第2部 第2話 隠していた事

そうして出航当日、僕たちは【麗しきノーフ】に乗り込んだ。

船長は細身でカイゼル髭のおじさん、ブーマット船長だ。


「やあ、はじめましてドラゴンスレイヤー殿 

 よく私の船に乗ってくれた。歓迎するよ」

「ブーマット船長、よろしく頼みます」

「こちらも、君達が乗ってくれたら安心だ」

「うちのメンバーもしています」


そうして、出航した。

「ミーラ、船は大丈夫?」


「はい、ナオさま。マルザムに来るまでは大変でしたが大丈夫です」


「それならいいけど。

 たぶん、これから海の上で起きる戦闘に参加する事は無いと思う、

 ただし、大きく揺れる事もあるから、船から落ちないように気を付けてね」


「戦闘は無いんですか?」


「いや、ミラセアもキーラもサキさんもになってるから・・・

 おそらくだけど、僕達は何もさせて貰えないと思うよ」


そこにキーラがやって来た。

「ナオ、 10個」

「キーラ、そんなに腰袋には入らないでしょ、5個にしておきなさい」

「わかった、じゃあ5個」

「じゃあ、出すからこっち来て」

物陰で焼夷手榴弾テルミット弾を出す。


「はい、赤いの5個ね」

「長谷川さん、こっちも5個」

「わらわも5個じゃ」

「はいはい、今持って行くよ、ほらね、ミーラと僕の出番は無いから

 一緒に大人しくしていようね」

「はい、ナオ様と一緒ですね」


最近は本当に僕の出番が無い。


「ナオ、バレットを出してくれ」

「はい、どうぞ」

ミラセアがバレットを使うようになってからは、特にそうだ。


もともと、僕よりも身体能力の高いミラセアは、すぐにバレットの扱いを覚えた。

その上、ここは船縁ふなべりのお陰で撃ちやすい。


特に動きの速い海獣相手にはレーザー照準器を使っての射撃が効率いいようだ。





そして夜、船室で一人でいるとミーラが訪ねて来た。

「ナオ様、ミーラです、よろしいですか」

「どうぞ」

中に招き入れる。


「どうしたの、ミーラ?」


「あの、ナオ様、私半年の研修の中で男性のお世話についても学んでおりまして。

 もし、ナオ様に求められましたら、おこたえできるようにはしているのですが?」


「ごめんね、ミーラ、先に言っておけば良かったけど、

 僕に、そういうつもりは無いから。

 それとキーラから、断られてはいるんだけど、

 いずれ君達を奴隷から解放する予定だから、そのつもりでいてね」


「お姉ちゃんは、断ったんですか?」


「うん、ドラゴンスレイヤーの称号をもらった時に一度、解放を提案して、

 あの掟が撤回された後にも解放しようとしたけど、また断られちゃった。

 最初、口ではミーラを探すって言ってたけど、

 君の名前と年齢以外の特徴を言わなかったのは

 ほんとうは、君を見つけて欲しく無かったのかもしれないね」


「見つけて欲しく無い・・・・ですか?」


「見つけたら、掟に従わなければならなくなる。

 でも、放置すれば村に災いが起きているかもしれない。

 たぶん、キーラもずっと迷ってたんだと思う」


「そんな・・・・」


「他の子供達を庇って奴隷になったって聞いたけど、もしかしたら

 それを受け入れる事で、掟から逃れる理由が欲しかったのかもしれない」


「おねえちゃん」


「掟も無効になったから、もう解放を受け入れてくれてもいいと思うんだけどね」





「ところでナオ様、いいハナシでこの場を纏めようとしてますが

 何か隠されてますね?」


「え? 何も隠してないよ」


「こらからお仕えする方ですから、ここ2~3日の間に

 少しでも趣味や嗜好を掴もうと観察させて頂いておりました」


「ダーナさん、君を教育するのに、どんな教師をつけてくれたんだろう」


「指導は5人で受けましたが、ダーナさんが非常に乗り気で

 せっかくだからと皇国の皇都オーヴェリアから教師の方を呼んでくださいました。

 以前は皇城の侍女教育をされておられた方らしいです」


「なんで、そんな思い切った事を?」


「同業大手のポザンド商会との差別化をはかりたくて、

 これまでも色々と試行錯誤をされていたようです。

 『これだ!!』っていってました」


「商売上の戦略としては間違って無いのか?」


「それは、これからダーナさんが考えることですよ。

 ところで、ナオさまは、特に女性に対して、

 意図的に距離を取ろうとしておられませんか?」


