第2部 第14話 夜仙香樹(カオラン・ドマ―ン)

王城内での内々での祝宴が終わって、今は用意してもらった客室の1つに

みんなで集まっています。


今夜は、王城の中の客室に泊めさせていただきます。

・・・まあ、他に選択肢は無いんですが。






なんでも、先王様からの手紙には何故か ”陽が落ちてから話がしたい” 

と書いてあったらしい。


「ミラセア、 ”陽が落ちてから” って、コレ、いつ行けばいいんだろ?」


「そうじゃのう、まあ、王宮から先触れを出してもらうから

 その日の夕刻までに行けば良いじゃろう。

 マカ―ナス離宮までなら、おそらくハンヴィーで2時間もかからんぞ」


「それじゃあ、明日朝から先触れ? を出して貰って、

 先王様の所は明日の夕方までに行こうか? みんなは、どうする?」


 たぶん・・・後にすればするほど、行くのが億劫になりそうだ。


「長谷川っちが出かけるなら、私達4人はギフトを検証しない?

 紗希ちゃんがずっとしてたけど、せめて1回やっとこうよ」


「そうね、紗希がしてたしね」


「そうだった、紗希がしてたんだ」


放置放置ほうちほうちってうるさいの、わかったわよギフト検証ね」


「だから、長谷川っち、明日、ハンヴィー貸して」


「ギフトを検証? 早乙女さん、本当に気をつけてね?」


「大丈夫、さっき、この城の人に近くにある池か湖の場所を聞いたの。

 とりあえず、そこで水に向かって試すつもりだよ」


「それなら、大丈夫・・・かな?」


「でも、私達がハンヴィーに乗って行ってもいいのかな?

 長谷川っちが帰ってくるのって、早くても明後日でしょ?

 まさか盗まれはしないだろうけど、借りたハンヴィー

 明日の夜はどこに置いておこうか?」


「それならば、城郭の内側、西門の馬車置き場辺りに置いておけばよい。

 どうせ交代で見張りに立つのじゃから、

 見張りの者に一晩、西門と一緒に見張っててもらおう

 エリダルカラムには言っておくよ」


「それじゃあ・・・キーラとミーラはどうする?」


「ナオさまに付いて行くつもりでしたが、

 サキさんと、まだに不慣れな皆さんだけでは少々不安ですので

 ハンヴィーに乗って付いていきます」


「ハンヴィー、池、行く」


「それじゃあ、明日、僕とミラセアは小さい方UAZ-3151の車で行くよ。

 朝から宿を決めて、ギルドに顔を出してから

 城郭の外でハンヴィーを出すね」






そして、翌日。

マカ―ナス離宮に向かう小さい方UAZ-3151の車の中で

助手席で暇そうにしているミラセアに、

先王様について聞いてみた。


「ミラセア、これから会う先王陛下って、どんな人なの?」


「ああ、エリダルカラムの父親、わらわの妹の旦那じゃな。

 昔は・・・・なんとも生真面目な男じゃったな。

 当時はヒトもエルフもドワーフもギクシャクしておっての、

 小競り合いも多く、あやつもなにかと忙しそうじゃったから。

 義弟おとうとながら、ほとんど、話をした記憶も無い」


「そうなんだ」


「それに、わらわは、あの呪いを受けてから、

 呪いを解く方法を探す為に国を出てしまったからの。

 かなり長い時間、国には戻らずにいた。

 最後にうたのは、妹が病に倒れた時じゃったな」


「妹さんか・・・王様が、ミラセアに似てるって言ってたね」


「外見は少し似ていたかもしれぬな。

 まあ・・・性格はまったく違うがな」


「まったくって・・・そんなに性格が違うの?」


「なんと言うか、というか、というか、

 その辺りはエリダルカラムが似ておる」


「ほんわかした人だったんだね」


「ああ、よく妹の、で、一国の王妃が務まっていたものだ。

 千年前の、凶王の国でアレが起きた時、

 あれは、あやつが、王になって間もない頃じゃった。

 の王都が滅びたという知らせが来た時、

 国王が蒼白な顔で、様々な指示を出しておったゆえ

 あの性格には助けられたかもしれんな」

 


