第13話 耐えられないほどの気まずさ

「その影の下、ちゃんと服は着ていますか?」


「長谷川さん、前言撤回してもいいですか?」




「すみません、サキさん。すみませんが大事な事なんです。

 ミラセアの時は解呪した影の下に衣類が残っていなかったんです」


「えっ?」


「おそらく千年の間に劣化して朽ちてしまったせいだと思いますが、

 もし、浴室などから直接この世界に来たのなら、衣類を用意してもらって

 僕は目隠しをしてミラセアに僕の手を動かしてもらう事になりますので

 差支えなければ教えてください」


「なるほど、そういう事ですか。なんて卑劣なセクハラ野郎かと思いました。

 大丈夫です。外出着だったはずです」





サキさんは寝台に腰かけ、僕はその前に膝をついて座った。

「では、サキさん。両手を前に出してもらえますか?」

「では、お願いします」

 と両手を前に出した。

「じゃあ、やってみますね」意を決して両手を握ってみる。

 女性らしい小さな掌の感触が、僕の掌の中にある


「何か照れますね」とサキさん

「言わないでください、僕まで恥ずかしくなりますから」

 サキさんの両手を覆っていた黒いもやが薄くなっていく


 サキさんの細くて艶やかな両手が現れた。


「相変わらず理由はわかりませんが、僕の手で解呪可能みたいですね」


 サキさんが、自分の両手を見詰めていたが、突然、その動きがピタリと止まった。


「長谷川さん、あなたの触れた場所が解呪されるんですか?」


「はい、サキさんの想像した通り、が問題なんです」


サキさんの綺麗な両手が、影に包まれた自分の身体を不安そうに抱きしめた。


「長谷川さん、目隠しとミラセアさんをお願いします」





僕は目隠しをして、膝を付いた。

「それじゃ、ミラセア・・・お願いね」

「ああ、わらわに任せよ」


(おそらく)ミラセアが僕の右手首を掴んで、移動させていく・・・・


「ああ」「んっ」「ひっ」「ぐっ」


ああ、耳栓を忘れた。耳からサキさんの口から洩れる声が聞こえる。


「えっ」「そんな」「やめて、ミラセアさん」「そこはダメ」


ごめん、サキさん。ミラセアに日本語は通じないんだ。

それより、さっきから布の感触を感じないんだけど?


「ミラセア、変じゃない? 手に布の感触を感じないんだけど」


「ダメ、長谷川さん、聞かないで」


「ああ、影の下は何も着ておらんな」


「何を言ってるか判らないけど、聞いちゃダメ」


ごめんなさい、聞いてしまいました。






「ナオ、終わったぞ」


「ミラセア、僕の目隠しを取る前に、

 サキさんにシーツかけてあげてくれるかな?」


「大丈夫だ、シーツはかけた」


強ばって動かない右手は動かせず、左手で目隠しを外す。


目の前にはシーツを被って横たわる女性のシルエット


その、シーツの中から、さっきドアの外で聞いたような女性の泣き声が聞こえる。


「この状況で『僕は無実です』って言っても、誰も信じてくれないだろうな」


「わらわが弁護に廻ってやろう、での事だとな」


まで触るなんて、絶対に合意して無いわ!!」


シーツの中から声がする。


「どうやら、わらわの言葉もわかるようじゃな」


サキさんが、シーツの中から顔を出して、こちらを凝視している。


「ん、わらわの言葉、通じておるのじゃろ? サキ?」


「あれ?私、ミラセアさんの言葉が分かる」




一方僕も、サキさんの顔に見入ってしまった。

黒いキレイな長い髪の美人さんなんだけど、何か引っかかっている?


黙っていれば、白いワンピースとかが似合いそうな可憐な印象・・・あ




友ヶ浦紗希ともがうら さきさん?」


 サキさんは驚いた顔で

「あなた誰?」と聞いた。


 ミラセアに「ナオ、知り合いか?」と聞かれる



「説明も必要だけど、解呪出来た事を国王様へ報告しないといけないな」

「国王様って? そういえば立派な所だけどここどこ?」


「それなら、わらわが国王に解呪完了を報告してきておこう。

 サキの衣類の用意もな。

 ナオはその子に説明をしておいてくれ、キーラもこっちにおいで」


「うん」


 そうしてサキさんと2人になった。


「サキさんは、ミラセアと間違われて国王に保護されたんだ。

 彼女は千年前に魔王みたいなのと戦った後、

 呪いであの姿にされていたから有名だったしね。

 あと、僕は君と同じ大学の3年生だよ」


「長谷川さん、うちの先輩だったの、よく1年生の私の事知ってたね」


「サキさん、美人の新入生で有名だったから。

 あと君のお父さんとお母さんも知り合いなんだ」


「え? どうして」


「いや、僕、サキさんのお父さんの会社でアルバイトをしててね

 結星ゆうせいさんと さつきさんとも、よくご飯に行ったりしてたんだ」


「お父さんとお母さんとですか? それで、知ってたんですか」


「うん、結星さんにサキさんの写真よく見せられたからね、すぐわかったよ」


「そうだったんですか・・・あれ?」


「どうしたの、サキさん?」


「長谷川さん、うちの父から私の事をどういう風に聞いてます?」


「どういう風って?」


「私の趣味とか?」


「え~と、何のことかな?」


「お父さん、喋ったんだ」


「おーい、サキさん」


「長谷川さん、父から聞いた事をぜんぶ話してくれますか?」


「・・・それは、聞かない方がいいと思うよ」


「お願いですから教えてください」







 ある日

「ナオ君、うちの娘可愛いでしょう。今度、桃花女子に入ったんだよ」

「清楚な感じで、制服が良く似合ってますね」




 ある日

「ナオ君、聞いてくれるかな。うちのサキがスポーツ始めたみたいでね。

 動きやすい恰好で大きなバッグ持って出かけるんだ、バスケかな?

