過去の章 私が死を迎えるまで

第1話 呪われた王と幻聴君

オーランド王国 王都オーラン 王宮 謁見の間


〖マカ〗


私が、このオーランド王国の王となって、既に14年の月日が流れていた。


おおよそ3時間毎に訪れる、この身を駆け巡る10分間の激痛とともに・・・


この14年の間、様々な薬や方法を使って痛みを誤魔化してきた。しかし、ここ最近使いはじめた劇薬に近いこの薬も、かなり効きが悪くなってきているようだ。


後は自分の最期の時を、ただこので待つだけ・・・

そんな私の耳に、激痛と共に突然知らない声が聞こえだした。





《何だココ? ・・・・あれっ? 身体が動かない。広い部屋に一人で座っているみたいだけど・・・? いったい僕に、なにが起きたんだ?》


劇薬に近いと言っていたが・・・薬の副作用にによる幻聴か?


《しかし広いな、これだけあればコーキなら絶対にラジコンのコースを作る。ハルトは間違いなくスケボーで傷だらけにするだろうな》


・・・・・・絶対に違うな、薬の副作用がこんな呑気な幻聴のはずがない。


「お~い、ここの床を傷だらけにするのは止めてもらえないか? この間もチョット不注意で床に傷を付けただけなのに、ネチネチと文句を言われたところなんだ」


私は思わず、この知らない声の主に話し掛けてしまった。


《誰? 顔も動かせないんだけど、誰かいるの?》


玉座の周囲を見回すが、やはり誰もいない。


。僕は、なんでこんな広い所で1人でいるんだろう?》






「・・・まさか、私の中にいるのか?」


ふと思いついて、両手で眼を覆って目隠しをしてみた。


《えっ? なんで手が勝手に目隠しするの? 何も見えない》


ため息をつきながら、てのひらの目隠しをはずす。


「どうやら、本当に私の中にいるみたいだな。君はいったい何者なんだ?

 こっちは座ったまま痛みに耐えていたら、いきなり君の声が聞こえてきたんだ。

 薬の影響で、とうとう幻聴まで聞こえだしたかと怖くなったんだが、

 あまりにくだらない幻聴に、思わず話し掛けてしまったよ」


《痛みとか薬って、何か病気なの?》


「いや、薬は単なる痛み止めだ。痛みの原因は、この身体をむしばむ呪いらしいがね」


この幻聴と話をしていると、心なしか、痛みが少し軽くなったように感じる。


《そうなんだ・・・痛み?》


「そうだが・・・どうした?」


《僕も・・・だんだん、痛くなってきた・・・・これ?》


「なんだ、痛みはそっちにも伝わるのか? それは悪いことをしたな」


《身体中が結構、痛い・・・ずっとこうなの?》


「いや、この痛み自体はあと数分で治まるんだが、3時間程後にまたやってくる。これでも薬で痛みを鈍らせているんだがな。しかし、痛みが伝わるのか? ならば味覚はどうだろう? 何か食べてみようか?」


