第2部 第20話 そこに潜む悪夢

これから持ち場を変えての、赤い雲海に対する攻撃が再開される。


『こちら前進観測FO紗希、みんな、聞こえる?』


『こちら、マルス、椿、問題無し』


『こちら、ウラガン、綾女、聞こえてるわ』


『こちら、M109自走砲、真輝、聞こえてるよ』


『それじゃあ、今装填されている、マルス焼夷ロケット全弾発射 

 M109を焼夷弾で10射、ウラガン焼夷ロケット全弾発射、

 M109を焼夷弾で10射。

 長谷川さん、次とその次の装填はロケットを榴弾に変更ね』


『『『了解』』』

「了解」





僕は《またも》マルス近くの退避壕の中で、ドワーフさん達と一緒に

まだ慣れないヘルメットを被ったまま作戦の開始を待っていた。


『それじゃあ、椿、マルス、全弾発射!!』


『マルス、全弾発射!!』


バヒュッゴーン  バヒュッゴーン  バヒュッゴーン  バヒュッゴーン 

バヒュッゴーン  ・・・・・・


マルスの攻撃が始まったようだ、僕もだいぶ慣れてきて、各車両と避難壕を移動して

ロケットコンテナや砲弾を置いていく。


その報告がミラセアからあったのは、午後からの4巡目の最中だった。


『ナオ、やはり湖の中央から霧が濃くなっておるぞ』


「ミラセアから見て、中央のどの辺りが発生源かわかる?」


『おそらく、やや手前辺りじゃと思うが、はっきりとは判らん』


「キーラとミーラはどう?」


『ナオ様、見間違いかもしれないのですが?』


「何かな、ミーラ?」


『湖の中央部分に榴弾が落ちた時に、それまで上がっていた赤い飛沫が見えなかったんです。あの辺りに、何かがあるんじゃないですか?』



「・・・・サキさん、どう思う?」


『そうね、M109の砲弾を対戦車榴弾HEATに切り替えて、

 重点的にソコを狙ってみようか?

 真輝、照準は湖の中央やや手前で。弾着の位置を見て微調整を指示するわ』


『了解だ。長谷川さん、M109こっちに来てもらえるかな?』


「一条さん、すぐに行きます」


僕は、M109に向かって走り出した。



【ストレージ】 ヴォン♫


M109に到着した僕はストレージから155mm対戦車榴弾HEATを30発取り出して、外に出してあった焼夷弾を残らず回収した。


「一条さん、これお願い」


「ああ、ありがとう長谷川さん」


さて、ウラガンを待たせたままだ・・・・




『ナオ様、砲弾の種類を変えた事で、赤い飛沫が時々見えるようになりました』


「ありがとうミーラ、引きつづき観察をお願いね」


『承知いたしました』






実質6巡目くらいだろうか・・


『ナオ、目に見えて赤い霧が薄くなってきたぞ』


「もしかしたら対戦車榴弾HEATの効果があったのかもしれないね」


『長谷川さん、M109の砲弾は対戦車榴弾HEATのままで補充をお願い』


「了解」




『そろそろ照明弾の頃合いじゃな、みな、こっちも始めるぞ』


『『『お~!!』』』






日が沈んでからしばらくして、サキさんが無線の向こうで騒ぎ出した。


『ああ、照明弾に照らされたフィールドに、降り注ぐ焼夷弾ロケットの雨』


『紗希ちゃん、うるさい。ちゃんと前進観測者FOの仕事して』


『そうだ、紗希、私達だって見たいんだ』


『ねえ、真輝、明日はどっちが後半の前進観測者FOやるの?』


『公平に決めようか? 綾女、負けても恨みっこ無しな』


『私も見たかったな・・・紗希ちゃんカメラは?』


『ああ、そうよ。なんでリストにカメラが無いの? こんな光景は永久保存でしょ。

 みんな、今夜からカメラを探すわよ。

 リストの中にカメラらしきモノを見つけたら即報告ね』


 カメラ? それなら・・・・


「サキさん、発電機を使えば、のカメラが使えるかもしれないよ」


『『『『えっ?』』』』


僕は・・・もしかして余計な事を口走ったのだろうか?


『長谷川さん、今の話、そっちに帰ってから、ちゃんと聞かせてもらうね』





UAZ-3151から、真っ先に降りてきた、サキさんに腕を掴まれて

何故か苦笑いの西園寺さん、一条さん、早乙女さんに囲まれたまま

昼に使った天幕の中に連れて行かれた


「さあ、長谷川さん、出してもらいましょうか?」


「紗希ちゃん、セリフがカツアゲみたいになってるよ」


「そんなに慌てなくても、今、出すからちょっと待ってね」


【ストレージ】 ヴォン♫


ストレージから、僕のショルダーバッグを取り出し、

その中から、スマホと充電器を取り出した。


それと、いつも無線機の充電に使っているガソリンエンジン式発電機も取り出して、

始動して使える状態にする。


「スマホのバッテリーが切れてかなり経つから、実際に充電できるかどうかは、

 やってみないとわからないよ」


「「「「・・・・・・・・・」」」」


「みんな・・・どうしたの?」


「長谷川さん、そのバッグとスマホ、どうしたの?」


「こっちに来た時に、持ってたんだけど?」


「そうじゃなくて・・・どうやって?」



そう言えば、僕が来た時の事は、話して無かったかもしれない。


「いや、そもそも僕がココに来た時は、あの黒いのには包まれてなかったから」


「「「「えっ?」」」」


「僕の時は気が付いたら、噴水の横で服を着たまま座ってたんだけど」


「長谷川さんだけ、ズルイ」


「ズルイと言われても。それよりも、そもそも僕が書いているリスト、市販のノートなんだけど、もしかして気が付いてなかった?」


「そんなの、当たり前すぎて気が付かないわよ」


「紗希ちゃん、長谷川っちへの追及は後にして、とりあえず、スマホの充電をやってみようよ。それが使えれば、カメラ問題が解決するよ」






充電が切れてから、かなりの期間放置してたから、ちゃんと動くかどうか

ちょっと心配だったけど、無事にスマホが起動しました。


今は、充電器に繋いだままで、中のアプリを確認しています。

もしかしたら、ストレージの中に入れたままだったのが良かったのかな?


