうか?」


・・・・・・やっぱり、その話ですよね。






「ウーバン王、申し訳ありませんが地位や領地、それから武具や美術品、工芸品等の物品の下賜も断らせて頂いてます」


「そうか、では、何がいいかな?」


逃げそこなった甲殻竜討伐の後のお祭り騒ぎと、無事に逃げ出せたものの、ミーラを迎えにいった時に、やはりお祭り騒ぎになってしまった赤翼竜討伐の事を思い出して、慎重に答える。


「実は、甲殻竜、赤翼竜、いずれの時もナグナム王やマレスバーク代表、その国の中央ギルド代表と相談して、僕達のパーティーには金貨1000枚を頂いています」


「そうだったのか? では、ギルド代表と相談させてもらうよ」


「ただ、申し訳ないのですが、どちらの国の時も、『この上ない栄誉と褒賞を受けた』と公表はされましたが、その褒賞の内容、特に金額についてだけは、なんとか非公表にして頂きました」


ほんとうにごめんなさい。僕みたいな威圧感に欠けた人間が、『こいつ実は1億持ってます』なんて事を公表されてしまうと、もう、まともに外を出歩けなくなる気がするんです。







「・・・そうか、では、金貨以外の褒賞で、我が国で出来る事は何かあるかな?」


「「「「ハイ!!」」」」


日本人女性4人が一斉に手をあげた。

あまりの勢いに後ずさる王様と・・・そこに詰め寄る4人の女性


「布と皮の職人さんを紹介してください。防音耳当てイヤーマフを、もう耳に布を詰めるのはイヤなんです。ヘッドホン型でも、飛行帽型でもどっちでもいいですから。それにキーラちゃんとミーラちゃん用に帽子型の防音耳当てイヤーマフを作りたいんです」


西園寺さん、ありがとう。そういえばキーラとミーラ、耳を押さえていても痛そうだったね。




「腕の良いカバン職人さんを是非、ライフル用のハードケースとソフトケースが無いの。狙撃銃をケース無しでなんて有り得ないの」


早乙女さん、そういえば『狙撃兵の存在意義が』とか呟いてたっけ




「木工職人さんにマガジンローダーを、もう、あんな悪夢は見たく無い」


一条さん、そのせつはほんとうにごめんなさい。



そして、サキさんが最後に叫んだ。


「木工職人さんと布の職人さんと金属加工の職人さんを全部集めて簡易シャワーを、

今まで色々な町の職人さんにお願いしたけど無理だったの。もう船の上で2ヶ月もお風呂シャワー無しは無理!!」


そういえば、サキさん、『船旅は銃をフルオートで撃てる事以外は、劣悪な地獄の環境』って良くこぼしてましたね。


ウーバン王、ちゃんと約束しましたよね、






「ミラセア、キーラ、ミーラは何か無い? 何なら僕からお願いしてみようか?」


キーラは首を左右に振り、ミーラは


「さすがに、思いつきませんね」と笑っている。


「わらわもな、そろそろウーバン王が気の毒に見えてきた」






「す・・・すまない、後で担当者を向かわせるから、その者に言ってくれ」


可哀そうに、完全に及び腰になっている、しかし、ウーバン王に逃げられる前に僕の希望も伝えないと。


「ウーバン王、すみません。僕は呪姫様の受けた呪いについて調べています。こちらの蔵書で呪い関連の書籍や記録などがあれば見せて頂きたいのですが?」


一瞬だが、ウーバン王の表情が酷く険しいモノに変わった。


「・・・呪姫様の受けたという事は、あの凶王の呪いの事かね?」


「そうですが?」


「そういう事なら、もちろん協力させてもらうが・・・」


ウーバン王が何か考え込んでいる。


「何ですか?」


「すまぬがナオ殿、今夜、呪姫殿と2人で来て貰えるか? 内密に見せたいモノがある」


「僕達に・・・見せたいモノですか?」


「ああ、王家の秘事に関わる事なので、あまりおおやけには出来ない内容なのだ。しかし、二人には


「・・・わかりました、伺います」


「案内の者を送るから、その者について来てくれ」






こうして、サキさん達が熱望する色々な物を作る為に、ウーバン王から担当者を送ってもらう事になった訳なんだけど。


ここしばらく、忙しくて見せられなかったリストを見せた途端、サキさんが脱力して放心状態になり。一条さん、西園寺さん、早乙女さんもサキさんの手から奪い取ったリストを見て唸りだした。


