第2部 第15話 ドワーフの国へ急げ

先王閣下と夜仙香樹カオラン・ドマ―ンの香りのなかで語り合った翌朝、

マカ―ナス離宮にギルドからの書状をたずさえた伝令の使者がやってきた。


ミラセアが書状を受け取り封を開ける。


「ナオよ、この国の中央ギルドから緊急連絡じゃ、

 どうやらアイロガ、ドワーフの国で何かあったらしい。

 至急中央ギルドまで来て欲しいそうじゃ。

 向こうの国では、もう、かなりの被害がでているそうじゃ」


「何があったか分からないけど、大変な事が起きたみたいだね」


僕達は、先王閣下への挨拶もそこそこに、急いで王都に戻る事になってしまった。







王都ナーエムナの中央ギルドの中には、

すでに、サキさん達、他のメンバーが待ってくれていた。


昨日、挨拶したばかりの、ギルドマスターのサジサルダイルさんも一緒だ。

この人を見た時は驚いた、なんと銀髪のムキムキエルフだ。

あの時は、エルフにもムキムキっているんだと変な関心をしてしまった。

筋肉の圧力というか、険しい表情も相まって迫力というか圧迫感がある・・・


「ドラゴンスレイヤー、すまないが執務室に来てくれ」


昨日、挨拶の時に少しだけ入った執務室に通された。

「すまないが、アイロガの件で、ギルドからの依頼と

 今、わかっている情報を話す、みんな座ってくれ」






「ドラゴンスレイヤー殿、ミラセアクアラ様、

 昨日挨拶に来てくれたばかりだというのに

 呼びだてて申し訳ない。

 アイロガの王宮とアイロガ中央ギルドから

 あなたたちカリキュレーターに来て欲しいとの緊急要請だ

 どうやら、アイロガで竜が出現

 いくつかの町が全滅した


「したらしい? 可能性が高い? なんなんじゃそれは?」


「・・・町が全滅ですか?」


「ああ、こっちで集めた情報でも、良く解らなかった。

 中には竜じゃ無くて住民の暴動だという情報まであってな。

 今、分かっているのは、何か理由があって現地には

 あの甲殻竜の時のように近づくことも出来ないらしい。

 原因が分からず、教会の古い資料をひっくり返して、

 地域の伝承に蜃竜しんりゅうの名前だけが出てきたせいで

 蜃竜しんりゅうだと騒いでいるようだ。

 ギルドの資料には蜃竜しんりゅうなんて言葉、どこにも残って無かった」


「それで、竜が出現した

 ドラゴンスレイヤーを向かわせよう・・・ですか?

 実際には、何が起きているか、わからないわけですね?

 ミラセアは蜃竜しんりゅうって聞いた事無いの?」


蜃竜しんりゅうか? わらわが知っておるのは、もう神代かみよに近い時代の伝説じゃぞ

 全てのモノをむさぼりらう怪物・・・蜃竜しんりゅう


「その伝説では、蜃竜ってどうなったの? 誰かが倒したの?」


ミラセアが考え込んでいる。


「いや、まて、わらわが聞いた伝説では ・・・・ソノ地ニ住マウ事ヲ禁ズ、

 そういえば警告で終わっておった」


「・・・ソノ地がなんで・・・どころか町になってるの?」


「わらわも、幼き頃、エルフの老人に聞いた話じゃから、

 いったい何千年前の伝説なのか、わからん」


「何千年前なんだ・・・・」


「おそらくじゃがな。むしろ教会に、蜃竜の名が残っていた方が驚きじゃ」

 

