第2部 第13話 エーライザル王国


エルフが治める国の1つ、エーライザル王国 その王都ナーエムナから


数十キロ離れた湖畔の地に、ここ、マカ―ナス離宮がある。


既に夜のとばりが降りて、仄かな明りが照らす室内に


豪華な寝台の上に横たわる老人と、その老人に声を掛ける侍女らしき女性がいた。


、お加減はいかがですか?」


「・・・ああ、だいぶ いいよ。 なにか、甘い香りがするね?」


「中庭の夜仙香樹カオラン・ドマ―ンの香りですね、

 あの老木が、数年ぶりに花をつけました」


「あの樹が・・・花をつけたのか?」


「はい、白い小さな花がキレイでした。明日、庭に出てご覧になりますか?」


「いや・・・・この香りだけで十分だ」


「・・・そういえば、今日は、皇都からの使者が香草茶を届けてくれておりました、

 お入れしましょうか?」


「ああ、後で頂くとしよう」


「その使者に聞きましたが、

 あのミラセアクアラ様の呪いが解け、

 今、皇都に来られているそうですよ」


「・・・・・ミラセアクアラの呪いが解けたか?」


「はい、そう聞いております。王宮も大騒ぎだそうですよ」


「ミラセアクアラの呪いが解け

 甲殻竜は道を見失い

 赤翼竜はを追われたか・・・」


「先王様?」


「あの、オーランドが滅びて、もう1000年余りが過ぎたか

 しかし、ミラセアクアラの呪いか・・・」


「オーランドと言いますと、かの凶王の国でしたか?」


「・・・すまぬが、私の前で、そのを出すのはやめてもらえぬか?」


「そうでした、失礼をいたしました」


「すまぬが、王宮にミラセアクアラが来ることがあれば

 こちらにも顔を出す様に、王宮にことづけを頼む」


「承知いたしました、先王様」


「それと、これは私のわがままだが、できればこの夜仙香樹カオラン・ドマ―ンが香る

 陽が落ちた時間に会いたいのだが、それも頼めるかな?」


「はい、では、そのように」











エーライザル王国 王都ナーエムナ 王宮


ミラセアの故郷である、このエーライザル王国の国王陛下から召喚された僕たちは

今、謁見の間で、玉座に座る国王陛下に対し、ひざまずいて頭を下げていた。


この謁見の間に入る時に、ちらりとその姿を見たが

豪奢な冠を被り、豪華な装束を纏った細身の青年にしか見えない国王陛下。

輝く金色の髪に、エルフ独特の怜悧れいりな印象を与える顔立ち、

まるで水晶のような感情の見えない目


われがエーライザル王国、国王エリダルカラムである。

 顔をあげよ」


まるで、機械が話すような感情の籠らない声が聞こえて、僕は顔を上げた。


玉座には、エリダルカラム国王が、氷のように瞬きもせずに座っている。





その時、静寂に包まれた謁見の間に


 ゴトン 


何かが床に落ちたような音が響いた・・・・・


僕の、だ・・・・・反射的に、その音がした方を








サキさんの銃P220がヒップホルスターから抜け落ちて、そこに転がっていた。


あの3人の視線がサキさんに突き刺さった。


奴隷サキさんの仕出かした事の責任は

 僕の脳裏に、この絶望的な言葉が蘇った・・・


玉座の方でも動く気配がする

視線をサキさんの銃P220から引き剝がして

泣きそうになりながら国王を見る。






、もう・・・・普通に話してもよろしいですか?」


「まあ、?」


国王の言葉に対する、横柄な、その声は、僕の右隣から聞こえた。


「ミラセア?」


ミラセアが立ち上がって、P220を拾ってサキさんに渡す。


「しかし、サキよ。さすがにコレはマズイぞ

 ダンジョンで大勢に見せておるから、

 皇国の方では、これが武器だと認識されはじめておる

 では絶対にやってはならんぞ」


「・・・ごめんなさい」


「それと、エリダルカラム王よ、わらわをで呼ぶのも辞めよ」


「しかし、伯母上おばうえ、そういうわけにはいきません」


「・・・というわけで、わらわの甥っ子にあたるエリダルカラム王じゃ」


「甥っ子の、エリダルカラムです。

 エルフの王宮が他の国の王宮に対応で負ける訳にいかないから

 若く見える私は威厳を演出するように伯母上おばうえから指示されていましたが

 

 こちらに祝宴の準備をしておりますので、ぜひ楽しんでください」


「ミ・・・ミラセア」


「グザシマイスのナグナム王や皇国のオラシアムス皇帝には

 絶対に負けるわけにはいかんからの」


「それなら、そうと、先に教えておいてよ」



「先に教えたら気を抜くじゃろ?