 チームだって、なんだろう」


「チームだったら、ダンスチームじゃないですか? 

 高校生なら流行っているそうですし」


「そうかな、カメラ買い替えようかな」





 ある日

「ナオ君、今度、うちのサキがチーム戦に出るので車を出すことになったんだ。

 仲間の娘も一緒に荷物が多いからってね」


「やっぱりダンスチームでしたか、それは華やかでしょうね」


「うん、今からすごく楽しみだよ」





 ある日

「ナオ君」


「どうしました、結星さん。目が死んでますよ」


「サバイバルゲームって知ってる?」


「はあ、聞いた事はありますけど。あの迷彩服着て走り回るアレですよね」


「・・・サキがやってた」


「え? ダンスじゃなくてですか?」


「全員フェイスガードつけてて、どれがサキか分からなかった」






 ある日

「ナオ君、サキがサバイバルゲーム辞めたみたいだ」


「どうしたんですか?」


「今度、富士に行くらしい、きっとフェスか何かだよ」


「結星さん、日程は聞きました?」


「うん、聞いたよ。5月の後半だって」


「残念ですが結星さん、富士の音楽イベントは8月ですよ、

 それ別のイベントだと思います」




 翌日

「どうでした?」


「・・・陸上自衛隊の演習だった」





ある日

「ナオ君、私は父親として娘にどう接したらいいかわからない」


「どうしたんですか?」


「例えば、よその家に訪問する時に靴を揃えて中に入るよね?」


「けっこう一般的な礼儀ですね」


「娘の友達が来ると、玄関に泥だらけのジャングルブーツが並んでいるんだ」


「ちゃんと揃えているじゃないですか」


「でも、その横に銃も並んでるんだよ」


礼儀れいぎというより規律きりつですね」







 ある日

「ナオ君、うちのガレージがミリタリーグッズで埋まりそうなんだけど。

 大学ではどうかな?」


「大丈夫ですよ、高原のお嬢様風のイメージです、

 ミリタリー要素は欠片も見えませんです」


「そうか、よかったよ。大学ではそうなんだ安心した」


「でも、あれだと学内でストレスが溜まりませんか?」


「けっこう見栄っ張りだから、意地でも取り繕うと思うよ、

 でも何かあったらよろしくね」





サキさんがベッドに顔をうずめて悶えている。

「お父さん、本当に全部喋ってる、しかも同じ大学の先輩に」


「サキさん、はどうしようか?」


「ごめんなさい、別の日にしてください。もうダメです」


しばらくして、落ち着いたサキさん

「そういえば長谷川さん、解呪した結果ですが。

 私と奴隷契約がされたかどうかの確認ってどうするんですか?

 私の方には特に違和感はないんですが」


「そうだね、ちょっと待ってね」


 袋からギルドカードを取り出す


「ごめん、やっぱり契約になっているみたいだ」



ナオ(長谷川直弥) 冒険者ランクF


 所有奴隷 ミラセア(特殊奴隷)、キーラ(一般奴隷)、友ヶ浦紗希(特殊奴隷)


 外からノックの音がする「どうぞ」

「衣類を持ってまいりました」


「それじゃ、僕は外にでてるね」


王宮の女官さんに任せて、部屋の外で待っていると

ミラセアとキーラが王と宰相を連れてきてくれた。


部屋の中からは、さっきの女官さんが出てきた。

「お召し替えが終わりました」



王様と宰相さんと部屋の中に入る、サキさんは白いドレス姿だ。


「サキさん、保護してくれた、この国の王様と宰相さんだよ

 呪いのせいか、言葉まで通じませんでしたが、今は言葉が通じますよ」


サキさんが立ち上がって挨拶する

「王様、宰相閣下、この度は保護して頂きありがとうございます。

 私は友ヶ浦紗希ともうします」


「ほう、これほど可憐な女性があの中に居たとは、

 無事に解呪されたようでなによりだ」


「そうですな、無事でなによりです」


 サキさんが全力で猫を被っている

「ご心配をおかけしました、もう大丈夫です」


「して、サキ殿と申されましたな、

 異国の方とお見受けするがどちらから来られたのかな」


「偶然ですが、私はそちらのナオ様と同じ国の出身です」


「そうなのかナオ殿」


「はい、サキ殿のお父様から絵姿を見せて頂いたことがあって

 確認させて頂きました」


「確か、ナオ殿の国もどこか分からなかったのだな」


「はい、ですからまさか同じ国の方、

 しかもお世話になった方の娘さんに会えるとは思いもしませんでした」


「では、サキどのはこれから」


「はい、ナオ殿の所でお世話になろうと思います。

 呪姫様も一緒に今回の事を調べてくださるようなので」


国としては、呪姫やサキの手元に置きたいようですが、

すみません、それだと僕が動けなくなります。


相談の結果、その日は王城の客室に泊めて頂いて、

明日は王都に宿を取る事でひとまず落ち着いた。


さすがに王城内でストレージの話は出来ないからね。


そして、ミラセアとキーラにはサキさんに銃の話は

絶対にしないようにお願いした。


しかし、王都に来るのは親父さんの店に行く時と決めていたのに予定が狂ったな。

明日は、宿決めとサキさんのギルド登録をしたら、明後日には王都を出よう

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