第2部 第19話 走れ!! 白煙の・・・・・中を

僕は夜明け前の環状山地リングの外側、ふもとにある退避壕たいひごうの中で

慣れないヘルメットを被って作戦開始の合図を待っていた。


あの作戦会議の後、彼女達の選んだ3台の為に麓の地面が、少し距離を空けて整備され、そこにストレージから取り出したマルス、ウラガン、M109自走砲を設置した。


あの2人はマルスとウラガンについて色々と熱弁を奮っていたけど、

僕にわかったのは、後ろに積んである荷物ロケット発射装置の形の違いだけだった。


「発射装置が箱型なのがマルスで、パイプを束ねたのがウラガン・・・ヨシッ!!」


そして、夜に備えて山の峰に設置した120mm迫撃砲と大量の照明弾も含めて、それぞれの試射と調整が既に行われていた。



ロケットを撃った後、次のロケットの装填を担当してくれるドワーフさん達も大分慣れてきたようだ。

特にウラガンにはクレーンが無いので、1本の重量が280kgもあるロケットを

16本も装填する作業はドワーフさん達の剛力無しでは大変だったかもしれない。


『みんな、こちら前進観測者FO椿つばき、無線は大丈夫?』


『こちら、マルス、紗希さき、無線感度良好』


『こちら、ウラガン、真輝まき、聞こえている』


『こちら、自走砲、綾女あやめ、聞こえてるわ』


『それでは、打ち合わせ通り、ルゼル湖中央付近の座標を目標にして

 まずは、マルス榴弾ロケット全弾発射 

 マルスの影響で霧の開けた空間に M109を焼夷弾で10射 

 その後にウラガン榴弾ロケット全弾発射 それからM109を焼夷弾で10射』


『『『了解!!』』』


『長谷川さん、2巡目からの、マルスとウルガンのロケットコンテナは

 全部、焼夷ロケットでよろしく』


「わかった、早乙女さん、一時的に榴弾に戻す時は指示をお願い」





マルス近くに作られた第1退避壕、

ここは大きな穴を掘って、上に板を乗せて土を掛けただけの簡単な退避壕だ。

僕以外に、今は5人のドワーフさんが待機している。

入口の木戸を背にリーダー役のドワーフさんが爆風で木戸が開かないように抑えてくれている。


どうやら、夜が明けた・・・ようだ


『マルス、全弾発射!!』

サキさんの興奮のあまり、もはや変なテンションになった声が無線から聞こえてきて、作戦がはじまった。


バヒュッゴーン  バヒュッゴーン  バヒュッゴーン  バヒュッゴーン 

バヒュッゴーン  ・・・・・・


ロケットの発射音と一緒に、木戸に石や砂粒が当たる音だろうか? 

バチバチと激しい音が聞こえる。


木戸を背にしていたドワーフが、外の音が落ち着くのを確認してから

木戸を開けて飛び出した。


僕も他のドワーフ達と一緒に退避壕から飛び出す。


マルスは発射を終えて、旋回発射機を動かしている。


【ストレージ】 ヴォン♬


マルスの車体の横に焼夷ロケットが6本入ったコンテナを2台置いた。


「それじゃ、あと、お願いします」


『M109、初弾しょだん 発射!』

無線からは西園寺さんの声、

どこからかM109自走砲の発射音


 ど~~~~ん 


大きな音が響いてくる。


僕は、そのままウラガンの所に走り出した。






『M109、第5弾 発射!』


ウラガンの近くにある退避壕では入口でドワーフさんが待ってくれていた。


「すみません、ありがとうございます」


木戸から中に飛び込む、こちらには8人のドワーフさんがいた。


「こちら、長谷川、今、ウラガン傍の第2退避壕に入った」


『こちらウラガン了解』





第2退避壕のなかで、じっと待機している。


『M109、第10弾 発射!』


『こちら前進観測者FO、第10弾、弾着を確認』


『了解、ウラガン、全弾発射!!』


バシュバシュバシュバシュバシュ・・・・・・


先ほどよりも発射間隔が短いというか、無い、連続して聞こえる


こちらも木戸にバチバチと何か当たっている。


木戸を背にしているドワーフが、外の音を確認して木戸を開けて飛び出した。


僕も他のドワーフさん達と一緒に飛び出す。


ウラガンは発射を終えて、旋回発射機を戻している最中だ。


【ストレージ】 ヴォン♬


ウラガンの後部に焼夷ロケットが8本入ったコンテナを2台置いた。


「それじゃ、あとお願いします」


僕は、そのままM109自走砲の所に走り出した。





M109自走砲に到着。


【ストレージ】 ヴォン♬


「西園寺さん。お待たせしました、155mm焼夷砲弾20と薬嚢20個、

 ここに置いておきます」


ゴメンナサイ、M109の中への運び込みは僕にはムリです。

後は、ここにいる4人のヒトの冒険者さんでお願いします。


「それじゃあ、あとお願いします」


僕は、そのままマルス近くの退避壕に向かって走り出した。


           :

           :

           :

こうして走り回っているうちに時間は流れ


『こちら椿、みんな聞こえる? 午前中の作戦完了ミッション・クリア

 各車両の装填作業を終えたら、各自周囲の安全確認して。

 私も王様とミラセアさん、キーラちゃん、ミーラちゃんと

 一緒にふもとに降りるね』


こうして僕は、息を切らせながら午前中の作業を終えた。





UAZ-3151から降りてきた早乙女さん達5人、これから雲海の状況報告を聞く予定なんだけど・・・王様の顔色が悪いがどうしたんだろう?