それからしばらく、年頃の女性の口からは出来れば聞きたく無い、罵倒やスラングが聞こえてきたので、僕はそっと耳を塞いで、その場を離れた。


僕に今すぐ防音耳当てイヤーマフを下さい。





しばらく、王宮の中庭を眺めて緑に癒されていると、キーラが探しに来てくれた。


「ナオ、サキが呼んでる」


「・・・何か言ってた?」


「えっと、リスト、緊急会議」


僕の右手を掴んで問答無用で引っ張って行くキーラ。掴まれた手が痛い。


「キーラ、手が痛いから少し緩めてくれるかな?」


「ん、わかった」


僕の手をグイグイと引っ張るキーラに、半ば引きずられるようにして、緑あふれる中庭を後にした。





どうやら王宮内の会議室を使わせてもらうようだ。


「それでは、これより第2回のリスト解読会議を緊急開催します。

 え~、なにかと忙しくて後回しにしてしまった、このリスト解読会議ですが、

 その後回しの結果、色々と頭を抱えるような大きな問題が発生しましたので、

 ここで、今回見つかったモノの情報と今後の事について話し合いたいと思います」


会議は、サキさんの妙に含みを持った前置きから始まった。このままサキさんが話を進める様だ。


「まずは私からね、さっきリストを確認したところ、非常に腹立たしい事に、M2ブラッドレーのA1タイプが見つかりました」


「サキさん、ブラッドレーって何? 非常に腹立たしいって何かあったの?」


「いろんな意味でね、この歩兵戦闘車なら全員乗れて、NBC対策がしてあって、TOWミサイルが2基積んである上に機関砲まで付いてるんだよ」


「まあ、紗希ちゃん、アノ時はまだリストに無かったんだし。結果的にフジツボにはミサイルを使わなかったんだから、別に良いじゃない?」


「それは違う、初めて湖跡に行った時に、BMP-1じゃなく、ブラッドレーで行ってったら、私は間違いなくフジツボにTOWミサイル撃ちこんでた」


「いや紗希、ちょっと待て。あの時は、どう考えても逃げるのが正解だろ?」


「紗希ちゃん、それにBMP-1も1発だけレトロ感のあるミサイル積んでたんだよ? 憶えて無いの?」


AT3サガ―ミサイルだと、古すぎて撃っても比較対象にもならないのよ」


「紗希、あの黒いフジツボにミサイル2発当てたくらいで、どうにもならないわよ。 逃げて正解でしょう?」


「紗希ちゃんなら、ミサイル1発撃ってから効果を確認して2発目を撃ってそうだね。有線誘導だから、目標に当たるまで逃げられないし・・・見つからなくて結果オーライ?」


「ブラッドレーだと、逃げ遅れてたかも」


「ああ、見つからなかった幸運に感謝しようか」


「いいわよ、わかったわよ。あと、長谷川さん、リストに用途不明の電気式のヒーターみたいな記述を見つけたから、後で出してみてもらえます?」


「わかった、どれか教えてね」




次は早乙女さん、


「1つ目は、多分、これ医療担当メディック用の医療キットだと思う、長谷川っちに出してもらって中身を確認したら、中によく解らない医薬品以外に局所麻酔とマスクで吸気させるタイプの全身麻酔が入ってた」


