第2部 第18話 対蜃竜(仮)作戦会議

アイロガ王国 王都オリハガーダ 王宮内会議室


さて、僕は、なぜここに居る・・・・


前回、甲殻竜との戦いの前の、グザシマイス王国の王城の中での自問自答を

僕は再び心の中で繰り返しています。





紗希さき、それは無理だ、断固反対する!!」


「なによ、真輝まきプランこそ無理があるわよ!!」


「二人共、やめなさい! もっと確実な方法を使いましょう!」


目の前で、サキさんと一条さん、そして西園寺さんが

昨日見た、あの赤い雲海の対応策を検討している・・・が、

お互いに言い争うばかりで、一向に意見がまとまらない。


僕とミラセア、キーラ、ミーラが蚊帳の外なのは先刻承知の上だけど、

何故か早乙女さんも、僕達の隣でめた目で3人を見ている。









「ここは、やっぱりマルスM270でしょ。

 あの気持ちの悪い赤い湖に12発の227mmロケット弾を撃ちこんで

 湖ごと蒸発させてやるのよ」


「なにを言ってるんだ。多連装ロケット砲なら、ウラガンBM27だろう、

 こっちは220mmが16発だ。そもそもマルスなんて高性能ロケット砲、

 取扱説明書マニュアルも無しに紗希に使えるはずがない」


「まあまあ、ここは昨日の射撃実績のあるM109自走砲で問題無いじゃない。

 アレを3台並べましょうよ、ロケット砲の連射に比べたら

 時間は少しかかるかもしれないけど、照準は固定でいいし

 クラスターとFASCAM以外の砲弾なら何を使っても問題ないわけでしょ?」


・・・一向に、意見がまとまらない・・・・



「なによ、アメリカ製のマルスならきっと英語表記よ、

 撃ち方なんて、中を見れば大体わかるわよ。

 ウラガンなんてロシア語じゃない、見てもわけが分からないわ」


「何を言ってる、ウラガンBM27なんて50年も前の骨とう品だぞ、

 扱いなんて単純に決まっているだろ」


「マルスだって、自衛隊でも現役の、もう40年近い骨とう品だから大丈夫よ」


「ねえねえ、どっちも全弾撃ったら、再装填に時間がかかるじゃない。

 長年使っているロングセラーM109でいきましょうよ」




「「は黙ってて!!」」





僕には、目の前で不毛な争いが繰り広げられていた。





「ねえ・・・その3種類とも出したらダメなの?」


早乙女さんの言葉に、一瞬静寂が訪れるが


「「「絶対にダメ!!」」」


即座に否定された・・・


「どうして?」


「「「一斉に撃ったら、弾着シーンが誰も見れないでしょ」」」


自走砲M109はそうだと思いましたが、もしかして他の2台のロケット砲とやらも、

全部、山越えで撃つんですか?



「それなら時間と順番を決めようよ、どうせ撃ちたいけど弾着も見たいんでしょ?

 そもそもロケットの再装填は? 誰がやるの?

 M109の砲弾の装填も今回は長谷川っちだけだと絶対に無理でしょ?

 それに装填作業に使う弾薬運搬車とかクレーンってリストの中にあったっけ?」


「マルスにはクレーンとホイストが付いているはずだけど、それでもロケット装填に

 自衛隊員さんが5人くらい、いたと思う」


ウラガンBM27も専用の弾薬運搬車9T452が無いから、こっちも人がいる」


「M109自走砲も人手が欲しいわね」


「今回は、長谷川っちがストレージからモノを出す所を周りには見せてあるから、

 ロケットと砲弾を出す方に専念してもらうとして

 どちらにしろロケットと砲弾の装填作業に、かなりの人数が必要になるよね?」


「そう・・・なるわね」


「後、どうせ3人共自分の意見を譲らないだろうから先に言うけど、

 車両の設置場所は絶対に離してよね。

 互いの発射の影響で、よそのロケット弾コンテナが誘爆したりしたら、

 間違いなく全滅するわよ」


「それは、そうね・・・」


「それに、3人共、今回は車両の設置位置の近くに装填要員が入る

 退避壕を作らないとマズいよ。

 ドワーフの人だと車両の中に入れないんじゃない?

