第2部 第16話 サウラタの夜

アイロガとの国境の手前にある小さな町、サウラタが見えてきた。


「ようやくサウラタか、とりあえず宿を確保しようか?」


物陰でハンヴィーから降りて、ハンヴィーをストレージへ


サウラタの町に入って、通りを歩いてゆく、

宿を探しながら通りを奥に進むと、いくつかの通りが合流している広場に出た。

広場の中央にあるのは噴水だろうか? 何か青いモノが見える。





広場の中央にあったのは大きな青い岩、

大人5人が腕を広げて、やっと囲めそうな巨大な岩。

その岩に縦に入った割れ目から滾々こんこんと水が湧きだしていて、

岩の周囲に円を描く様に石が積まれて小さな泉を作り出していた。




「あれが、この町、サウラタの名の由来となった水精石サウジアじゃな。

 水の精霊が宿る石といわれておる

 まあ、この町の観光スポットという奴じゃな」


「ここは観光地なんだ?」


「ああ、なんでも有名な悲恋物語ひれんものがたりの舞台だったらしいの。

 身分違いの恋をした2人が水の精霊の導きで結ばれて、

 その後、恋人が病に倒れる話じゃったかな?」


「「「ふ~ん」」」


それを聞いて、あの4人の内、西園寺さんが心底興味の無さそうな声で

即座に反応した。


「え~、定番っぽいけど、いいハナシじゃない?」


西園寺さんだけが、その話に少し興味があるようだ。


「「「「「ふ~ん」」」」」


こら、そこの双子、一緒になってマネをしないの。






サウラタの宿【水辺の乙女】


今夜の宿が決まった。

「みんな、明日は、早く出て国境を越えてアイロガに入るから

 ゆっくり休んでね」


「ナオ、お主こそ顔色が悪いぞ、早く寝るようにな」


「うん? そうかな? 少し疲れたのかも、そうさせてもらうよ」


日課であるリストの書き込みを少し進めてから、僕はベッドに横になった。






・・・・・ドンドンドン ドンドンドン


うるさいな? なんだ?


焦ったようにドアを叩く音で目が覚めた。

僕の身体は汗でびっしょり濡れていて気持ちがわるい・・・


「ナオ!! どうしたのじゃ?」


ドアの外でミラセアの声が聞こえる?


どうしたんだろうか? 何か・・・頭が働かない感じだ・・

起き上がって、ドアに向かう、ミラセアは、まだドアを叩いている・・


ドアを開けて・・・

「ごめん、ミラセア・・・・何かあった?」


「大丈夫か? お主、また・・・叫んでおったぞ」


またやったのか? 


「ごめん、何にも覚えてない、悪い夢でも見たのかな?」


「そうか、酷く焦った声じゃったから、何かあったかと思って、心配したぞ」


「それは・・・恥ずかしいな、何か聞こえた?」


前と違って、全然覚えてない・・・・・


「確か・・・・・とか言っておった・・・」


「ローン?」


「おお、後は・・・・・・じゃったかな?」


ゾッとした、背中に冷たい汗が流れる・・・・


「ローン? 待ってくれ? 僕は、いったい何を口走っているんだ?

 不吉すぎる・・・一体、何の夢を見ていたんだ? 」


でも、それだと全身の汗も納得できる気がする・・・・・


「ナオ・・・・大丈夫なのか?

 もしや、向こうに残してきた家族か恋人の名か?」


だんじてちがう!! 借金ローンが恋人なんて、あまりに悲しすぎる」


「そ・・・そうか?」


「ミラセア、大丈夫だ、大体だけど夢の内容がわかった気がするよ。

 これから、また似たような事でうなされるかもしれないけど、

 お願いだから、もう、気にしないで」





翌朝、サウラタを出た僕達は、西へ、国境を越え、に入ったのだが


ハンヴィーを運転しながらこの国で僕が見たモノは、

想像の斜め上を行く光景だった。


あちこちで見かける身長が2m以上ある、

ムキムキでモジャモジャの冒険者達・・・・


「嘘だろう? 家がデカイ? 人がデカイ? あれが小人ドワーフ? 