「・・・それが必要になる事態は避けたいね」


「そうね」


「もう一つは、ガイガー=ミュラー計数管、いわゆるガイガーカウンター。

やっぱりあったね」


「NBC対策された車両があるんだから、あるとは思ったけどね」





そして、西園寺さん。


「さっき紗希が電気ヒーターの話をしてたけど、こっちは大型の発電機を見つけたの。何か使えるかもしれないわね」


「それはいいわね」


「あと・・・やっと三脚トライポットを見つけたの。ミニガンが取り付けられるか、それはまだ分からないけど、ドワーフさん達の協力があれば大丈夫じゃないかな?」


「やったね、綾女」


「ええ・・・とても楽しみだわ」




最後は一条さんのようだ、今までの話のせいか、かなり疲れた表情をしている。


「紗希たちが大騒ぎしそうなモノが見つかった。いずれ見つかる可能性はあると思ったが・・・ヘリだ」


サキさんがすかざず喰いつく。

「何が見つかったの? アパッチ? ブラックホーク?」


「・・・OH-58カイオワ改良型AHIPだ」


「「「何それ?」」」


「古いタイプのアメリカ製軍用ヘリコプターだ、まあ、さすがに私達の誰もヘリの操縦は出来ないから、見つかったのがコブラでもハインドでも一緒だと思うけど」


「そうだね、むこうでならマニュアルだけでも入手するのにね」


「でも、紗希ちゃん、自由に触れるヘリだよ。飛ばせなくても、長谷川っちに出してもらって、色々といじってみても良いんじゃない?」


「それもそうね・・・兵装は何が付いてるのかな?」




一条さんが、何かを決意したように、話を進める。


「それから、本当に問題なのは次なんだ」


「大騒ぎって、ヘリの事じゃ無かったんだ・・・・」


「正直、言いたく無いんだが・・・・・・M163対空自走砲が見つかった、

さあ、どうする?」






一瞬、一条さん以外の3人が硬直したように動きを止めたが、驚いた事に3人共

まったく別の行動を起こした。




早乙女さんは一条さんに詰め寄っている。

「なんでバラスかな? 言えば面倒な事になるのは分かってたでしょう?」


「黙ってても、綾女が三脚トライポットを見つけた以上、もう面倒は避けられない。それなら、このバカ騒ぎは1回に纏めた方が少しはマシかもしれないだろう?」




サキさんは、必死に自分の手元のリストを見ている

「どこ? 対空自走砲・・・どこにあるの?」




そして、西園寺さんは・・・・・・


気が付いたら、僕の後ろに立っていて、僕の両肩を掴んでいた。


「長谷川さん、出して?」


僕に後ろを振り向く勇気は無かった。


「・・・何を出せば良いんでしょうか? 教えてください」


「紗希?」


「リストに見つからないの、真輝、どれなの?」


「綾女はまず、長谷川さんの肩から手を放せ、長谷川さんの顔が可哀そうなくらい、真っ白になってるぞ。出すなら、中庭に行くかな?」


「長谷川さん、ごめんなさい・・・つい」






さっきまで、僕の心を癒してくれた緑あふれる中庭に出て、リストから一条さんに指示された部分を取り出す。


何故かサキさんと西園寺さんは僕の両脇から動こうとはしなかった。


【ストレージ】 ヴォン♬


大きな鉄の箱の上に、パイプを束ねた様なモノが取り付けられていた。


「「ひぃぃぃっっやぁっほぉ~~~~~~~~!!!!」」


僕の両脇から、奇声が上がって2人が鉄の箱に駆け寄って、そのままよじ登った。


「一条さん、あれって見た事があるような気がするんだけど・・・ちょっと大きいかな?」


「長谷川さん、あれがあのミニガンの元になったM61バルカン砲。飛行機相手に使う対空砲で、まあ、間違ってもこんな都市部で撃って良いモノじゃないけどね」


「そうなんだ・・・」


「あの2人、おそらく、あと数時間はあの上から降りてこないと思います。

すみませんが、今のうちにブラッドレーとカイオワも出しておいてもらえますか?」


「そうですね」


さっきまで、僕の心を癒してくれた中庭は、今は兵器の展示場になっていた。






AT3サガ―ミサイル、冷戦当時NATO側で付けられたコードネームです。

ロシアでは9M14 マリュートカが正式名称のようです。


※M163自走対空砲、装甲車の上に6銃身20mmバルカン砲を乗せた対空砲です。

既出のミニガンはコレをライフル弾が使用できるように小型化したものになります。


※アパッチ、コブラ、アメリカ製の攻撃ヘリコプターです。

※ハインド、ロシア製の攻撃ヘリコプターです。

※ブラックホーク、アメリカ製の中型軍用ヘリコプターです。

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