「はい、カメラアプリも問題無く使えそうだね」


早乙女さんにスマホを渡す


「ダメだよ、長谷川っち、個人情報の塊なんだから注意しないと」


そう言いながら、遠慮なくスマホを操作する早乙女さん・・


「いや、そもそも他人に見られて困る様な情報は・・・・・・あっ!!」


1つだけ・・・あった・・・


「長谷川っち、この結星ゆいぼしってフォルダー何?」


僕は咄嗟に、充電ケーブルが外れるのも構わずに、

早乙女さんの手からスマホを奪い取った・・・・マズイ


しかも、つい反射的に、サキさんと目を合わせて・・・そらせてしまった。



「長谷川さん、それって、お父さんの名前の結星ゆうせい・・・かな?」


「ご・・ごめんね、今夜は疲れたから天幕で休んできてもいいかな?」


そこらじゅうから変な汗が出てきた。




「ダメに決まってるでしょ。ねえ、長谷川さん、お父さんのフォルダーって何?」


「サキさん、聞かない方が良いよ、そして見ない方が良い」


僕はスマホを後ろ手に隠す。


「そんな事を言われて、はいわかりましたって言うと思います?」


「そうだよね・・・・」


「ねえ、紗希ちゃん、私達が見てあげようか? ダメな画像なら私達がデータ消去してあげるよ」


早乙女さん、すごく楽しそうだね?


「しかた無いわね、長谷川さん、椿にスマホ渡してくれるよね?」


仕方なく、僕はスマホを早乙女さんに渡した。


3人が食い入るように画面を見ている


「大体が紗希の晴れ着とか制服の写真かな? プッ!」

「クッ・・白目剥いてる、これはダメだ・・」

「くくく・・・これは紗希は見ない方が良いわ」


「椿、真輝、綾女、何を笑ってるの?」


「それは、さつきさんからの写真だね」


「長谷川さん、見て無いのにわかるの?」


「さつきさん、娘の写真を使って、本気で笑わせにくるから」


「長谷川さん、なんで、消さずに置いてあるのよ?」


サキさん、気持ちは良くわかるけど、こちらにも理由があるんだ。


「サキさん、結星さんって、すごくイイ人だけど、時々、とんでもなくメンドクサクなるんだ。特にサキさんの写真の感想とか適当に答えると、後が大変で・・・」


「お父さんが?」


「別に、怒ったりする訳じゃないよ。ただ、それを何日も引きずるんだよ、

 写真の撮り方や機材が悪かったって、仕事に影響するくらい・・・」


「それでも、写真なら感想の後で消せば良いじゃない」


「結星さんね、真面目な顔で『あの時の服と比べたらどっちかな?』とか聞いて来るんだよ。当時高校生の僕に、後の面倒リスクを考えると危なくて消せないよ」


「それなら、お母さんからの写真だけ消せば良いじゃない」


「さつきさんからの消す? それこそ無理だよ

 バレたら、きっと結星さん以上に面倒だよ、サキさん、わかるでしょ」


友ヶ浦家で、一番の逆らっちゃいけないのは、間違いなく”さつきさん”だ。


「・・・そうかもしれないけど」




「「「あっ!」」」


3人が一斉に声をあげた、どうしたんだろう?


「長谷川っち、本当に悪いけどこのフォルダーは消去させてもらうね。

 ほ・・ほら、これから、たくさんの写真を撮るのにの容量を圧迫するから」


「そうよ、これは紗希が可哀そうよ、全部消しましょう」


「そうだ、こんなモノは残しちゃいけない」


「・・・・もちろん、いいですよ。サキさん、結星さん達に説明は任せたよ」


「おい、てめーら、いったい何を見つけた? 消す前に私にも確認させろ。

 長谷川さん、あの中に私の写真以外何が入ってるの?」


「いや、サキさんの写真だけだと思うよ、桃花女子の体育祭とか・・学園祭とか?」


「あんた達、それってを見つけて、証拠隠滅しようとしてるだけじゃないの?」


「紗希ちゃん、自分のアルバムからも抹消したのに、こんな所に残ってたんだよ

 これが長谷川っちのスマホじゃなかったら踏みつぶすトコだからね」


「元のデータは紗希のお父さんが持ってるのか? 向こうに帰ってから一番最初にヤル事が出来たな」


「そうね、紗希ちゃん。お父さんにデータを消させるの手伝ってね」




「なんで、あたしがそんな面倒な事をしなくちゃいけないのよ」


サキさんは、完全に、ふてくされている・・・・




「ねえ、紗希」


「なによ・・・綾女?」


「あの・・・宿坊しゅくぼうの話・・・してもいい?」


「・・・ごめんなさい、お手伝いさせてください」





対戦車榴弾HEAT 現在使用されている対戦車ミサイルの弾頭は大体コレです


※M109自走砲の中に積める砲弾は36発です、焼夷弾には信管を取り付けてないので簡単に誘爆する事は無いと思いますが、念のため回収しました。


※第1話 転移 ナオの荷物の中にスマホが入っている記載があります。もちろん電話もネットも繋がりません。

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