 どう見ても巨人ユミルの方でしょ」


「どうしたんじゃ、ナオ、ユミルとはなんじゃ? ドワーフは初めて見たのか?」


「もしかして、親父さんの店に来ていたムキムキの冒険者の中に混じってた、

 ひときわ大きく見えたムキムキって・・・アレ・・・ドワーフだったの?」


「ドワーフは、大体、あの大きさじゃぞ? 何を言っておるのか?」


「ごめん、ミラセア、僕の知っている伝説のドワーフとあまりに違い過ぎて・・・

 あんなのが小屋に7人もいたら、白雪姫が潰されるんじゃないか?」





ハンヴィーを降りて、王都オリハガーダに入る前に兵士に呼び止められた。


「ドラゴンスレイヤーの皆さまですね、お待ちしておりました。

 国王陛下がお待ちです」





王宮の中に案内される、さすがはドワーフの王宮、広い廊下の両側に

様々な美術品や工芸品が置かれていて、博物館か美術館みたいになっている。


コンコン


「陛下、ドラゴンスレイヤーの皆様をお連れしました」


中には、赤い髪と髭の巨人ドワーフがいた。





「よく来てくれた、ドラゴンスレイヤー、そして呪姫様。

 俺が、このアイロガの国王ウーバンだ」


「ナオです、冒険者ランクA。ドラゴンスレイヤーの称号を頂きました。

 ここに来る途中でも情報を集めようとしましたが全くダメでした。

 国王陛下、いったい何があったんですか?」


「正直、まだ・・・わからんのだ。すまんが色々説明するより、

 向こうで実際に見てもらった方が早い」


「向こう、ですか?」


「その問題が起きているのはギワノ山を含む環状山地リングの内側なんだ、

 ここから北西に50kmほど行ったところになる、明日、一緒に来て欲しい」






客室にみんな集まって、明日の移動の事を話し合った。


「ねえ、長谷川さん、あの王様と一緒に、50kmを・・・馬車で移動? 

 しかも目的地が環状山地? もしかしなくても山道?

 私、もう馬車でガタガタ揺られるのは無理だと思う。

 いっそ王様をハンヴィーに乗せて行こうよ?」


「紗希ちゃん、馬車移動って、そんなにキツイの? ハンヴィー救急車の後ろなら

 ドワーフ2~3人は乗せられるかな?」


「王様1人じゃ移動しないでしょ? 同じドワーフの護衛が付くんじゃない?」


「それじゃあ、王様と護衛に救急車の後ろに乗ってもらって、

 運転席と助手席にこちらから2人。

 あと6人か? ハンヴィーと小さいの《UAZ-3151》に別れようか?」


「馬に乗った兵士の先導があるじゃろうから、それが良いじゃろうな。

 わらわも馬車は絶対にイヤじゃ」






・・・どうして、こうなったんだろう?


僕は、今、救急車ハンヴィーの後ろで、赤い髪の巨人と向かい合わせで座っている。

僕の隣にミラセアがいるのが、せめてもの救いか。


「すまんな、ナオ殿、呪姫様、少し内密に話がしたくてな」

「内密な話ですか?」


車で移動する話をしたら、護衛は馬で来させるから、僕と呪姫様と話がしたいと

言い出した。おかげで、こちらはもう1台ハンヴィーを出すだけですんだけど。


「ああ、内緒だが、もしかするとこれは、我が王家の失態かも知れぬのだ」


「王家の失態ですか? それは僕が聞かない方が良い話に聞こえますが?」


「まあ、失態かもしれないだけだ、その証拠も無い。

 これがなにか解決のヒントになるかも知れんから聞いてくれ。

 他に言いふらさなければ良いぞ」


「それで、王家の失態とは何なんじゃ?」


「過去に禁じられていたギワノ山のふもとの開発を許可した事だ」


「やはり、禁じられておったか?」


「呪姫様は、ご存じでしたか?」


「蜃竜と聞くまで忘れておったが、やはりな。元々は、そこに住む事を禁じられていたか?」


「かなり昔の記録ですが、時の王が、その禁を破って入植を始めたという記載が出てきました」


「禁じゃと?」


あかわざわイノマウこときんズ・・・これを破ったらしいのです」


「ドワーフにしては珍しいの、そういう禁には一番厳しいであろう?」


「そうなのですが、どうやら勘違いをしたらしく」


「勘違い?」


「はい、ギワノ山に住み着いていた赤翼竜、あれがあかわざわイに違いないと・・・」


「確かに、赤かったな」


「当時は耕作地の確保に必死だったらしく、それならば、赤翼竜の活動期さえ

 収穫を諦めれば大丈夫じゃないかと、言い出した者がおりまして」


「それで、開発に踏み切ったのか?」


「耕作地が出来れば、なし崩しに次は住居、結果がこの有様です、

 300年ほど前の赤翼竜の活動期には、一時期、町は放棄されておりましたが、

 その3年後には、赤翼竜の休眠を確認して、再び町に住民が戻りました。

 この事は、とても国民には言えません」





「長谷川さん、そろそろ到着するみたいよ」


「もう、環状山地リングに着くのか? この”はんびー”というのは想像以上に速いのだな」





環状山地リングの峰に立つ僕らの眼下に広がる景色は


「・・・・・あか雲海うんかい?」


盆地? 中央に噴煙を上げる山もあるから火山性の巨大なカルデラ地形かな?


環状山脈が造り出す環の中に、噴煙を上げる山と

不吉な赤い色の雲海が広がっていた。






※北欧神話の小人ドワーフ巨人ユミルからの引用です。


※白雪姫についても一応、7人の小人ドワーフだそうです。

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