「そうだったんだ」


「そうして、皇国と、このエーライザル、そしてドワーフの国アイロガから

 調査団が送り込まれたのじゃが・・・・

 調査団が見たのは、人影が消えた王都と周辺の町から逃げ出す民衆

 そして、王都を中心に次第に範囲を広げてゆく死の呪いじゃった」


「その調査団って、ミラセアも参加したの?」


「ああ、先行していた調査団の増援としての

 そして、その調査中に王宮の玉座に黒い人影、

 王冠を被った呪いの塊を見つけたのじゃよ」


「それが凶王?」


行く先に、大きな湖の湖面が光にキラキラと反射しているのが見えてきた。


そう呼ばれておるな。

 マカ―ナス離宮は、あの湖のほとりにあるはずじゃ、そろそろじゃぞ」


こうして、僕達はマカ―ナス離宮に到着した。






夕刻、さすがに王家の離宮、かなり大規模な建物だ。


「ミラセアクアラ様と ナオ様ですね。お待ちしておりました」


侍従の方だろうか? 門の外で待っていてくれていた。


「この度は、わが主の我がままにお付きあいを頂きありがとうございます。

 夕刻まで、少し時間がございます、もしよろしければ

 お食事をご用意させていただいております、

 しばしお待ちいただけますでしょうか?」


「ああ、頂こう」






ほどなく、陽は落ちて。

侍従さんに案内された部屋には、豪華な寝台が置かれていて

そこに、一人の老人が横たわっていた。

部屋の中に・・・・何か甘い香りが、漂っている。





「先王閣下、エリダルカラム王には、そこまで体調が悪いとは聞いていなかったぞ」


「当然だよ、ミラセアクアラ。 ・・・・あいつには言ってないからね。

 その姿、君は・・・あの頃と変わらないね。

 よかった・・・本当に、あの呪いが解けたのだね?」


「ああ、解けた理由は未だ分からないが、何故か解けた。

 これが、呪いを解いたナオじゃ」


「先王閣下、偶然ですが呪いを解いたナオと申します」


「ああ、すまない、君の事は、侍従たちから聞いた・・・というか

 申し訳ないが、侍従たちがミラセアクアラの情報だけを長年、

 私の耳に入れない様に止めていたようなんだ」


「なんなんじゃ・・・それは?」


「どうやら、妻の指示だったらしい」


「キセラムフリスが? ・・・・どうして?」


「さあ、今となっては・・・何か理由があったのだと思うが、

 侍女の世間話の中で、君の呪いが解けた事を聞いて驚いたよ。

 それが無ければ、ずっと気が付かずにいたかもしれないな」


「その侍女のお手柄じゃな」


「ああ、君の呪いが解けたと聞いて、

 私が死を迎える前に・・・・・どうしても聞いておきたい事があってね」


「そこまでして聞きたい事が? 呪いが解ける前でも呼べば良いじゃろう?」


「私も妻も、あの呪いに覆われた君には、とても聞けない事だったんだ」


「呪いに覆われた? お主だけでなくキセラムフリスもか?

 いったい何が聞きたかったのか?」





「ああ、のあの時、の王が

 か? か? それともだったのか?

 私に教えてはくれないか?」


先王の、その言葉に、ミラセアは動けないようだった・・・・





「・・・・申し訳ありませぬ、先王閣下。

 余りにも意外なその、想像すらしておりませなんだ。

 ですが、その答えは・・・・何も無かったのじゃ」


「何も・・・無かった?」


「わらわと、他の2人も、玉座に座っていた黒い闇の様な人影に声を掛けた。

 しかし、返答は無く、代わりに黒い奔流の様なモノが人影から飛んできよった」


「それでは、の王は、何も言わず?」


「わらわは両手剣を手に、確かにを貫いた。

 それが、わらわの最期に感じた感触じゃったから間違いはない。

 わらわは・・・呪いを全身に受けて倒れ、気が付いた時には

 彼の王の身体は崩れ去っておった」


「それでは、解呪の条件・・・は?」


「他の2人から、の王が崩れ去る前に、そう言い残したと・・・」


「・・・そうか、の王は、何も言わずに逝ってしまったのか」


「先王様は、の王とは?」


「何度か、妻と一緒に、あの国でね。 

 彼の王が都を滅ぼしたと聞いた時、正直、耳を疑った・・・」


「じゃが・・・・・」


「ああ、事実だった・・・国は滅び、呪いは広がって行った。

 ミラセアクアラ、よくあの王を止めてくれた。

 あらためて・・・・感謝するよ」






「先王閣下、気になったのですが、どうして陽が落ちてからなのですか?」


「ああ、ナオ殿、この部屋に漂う甘い香りに気が付いたかな?」


「はあ、これは・・花の香り? 確かに香りますね」


「庭にある、夜仙香樹カオラン・ドマ―ンの香りなんだ」


夜仙香樹カオラン・ドマ―ンですか?」


「陽が落ちてから香りを放つ

 の王から送られた夜仙香樹カオラン・ドマ―ン

 この樹が数年ぶりに花を咲かせたんだ。

 まるで・・・・私の背中を押すようにね」









アイロガ王国


王都 オリハガーダ


王城


「・・・・この報告は真実なのか?」


「はい、国王陛下。ギワノ山の麓にある1つの町と4つの村、

 全てから連絡が途絶えました」


「あの一帯が赤い霧に覆われているとの報告がありました。

 霧の中に入った冒険者が・・・・・帰って来ません」


「ギルドからの情報で、

 マルザムで討伐された赤翼竜の特徴が、ギルドに残っていた資料の

 ギワノ山を根城にしていた赤翼竜の特徴と一致したそうです。

 ギワノ山周辺で異変が起きていないか確認が入っています」


「アイロガ王国、国王ウーバンの名の元に宣言する。

 ギワノ山を囲む環状山地リングに繋がる道を全て閉鎖せよ

 環状山地リングの内側に、これ以上人を入れるな」


「しかし、王、住民の救援に向かわなければなりません」


むごいようだが、あそこには・・・もう生きている者はいない」






先触さきぶれ・・・・訪問を知らせる為に、事前に送る使者とさせて頂きます。

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