 現にサキが、見事にしな。

 皇都に入れば、ここに呼び出されるのは判っておったからの

 王宮の連中にも準備をする時間を与えてやったのよ。

 しかし、エリダルカラム。

 王家からの書簡に伯母上おばうえ伯母上おばうえとしつこく書きおって

 恥ずかしくて、皆に書簡を見せられなかったではないか」


「それは、配慮が足りませんでした、お許しください」


「それに、お主、玉座で瞬き一つしないのは違和感があったぞ」


伯母上おばうえを跪かせておいて、自分1人が座ってるんですよ?

 あまりに緊張して動けませんでした。

 この正式な礼装をしたのも、おそらく100年ぶり、

 私の戴冠式以来ですよ」


「先王閣下が退かれて、もう100年程になるか?」


「はい、今はマカ―ナス離宮にいます」


「あそこか? 随分辺鄙なところに移られたのだな」


「実は、伯母上おばうえ。父から伯母上おばうえが王宮に到着したら

 離宮にも顔を出す様にと手紙が来ています」


「先王閣下がか? わらわはあの方に避けられていると思っていたが?」


「まあ、父も高齢ですから。呪いが解けたと聞いて、

 亡くなった母に似たあなたに、会いたくなったのでは無いですか?


「まあ、なんの用かは知らぬが、明日にでも行ってみるとしよう。

 のう、ナオ」


「・・・僕も一緒・・・なの?」










【**************】



「****様、カンカレラで動きがありました。

 引継ぎ書の書き換えが発覚、

 村長が過去の決定について過ちであった事を宣言しました。

 村の引き継ぎ書に施した呪文字カーシアが解かれ、

 白と赤を含め、記載が抹消された模様です」


「そうか、呪文字カーシアが解かれたのは初めてだな。

 では、カンカレラ周辺の行動は一旦停止。

 ビンドロアの森、ミーク・ジグの泉もだ

 全ての人員を撤収しろ」


「全ての人員の撤収ですか?」


「ああ、カンカレラで何かの動きが起きる事は想定していたが

 呪文字カーシアが消されてしまった以上、無理に動く必要は無い」


「はい、撤収の手配をいたします」


「しかし、呪姫もあいつらにとはいえ、

 甲殻竜と赤翼竜の両方に遭遇するとは

 まだ、何かに呪われているのではないか?」


「****様、さすがに不謹慎ですぞ」


「そうだな、それで、さっきの情報は本当なのか?」


「はい、マルザムに居た赤翼竜は、

 ギワノ山で眠っていた赤翼竜で間違いないようです。

 伝承文献と特徴が一致しました」


「ギワノ山から・・・マルザムに?」


「はい、おおよそ500年周期で目を覚まして

 周囲の大型動物を喰らいつくすと言われている赤翼竜です。

 ギワノ山と周辺の森林はヤツの狩場でしょう

 あんなバケモノが休眠期間中に無理矢理目を覚まして

 大事な狩場を放り出して逃げ出したんだとしたら・・・・

 あのギワノ山にはいったいナニがいるんでしょうか?」


「あの辺にいる手飼いの冒険者を通して、ドワーフどもの国に情報をだしてやれ

 上手くいけば、あのドラゴンスレイヤーが、また巻き込まれるかもしれない。

 おそらくだが、場所はギワノ山じゃない。

 私の想像が当たっていたとすれば、もっと厄介なのが目を覚ました」


「****様、何か、ご存じなのですか?」


「・・・・・・蜃竜しんりゅうだ」






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