第7話 ナオの決断
【マカ】
《マカ、今の聞いてた? こいつら
〖こっちも胸に穴を開けられて・・・なかなか
【ヒール】【ヒール】【ヒール】・・・もひとつ【ヒール】・・・うん、ダメだ〗
かなりマズい・・・なにがマズいかと言うと・・・痛みを感じなくなってきた。
私と一緒に床に転がっている、この黒い
こっちも黒い
《マカ、アノ金髪の超絶美人ってあの王妃さまのお姉さんだよね?
どうしよう・・・僕、思いっきりぶっかけちゃった》
〖間違いなくあの王妃の姉君、ミラセアクアラ殿だ。
まだなんとか生きてはいるようだが・・・
すまないナオ、どうやら私はここで終わりのようだ〗
《僕は・・・マカと一緒に死ぬか戻れるか、後は次の王様の中だっけ?》
〖アートの予想通り無事に帰れる事を祈っているよ。次の国王は恐らく無い・・・こいつらの言う通りオーランが滅びたんだとしたら、この都に住んでいたはずの国王候補達も絶望的だろうからな〗
《次の国王候補って、ここに住んでたの?》
〖ああ、遠縁に当たる人間が5人。私の時と同じなら、呪いの事は知らされずに高位貴族として生活していたはずだ〗
《それじゃあ、マカや他の王様の記憶は?》
〖国外にいるかもしれない遠い遠い血縁者に受け継がれる可能性は・・・無いな。おそらく私と一緒にここで消えてしまう事になるだろう・・・どの道、この王冠と玉座は機能しなくなる。数年か数十年後かはわからんが、いずれこの場所から呪いが溢れ出す〗
《どうしよう? 何か出来ないのかな?》
〖我々に出来るのはここまでだ。 ナオが無事に向こうに戻れる事を祈っているよ〗
《マカ・・・》
〖まだ、あのクソ野郎が話しかけてこないから、もう少し猶予はあるのかな?
ナオから私に聞いておきたい事は無いか?〗
《・・・ねえ、マカ、このお姉さんだけでも助けられないかな?》
〖また無茶な事を、さすがに呪い解くのは無理・・・いや、我々2人で同時に呪いを変質させるなら死なないようにくらいはできるかも・・・〗
《それでいいから、一緒にやろう、お願い・・・このまま死なせたくない》
〖しょうがない、付き合うよ。ところでナオ、この黒い塊どっちが頭だ?〗
《ごめん、倒れるところを見て無かった。どっちだろ?》
両手を伸ばして、黒い塊に触れる・・・どこに触れているか分からないが、失礼な場所に触れていない事を祈ろう。
〖よし、一緒に右の端から変質させていくぞ、【カース・ミューテーション】〗
《右端からだね。オッケー、【カース・ミューテーション】》
たった数分のわずかな時間に、私の身体からは何かが抜けおちていく・・・
あまりの喪失感に声をあげそうになるが、ナオに情けない最期だけは見せたくない。
〖この感じ・・・時間さえかければ解呪できそうだが、もう指先の感覚が無い。
ナオ・・・この女性、呪いで死ぬことは無いだろうが、ずっとこのままの姿で生きていく事になるぞ〗
《それなら・・・僕が呪いを解きに、もう一度こっちに来れないかな》
〖・・・すぐには無理だろうな。ただ、ナオを私の中に引きずり込んだ ”まだ名前もついていないギフト” こいつを変化させていけば、いずれは君自身をこちら側に送り込む事が出来るはずだ〗
《僕がこっちに来れたら、僕一人でこの
〖できる・・・な。実はナオにストレージを押し付けた詫びに【カリキュレーション(演算処理)】のギフトを渡そうと用意してたんだ。ついでに他のギフトもやるから、全部持ってけ〗
《演算処理のギフトだけは結構うれしいな》
〖そんな事を言わずに全部持ってけ おわっ・・・〗
突然、世界が軋んで・・・痛みに鈍くなった身体に激痛が走る、
それと同時に女性に触れていた両腕が黒い靄と一緒に砕け散った。
《うでが・・・》
〖クソッ このタイミングで来るか? まずいナオ、やられた〗
《どうしたの?》
〖
〖ストレージに逃げ込みやがった。〗
《へっ?》
〖あのクソ野郎、なかなか話し掛けてこないと思ったらこういう事か〗
《どういうコト?》
〖あいつは
《ど・・どうしよう》
〖わるいな、ナオ、もう一つオマケが出来た。
《この土壇場で、すっげー嫌なオマケがついたよ》
〖今、オマケを外に出したら、この超絶美人は絶対に助からないぞ〗
《・・・わかった、預かるよ》
〖あと、先に行っておく、ゴメン・・・ちょっと失敗した〗
《今度はナニ?》
〖いや、呪いを変質させてる途中でイキナリ
《おい・・・マカ・・・ナニミスった?》
〖焦って、呪いとは別の所を変質させちゃったみたいだ・・・〗
《どこ? 何を変質させたの?》
〖たぶん、言語系・・・かな? 翻訳ギフトが作用する辺りをチョットね〗
《それって、大丈夫だよね?》
〖・・・たぶん、な。よし、呪いの効果はなんとか消えているようだ。次はちゃんとプロポーズを成功させろよ、私が
《僕の方も呪いを変質出来てる・・・と思う。プロポーズは
〖それでいい。よし、ストレージの引継ぎも終わった。〗
《
〖ああ、ざまあみろだ。なあ、ナオ。お前こっちに来て、この女性の呪いを解くんだよな?〗
《そのつもりだけど・・》
〖そのついでで良いから、ストレージのオモチャ箱の中身減らしてくれないか?〗
《どうして?》
〖あのクソ野郎に最後の嫌がらせがしたい。奴が遊ぶつもりのコレクションで、お前が思いっきり遊んでやれ。出来たら使い切ってくれると嬉しいな〗
《いや、あんな戦車とか無理でしょ。それに地上を何度も滅ぼせるくらいあるんでしょ? 僕、ミリオタじゃ無いから無理。海に捨てたりしたらダメかな?》
〖あの戦車くらいなら海に捨てても良いと思うが? でも、中に海の生き物を丸ごと殺せる様な毒なんて入って無いよな? よし、他のギフトも譲渡完了・・・ところでミリオタってなんだ?〗
《よくわからないけど、あんな戦車とか銃とかミサイルとかが大好きな人の事》
〖ナオの国って軍が無いって言ってなかったか? それなのにそんなのが居るのか?〗
《僕もテレビで見ただけだけど、けっこういるらしいよ》
〖それじゃあ、ナオがその ”ミリオタ” になれば戦車とかが使えるのか?