 前に一緒にマルスの発射の映像、見たでしょ? アレ、周りにいたら危ないよ 

 ロケット装填役の人達全員、撃つときには退避壕に入っておいてもらわないと」


「そうだった、アレの発射シーン凄かったんだ」


よかった、どうやら、早乙女さんが間に入って話を纏めてくれるみたいだ。





「ところで連装ロケット砲を2台出すとなると、今度は長谷川っちが大変になるけど

 そこのところは大丈夫なの?」


なんですと?


「ごめん、早乙女さん、そもそも全然状況が掴めてないんだけど、僕、大変なの?」


「ロケット発射の爆風で石や破片が飛び交い、白煙の立ち込める中で、

 ストレージから、次に装填するロケット弾のコンテナを取り出して、

 ロケット砲の傍に置くんだよね?」


「自走砲の砲弾と薬嚢も持って来てもらわないといけないわね」


「長谷川っち、マジでヘルメット被らないと命が危ないよ」





「それは絶対に無理、お願いだから、せめて爆風と白煙がおさまってからにして」


「それじゃあ、長谷川さんにはマルスの所に30分毎に来てもらおうか?」


「サキさん、その30分の根拠って何? 余裕はどれくらいあるの? 

 実際の車両の設置位置を見ないとわからないけど、無茶を言ってない?」


「紗希ちゃん、それ2ヶ所の退避壕に隠れてる時間も含めてだよね? 

 さすがにチョット無理だと思うよ」


「え~、30分くらいなら次に撃つの我慢できると思ったのに」


「それに僕が白煙の中移動したら、間違いなくどこかで迷子になる気がする。

 かえって効率が悪くなるよ」


「それに、紗希ちゃん、あそこは湖だから躊躇いなく撃ちこめるけど、

 霧が晴れた部分が、いったいどうなっているのか分かんないんだよ。

 いくら撃ちこんでも、新たに霧が発生する可能性だってあるし。

 霧が晴れた場所の状況によっては、目標座標を修正する時間が必要になるかも?」


「そっか、座標の変更もありえるんだ。そうなると前進観測者FOが重要ね」


「そんな事よりも、紗希ちゃん、綾女ちゃん、真輝ちゃん、

 まだ色々と決めないといけない事があると思うけど?」


「決めないといけない事・・・何?」


「砲撃は1日? 日中だけ? それとも何日か連続? 夜は? 

 まさか照明弾を上げながら、朝まで砲撃を続けるの?」


「「「そんな楽しそうな事をやっていいの?」」」


「いや、たぶん朝までは無理だろうけど、照明弾も使って見たいよね?

 夜間の砲撃をするなら、雲海も湖も見えない状態は危ないでしょ?

 M109の砲弾に照明弾はあるけど、使ってみる?

 それとも照明弾用に別に何か出す?」


「でも照明弾なら、1~2分に1発は撃ちたいよね?

 M109単体だと無理よ」


「山の上に120mm迫撃砲を置いたら、届くかな?」


「一応、いける距離ではあるね」


「お~い、120mmの迫撃砲なら、わらわとナオも経験があるが、

 わらわ達だけで、あれを一晩中撃つのは無理がないか?」


「ごめん、僕には無理だと思う」


「そうね、長谷川っちには砲弾とロケットを出してもらわないといけないから、

 今回は照明弾を試すだけにしようか?」

 



こうして、3ヶ所の車両陣地の構築と、退避壕の作成、そして必要な物資の移送が

始まった。






M270マルス、アメリカ製の12連自走式多連装ロケットです。

1982年に配備が開始され、日本の自衛隊も持ってます。

ウクライナに送られたハイマースは、このマルスの後継機です。

このマルスはハイマースの倍の数のロケットを搭載できますが、

重すぎて一般の輸送機に乗りません。


BM27ウラガン、ロシア製の16連自走式多連装ロケットです。

1970年代に配備が開始されたようです。


※M109自走砲を愛する皆さま、超骨とう品扱いをして誠に申し訳ありませんでした。ちなみに本作中ではM109A2を想定しております。



※本作品のジャンルは異世界ファンタジーでありますが、

 果たしてミリタリーマニアの方がマニュアル無しで現行兵器である

 マルスやウラガンの使用が可能かどうか? 

 この辺りはファンタジーという事で可能だったとさせていただきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る