「ギルドマスター、僕達が、そのアイロガに行ったとして。

 もし僕達の手に負えない状況だと判明したら、逃げてきてもいいですか?」


「私の口からハッキリとは言い難いが、あくまで『来て欲しいとの緊急要請』だ

 ギルドとしては君達に、何があっても逃げるなとは言えない」


「よかった、みんな、とか、

 だったら迷わず逃げようね」


 それは、僕が、みんなの緊張をほぐすつもりで言ったのに・・・


「長谷川さ~ん、それはもう世界の終末、黙示録の世界だよ」

 サキさんに満面の笑みで返された。


「サキさん、僕が悪かった。

 お願いだから、リストを眺めながら、そんなに

 ページをめくるのヤメテくれないかな? 」


「え~」







「ところでミラセア、そのアイロガって国、どこにあるの?」


「皇国の西側にある隣国じゃ、どちらにしろ

 一度皇都には行かねばならんじゃろうな」


「そうだね、皇都のギルドまで行けば何か新しい情報が手に入るかも知れないね。

 みんな準備はいいかな? まずはこれから、皇都に向かおうか?」




僕達は王都ナーエムナを出て南下し

その日の内に皇国北部の町ギュスに到着した。


「明日中には皇都に到着するから、ゆっくり休んでおいてね」





そして、朝早くギュスを出て、ここ皇都中央ギルドに到着した・・・


「カリキュレーターのナオだけど、アイロガの状況について

 こっちに何か情報は入ってないかな?」


「ナオ様、その件で、ギルドマスターがお待ちです」





案内された応接室ではギルドマスターのハルツ氏が待っていた。


「ドラゴンスレイヤー殿、これからアイロガに行くという事で間違い無いですか?」


「そのつもりですが、何が起こっているのか、皆目わかりません。

 ギルドマスター、言っておきますが、危なかったら即座に逃げて来ますよ。

 こちらにアイロガの情報は何か情報は入っていますか?」


「ギワノ山周辺は、アイロガの国軍によって完全に閉鎖されているそうです。

 アイロガからも、あなた方カリキュレーターが、現在どこにいるのか、

 国とギルドの両方から、ひっきりなしに問い合わせがきていますよ」


「閉鎖・・・ですか? ミラセア、とりあえず、皇都までは来たけど、

 ここから西だよね」


「ああ、街道を西に向かって、ヴォスレル、サウラタ、国境を越えて

 イサーダ、そして王都オリハガーダじゃな。

 ギワノ山は王都から北西じゃ」






翌日・・

僕は救急車ハンヴィーの後部座席にいる、運転席はサキさん、助手席はミラセアだ。

そういえば・・・


「リストを見せるのを忘れてた、一条さん、どうぞ」


目の前にいる、一条さんに渡した


「ああ、ありがとう」


一条さんがメージをめくっている


「ん?」


「どうしました、一条さん?」


一条さんが、僕が渡したリストの一部を指さして

「長谷川さん、コレ、タンクトラックだって。

 次の休憩の時に、タンクの中身が何か確認しようか?」


「それじゃあ、次の休憩場所は開けた所がいいね。

 サキさ~ん、人気の無い開けた所を見つけたら、そこで休憩をお願い」


「わかった~」





広い草地にハンヴィーを止めて、少し離れた所でストレージを開けた。

何故かサキさんはハンヴィーの所で西園寺さんと早乙女さんに両腕を掴まれて、

こっちには来れないでいる。





【ストレージ】  ヴォン♬


後ろに大きなタンクを積んだトラックが現れた。

トラックの周囲を一周してみる・・・


「長谷川さん、タンクのプレート表示がディーゼルになっているね。

 これは信じてもいいのかな?」


「牽引トレーラーもプレートがガソリンになっていましたから

 それは信用するしかないですね」


「まあ、そうだね」


「それよりも、僕はガソリンスタンドでアルバイトをした経験もありませんから、

 給油中の静電気とか、火気厳禁とか、そっちの方が怖いです。

 くれぐれも気を付けてくださいね」


「確かに、このタンクだけで、生半可な兵器より熱量がありそうだね。

 とりあえず、乗って来たハンヴィーをココに持って来るよ

 確か、救急車ハンヴィーM996以外に

 もう1台、燃料切れのハンヴィーM998があるんだよね?

 この際だから両方共給油してしまおうか?」


「賛成です、すぐに出しますね」






「ねえ、どうして私は、見に行ったらダメなのよ~」


「紗希・・・あなた、ヒップホルスターから、銃を落としておいて

 何を言っているのかな?

 そんな危ない奴を燃料タンクに近づけるわけないでしょ」


「え~~~~」





こうして燃料の心配も無くなった僕達は

西の街ヴォスレルを通過。


そして陽も傾きかけた頃に、前方に小さな町サウラタが見えてきた。






※タンクトラックは自衛隊の3.5tトラックがベースの

燃料タンク車をイメージしています。

燃料が5100L入るタンクが後部に載っています。

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