「・・・そう見えるかな?」


「いえ、そこまででは無いですが、そう見えます。

 なにか理由がおありになるなら、お聞きしておこうかと思いまして。

 主人の意に沿って動く様に教育されていますので、

 距離を取られる理由を理解しておいた方が動きやすいです

 私は姉と違ってナオ様とお会いして数日の人間ですから、その分話易いかと」


「はあ~、そこまで見透かされるとは」


「いえ、ナオ様がそこまで徹底なさるのですから、よほどの理由かと思いまして」


「ミーラ、内緒に出来る?」


「私は奴隷なんですが?」


『何も殺さず、何も犯さず、神と呼ばれ

 この世の生まれで無い者なら呪いは解けよう』


「これは、知ってるよね」


「はい、有名な言葉ですから」


「でも、何故か呪いが解けてしまったんだ」


「不思議ですね」


「この世の生まれで無い者・・・これは正しい。

 僕とサキさんはこの世界の生まれでは無いからね。

 これはクリアーだ」


「・・・そうなのですか?」


「何も殺さず・・・さて異世界の、それも銃を使って殺した場合、

 僕が殺したと認識出来るんだろうか?

 以前に地面に爆薬を埋めてキーラが点火したけど、

 もし、あの行為で生き物が死ねば、これはキーラが殺したの?

 なら一定時間で点火する様にすれば、だれも殺してないのに死ぬことになる。

 もしかして、僕が殺した事をとすれば

 これもクリアーだ」


「そんな・・・」


「神と呼ばれ・・・これこそ偶然なんだけど、

 僕は商人の世界で算術の神様と呼ばれているらしい。

 一定数の人間の集団意識の中で神と呼ばれる事がその条件なら

 これもクリアーだね」


「まさか・・・」


「何も犯さず・・・これが分からないんだ。

 犯罪行為なんて人間が勝手に決めた事、

 国の法律が変わるだけで違ってくる。

 国王の一言で法律が変わりそうなこの世界で?

 こんな不確かな条件かな? 

 でもただ一つ異性に関してこの言葉を使うなら条件が少し固まってくる。

 他の異性と性交渉をしたことがあるかどうか?

 もしそうならクリアーしている」


「ナオ様?」


「僕の杞憂きゆうなら問題ないんだけど、万が一そうなら、

 僕がをすることでミラセアとサキさんの呪いが

 復活してしまう可能性がある。

 サキさんもそうだけど、おそらくミラセアは呪いの復活には耐えられない」


「・・・その為に距離を取っているんですか?」


「ああ、もちろん軽はずみな事をするつもりは元々無かったけど、

 何しろ、A級冒険者のドラゴンスレイヤーだから

 誰かに一服盛られて、朝起きたら隣に知らない女性が寝てて、

 ミラセアとサキさんの呪いが復活してたら・・・・

 僕は、きっと死にたくなるくらい後悔するから」


「ナオ様を自分の陣営に取り込む為に、女性を送り込む事くらいは、

 今後、ありそうですね」


「今は、その件もあってリスクが大きすぎる。

 実際には何も起きない可能性もあるけど、

 こんな、あやふやな条件にミラセアとサキさんの人生を掛けられないよ」


「それでは、ナオ様にだけ負担が掛かっていませんか?」


「いや、そもそも全て僕の想像の産物、負担なんて存在してないからゼロだよ」


「それが、ナオ様の隠しごとでしたか」


「ああ、すべて僕の想像を元に決めた事。

 今のところ呪いが解けた事実だけがあって、

 客観的な条件の証拠は何一つないんだ。

 こんな恥ずかしい事は人に言えないから絶対内緒にしてね」


「承知いたしました、絶対に他の人には話しません」



「ありがとうね」


「では、失礼いたします。お休みなさいませ」


「ああ、お休み」





【ミーラ】


なんともまあ、我が恩人殿がそんな事を考えていたとは。


あの、バレットとかいうのを呪姫様に渡したのも、

解呪の条件が明確でない以上

万が一、呪いの解呪条件に引っかからない為か?


しかし、その可能性になら1000年以上の間、解呪の条件を考えていた

呪姫様も行きついているはず。


皇国でこれから行われる解呪で、この条件が少しでもはっきりすれば

恩人殿の心理的負担も少しは軽くなるだろうか?






※主人公、雇ったばかりの15歳のメイドに『僕は**です』と宣言する図。

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