《それなら、甘いモノが良いな》


「わかった、ちょっと待ってくれよ」


【ストレージ】 


私のキーワードで黒いもやが現れ、その中に無造作に右手を突っ込む。


「確か、蜜菓子みつがしがあったはずだ・・・これだな」


白い紙に包まれた蜜菓子の、その包みを開いて中身の黒い塊を口に入れると、

口の中に、あいかわらずのくどい甘さが広がった。


《あっま~い》


「おお、そうか。ちゃんと甘味も感じるようだな」


《・・・って、それより、さっきのナニ? 黒いもやみたいな所から何か取り出したけど?》


「いいだろう。これはストレージという祝福ギフトだ」


《ギフトって何?》


「この黒いもやの中に色々な物を入れておけるんだ。この中に入れておけば食べ物は腐らないし、熱いモノは熱いままなんだぞ」


《すっげー アイテムボックスだ。どのくらい入るの?》


「あいてむぼっくす? さて、どれくらい入るのか調べた事はないな。ところで、私はマカという。この国の国王をやっている者だが、君は?」


《えっ? 王様なの? 僕は長谷川はせがわ直弥なおや、中学2年生》


「ちゅうがく? なにかの職業か? それとも階級なにかかな?」


《違う、学生。14歳》


「それは・・・若いな」


それから、私は、頭の中にいきなり現れた同居人、ナオヤ。言い難いのでナオと、結構な時間をお互いの情報を交換する事に費やした。





ナオのいた世界とは文化や国家も随分違うようだ。



《この世界には魔法が無いのに、ダンジョンがあって冒険者ギルドがあるんだね》


「スマホにインターネット、テレビ、自動車に飛行機か便利な世界だな」


《竜もワイバーンもいるんだ、魔法も無いのにどうやって戦うの?》


「戦争が終わって、まだ100年も経ってないんだろ? それなのに軍隊が無いなんて大丈夫なのか、ナオの国?」


ここまでは、お互いにうまく説明出来ない事も多かった・・・しかし






《マカ・・・ココって、奴隷制度があるの?》


「ああ、主に借金が原因でなってしまう一般奴隷と、盗賊や殺人犯が刑罰で落とされる犯罪奴隷がある」


《魔法以外はホントにファンタジーだね》


「ふぁんたじー? 私も個人的には奴隷制を廃止したかったんだが、この制度はたとえ国王でも手が付けられなくてな」


《なんでなの?》


「もし廃止するなら、まずは犯罪奴隷の収容先を先に作らないといけない。そして一般奴隷を解放するなら・・・その主人が奴隷商に支払った奴隷の購入金額はどうしようか? 国が補償するにも、我が国にそこまで金は無いし、まさか国が踏み倒す訳にもいかない。一般奴隷自身に借金を背負わせれば・・・間違いなく逃げて踏み倒されるな」


《刑務所と物凄くたくさんのお金がいるんだね》


「ああ、この国は周辺の他国に比べれば豊かな国なんだが、それでも犯罪者の受け入れ先よりは、国民の生活や街の整備に優先的にお金を使わないとな」


《それはそうか、王様も大変だね》


「そうだろう? でもな、今のままだと私は、一般奴隷には怖くて話も出来ないんだ」


《怖くてって、マカ、王様でしょ?》


「実はな、主人と奴隷との契約には儀杖魔術マスタフっていう失われた技術が使われているんだ」


《契約魔法みたいなのが残っているんだね》


「その儀杖魔術マスタフなんだが、どういう訳か王家の人間が使うと効果が強く働くんだ」


《なにそれ?》


「聞いた話では、一般奴隷は主人の命令を拒否すると、かなりキツイ飢餓感にさいなまれるらしい」


《よくわからないけど、イヤな感じだね》


「ところが、王家の人間の命令は、さらに強烈に作用するらしいんだ」


《なに・・・それ》


「だから絶対に一般奴隷との契約はしたくないんだが、私も国王という立場上受け取りを断れない場合もあってね」


《どうしてるの?》


「なるべく私から離れた遠い場所で、私に関わらない仕事をしてもらうようにしている」


《王さまは大変だね》


「そうだろう?」






《マカは王様なんだよね、それじゃあ王妃様は?》


「病気でね、ずいぶん前に亡くなったよ。まあ私自身も、そう長くはないんだが・・・」


《・・・なんで? 僕、ここにいるのに、長くないって・・・まさか、僕も?》


「そうか? そういう可能性もあるのか?」


《そもそも、なんでマカは長く無いの? やっぱり病気? それとも、もう100歳のお爺さんとか?》


「お爺さんは酷いな。確かにナオから見ればオジサンかもしれないが、これでもまだ30代だぞ。長くない理由は、さっきの激痛の原因・・・呪いのせいなんだ」


《そいうえば言ってたね身体を蝕む呪いって、その呪いは解けないの?》


「色々と試してみたがダメだった。このまま解ける前に命が尽きるだろうな」


《そんな・・・》


「しかし、ナオが一緒に死ぬ可能性があるなら、何も手を打たないというのも気分が悪いな。しょうがない、協力者を呼ぶか」


《協力者?》


「ああ、これでも一応王様だからね、さっきも言ってけど、この呪いを解こうと、研究や調査を含めて色々やってはみたんだ・・・ダメだったけどね」


《ダメだったんだ》


「でも、その研究者にこれからも呪いの研究を続けてもらえば、同じ呪いに蝕まれた者が助かるかもしれないからね。呪いを研究している研究者のスポンサーになってるのさ」


《呪いの研究者っていうと、黒いローブに身を包んだお婆さんとか?》


「お~い、誰か~ アートを呼んでくれ」







現れたのは、茶色い巻き毛にちょび髭のおじさんだった。




《》ナオの声(マカだけに聞こえる)です。


※【ストレージ】の後にヴォン♬の効果音が無いのは入れ忘れではありません。

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