「ウーバン王、どうかされました?」


ウーバン王は僕の顔をじっと見てから、僕の肩をポンポンと叩くと

会議用に準備された天幕の方に歩いていった。

心なしか、あの巨体が小さく見える・・・・・


逆に、早乙女さんは生き生きとして見える。






天幕の中、テーブルを囲んで早乙女さんの報告を聞いて午後の予定を確認する?


「午後からの前衛観測者FOは、紗希ちゃんの番だね。

 スッゴイから楽しみにしてね」


「椿、前衛観測者FOをするのに、何か気を付ける事はあった?」


「マルスとウラガン、連射速度が違うせいか、どっちのロケットかを見分けるのは

 簡単だったよ。後、ロケットは風の影響を受けるって聞いてたけど、上空の風に結構流されたみたい」


「そうなんだ」


「あと、湖周辺の赤い霧を粗方消し飛ばしてから、湖の中央付近から徐々に霧が濃くなっていってる風に見えたの。

やっぱり、霧の下にいた、あの赤いのが霧を出してるんじゃないかな?」


「早乙女さん、どちらかと言うと、そっちの報告の方が重要なのでは?」


「ゴメンね、なにしろ1度見ただけだからね、もしかすると見間違えかもしれない。

 紗希ちゃん、とりあえず、今のロケット砲に装填してある焼夷弾を撃ったら、

 次は榴弾の爆風で霧を散らしてみて。1巡だと不安かな?

 榴弾のロケットで2巡して、念入りに霧を散らしてから様子を観察してみようか?

 それで、湖の中央から霧が出ていたら、おそらく霧の原因はアノ赤いのだと思う」


「そうだね、それで確認してみましょう。サキさんはもちろんだけど、

 ミラセア、キーラ、ミーラも赤い霧の観察をお願いするね」



「紗希ちゃん、マルス発射に興奮しすぎだよ。今度は前進観測者FOなんだから弾着シーンばかり見ていないで、ちゃんと周囲の状況も確認してね?」


「だってマルスなんて冨士の演習場でも狭くて撃っちゃダメなんだよ。

 それが、自分で撃てて、しかも、ほぼ撃ちホーダイなんて・・・・

 こんな幸運はあり得ないでしょ。

 椿、あんただって、弾着シーンばっかり見て、周辺の状況を見て無かったんじゃ無いの?」


「私は赤い霧に、気が付いたから、セーフだよ」


「ツバキ、赤い霧、ミーラに言われるまで、気が付いてなかった」


「シー!! キーラちゃん、それ内緒!!」






「えっと、早乙女さんからの報告は以上かな?

 ところでミラセア、キーラ、ミーラ、赤い霧の事もそうだけど、

 あの蠢いていた赤いの、湖以外の場所では見なかった?」


「ナオ様、ギワノ山の裾野付近で一ヶ所、なぜか時々霧の無くなる場所を見つけました。霧の無くなった時に、その場所で赤いモノが動いているのを見ました。」


「赤いの教会あたりでも見た」


「時々霧の無くなる場所? ミーラ、その裾野の場所を後で教えて。

 湖以外の場所にもいるんだね。ミーラ、キーラ、ありがとうね。

 それと湖以外の部分の赤い霧に何か変化はあったかな?」


「朝に比べればですが、全体的に随分薄くなったように見えます」


「ありがとう、ミーラ。ミラセアとキーラも、午後からは霧の濃さにも注意してくれるかな?」


「わかった、気をつけておこう」


「それと、ウーバン王、ちょっといいですか?」


「何かな、ナオ殿」


「ある程度霧が無くなってからですが、何か動物を使ってでも霧の影響が残って無いかを確認したいので用意して頂けますか?」


「そうだな、分かった、準備しておこう」


「よろしくお願いします」




「それじゃあ、午後からは紗希が前衛観測FO、椿がマルス、真輝がM109、

 そして私がウラガンね」


「陽が落ちたら、ミラセアさんの指示で照明弾を発射開始、照明弾60発撃ち終わったら今日はおしまいだからね」





※『走れ!! 白煙の中を』

すみません、主人公は実際には白煙の中を走っておりません。

白煙が落ち着いてから安全を確認して走っております。


前衛観測者FO 今回、山の向こう側の湖を攻撃していますので、

      ロケットを発射する場所からは湖が見えていません。

      山の上にこの前衛観測者がいて、双眼鏡で湖周辺を見ています。

      実際の着弾位置を無線で報告する事で、発射側が微調整を行い

      次の砲撃が、より正確なモノになります。


※マルス《M270》は自衛隊の装備ではありますが、射程の関係もあって冨士の演習場では撃てません。日本国内では北海道の演習場で、爆発しない演習弾を使って訓練をされているようです。


※今回、実験的にストレージの起動音 ヴォンに♬をつけてみました。

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