その知識があれば海に捨てても大丈夫なモノがどれか判断できるかもしれんな。
それとも、”ミリオタ”の友達を作るのはどうだ? その子に使ってもらうんだ〗
《ごめん、僕はまったく興味無い。それに僕、そんなに友達いないから》
〖テレビというのに出て来るくらいなんだから、探せばいるんじゃないか? 戦車を使い放題って宣伝すれば人が集まるかもしれないぞ〗
《いや、こっちに来たら、そのヒト帰れないじゃん》
〖それは大丈夫、ナオが私の ”まだ名前の無いギフト” を変質させれば、きっと自分でこっちに来れるように出来るし、おそらく他人も引っ張り込める。それに今回、無事にナオが帰れたなら、その人も無事に帰れると・・・思う〗
《それなら、良いのかな?》
〖ああ、とうとう身体が崩れてきた、そろそろお別れのようだ〗
ナオ、後の事は頼んだぞ・・・
《わかった、向こうに行ったらミリオタの勉強とマカのギフトの変質だね。
あとは出来ればミリオタの友達・・・》
〖ああ、その通りだ・・・忘れるなよ・・・頼んだぞ〗
《わかった・・・でもなんだろう、今になってすごくイヤな感じがしてきた》
〖なんだ? ストレージに居るクソ野郎の気配でも感じたか?〗
《そんなんじゃないな、もっと漠然とした。向こうでロクでもないコトが待っている気が・・・》
〖ナオ・・・どうした?〗
ナオが先に行ったか・・・それでは一人で滅びの時を迎えると・・・その前に
一つ・・・試してみるか・・・
〖さて、ミラセアクアラ殿・・・私の声が聞こえるか?〗
『誰だ・・・私を呼ぶのは? 死神か?』
まだ意識はあるのか? ここで正直に名乗るのはまずいか
〖私が誰かは後で教えよう、とりあえず貴女はまだ死んでないぞ〗
『・・・しかし、私はあの黒い呪いを浴びて?』
〖ああ、貴女は今も黒い呪いに覆われている。
だが、我々の手でスグに死ぬ事は無い程度には持っていけた。
しかし、申し訳ないが完全に呪いを解くには時間が足りないようだ〗
「我々? 時間が足りない?」
〖そうだ、我々の1人は既に時間切れ、私ももうすぐ消えるだろう〗
『あなたが助けてくれたのか、それはすまなかった。ところで何か用か?』
まだ助かって無い上に、この呪いをぶっかけたのも私なんだが・・・まあ、いいか
〖時間がかかるかもしれないが、時間切れの1人が必ずその呪いを解きに来る。それを確実にする為に我々と契約を結ばないか?〗
『契約?』
〖我らは・・・もしかすると来るのはアイツ1人かもしれないが、
こことは別の世界から必ずあなたの呪いを解きにこの世界に戻ってくる。
ただ、私も実際に世界を渡った事はないからな、確実にこの世界に戻る為の目印になって欲しいのだ〗
『目印・・・私がか?』
〖そうだ、我々の間に契約を結び、それを目印にしたい。他にいくつか目印に出来そうなモノは有るが、エルフの貴女ほどこの世界との結びつきが大きく、
より確実な目印は居ないだろ〗
『暗に年寄りと言われているみたいだが・・・まあよかろう、契約を結ぼう』
〖よし、我が名、マカ・オーランと盟友、
ミラセアクアラの呪いを解く事を、
ミラセアクアラは我らがこの世界に来る為の目印となる事をここに誓う。〗
【エンゲージ】
ナオよ・・・ちゃんとお膳立てはしておいたからな、
もう一度この世界に来るんだぞ
プロポーズの成功を祈っているからな
こうして、私の意識は闇へと落ちて行った。
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