第12話 王都の呪姫

 ワイバーンの報酬を受け取ると、僕達は即座に馬車に乗せられた。

 王都まで3日、馬を入れ替えて行くらしい。

 王都で何が有ったのかは全く不明だった。

 しかしカークさんがギルドを出る時に1つだけ教えてくれた。


「どうやら、王都でも混乱しているみたいです。

 何故か噂の断片に呪姫様の話が出ています

 もしかすると、呪姫様の呪いを解いた事で何か起きたのかもしれません」







 そうして、王都に到着した僕たち3人が聞いたのは、

 その混乱に拍車を掛ける内容だった。



「王都にらしい」



   「え? 何じゃと? わらわは、ここにおるぞ?」


   ミラセアの叫びが虚しく王都に響いた




僕たちは王宮の中、大きなテーブルのある会議室に通された。


一番奥に簡素な王冠をかぶったおじさんが座っていて

テーブルの右側が軍関連か体格の良いおじさん達

左側が官僚か肉体労働をしなさそうなおじさん達が並んで座っている。


 奥に座る、おそらく王様が


「いきなり不躾な質問ですまない、

 私はこの国の王でナグナム・グザシマイスだ

 あなたが、呪姫じゅき殿で間違い無いのか?」


「初めまして、グザシマイスの王。

 自分が呪姫で間違い無いかと聞かれると答えにくいのじゃが

 千年以上前に凶王の呪いを受けたエルフは、わらわで間違いないぞ」


「お名前を聞かせて頂いてもよろしいか?」


「ミラセアクアラじゃが?」


「国の記録とも同じ、ご本人のようだな。失礼した」


「いや、かまわんよ。それより、王都に呪姫が現れたとは、どうゆう事かな?」


「はい、その事情も含めて、そちらの方が呪姫様の呪いを解かれた

 ナオ殿で間違い無いかな?」


「王様、初めまして。理由はわかりませんが、

 結果的に呪姫様の呪いを解くことになった者でナオと申します」


「やはり、そうか。サナフ宰相、状況説明を頼む」


「はい、私サナフが説明させて頂きます。6日前の昼頃。

 王都の広場にが現れました」


「人らしき者じゃと、どういうことか?」


「全身が闇に覆われた、おそらく女性で、伝え聞く呪姫様の姿にそっくりでして。

 すぐに通報が入って兵士が確認に参りました。

 しかし、王家には既に呪姫様の呪いは解けたと報告が届いておりましたので、

 たちの悪いイタズラだと判断したのですが。

 実際に見た兵士から

『あれは呪姫様にしか見えない、王家の判断を求む』と連絡があり

 国の騎士団が出動、騎士団の人間にも呪姫様にしか見えなかったために

 王城にお連れしました」


「そんなに、似ておったのか?」


「闇に覆われた女性で、その腕を掴もうとすると闇に阻まれて

 掴むことができないと、この様な事例は他に聞いた事が有りませんな」


「確かにそうじゃな」


「それで、呪姫様の呪いが解けたのなら、その解いた方に来て頂き

 こちらも解いて頂こうかと考えまして」


「いや、解けるかどうかわかりませんよ。

 そもそも何故解けたのか分からないんですから」


『何も殺さず、何も犯さず、神と呼ばれ。

 この世の生まれで無い者なら呪いは解けよう』


「てっきり、俗世に嫌気がさしたお坊様だと思ってましたが、

 若い方なので驚きました」


「いえ、僕は冒険者ですから、最初の『何も殺さず』から違ってます」


「ですが、解けたのも事実ですから、やってみて頂こうと、お呼びしました」






サナフ宰相の先導で3人一緒に王城の中を移動すると、豪華な扉の前で止まった。


「この客室にいらっしゃいます」


「すみません、そういえば、その方は何か話されたのですか?」


「いえ、女性の声でしたが聞いた事の無い言葉でした」

 言葉が通じないのは困るな


部屋の中からは、女性の泣き声らしき声が聞こえる

 コンコンとノックして「」声を掛ける。


 部屋の中から「え?日本語?」と女性の声が

 あれ? 思い切り通じてます。日本人ですか?


ドアを開けるとベッドの上に黒い人影が横になっていて、上半身を起こした。


「すみません、確かに僕は長谷川直弥はねがわなおやといいます、日本人です」


「日本人なの?  ここどこなんですか? 私はどうなったんですか?

 教えてください」


ミラセアに「ナオ、言葉が通じるの?」と聞かれる

「ああ、どうやら僕と同じ国の人らしい」



「すみません、近くに行って大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ」

「一緒に来て、ミラセア、キーラ」







寝台の傍まで近づく、確かに影か闇? 黒い物に包まれた人らしき存在が

横になっている。

ミラセアの時には暗い所に溶け込んだように見えたけど、

明るい中では、その異様さが際立っているように感じる。


「初めまして、僕は長谷川直弥、こちらの女性がミラセアで、

この子がキーラです。なんとお呼びすればいいですか?」


「すみません、私の事はサキと呼んでください」


「では、サキさん。説明しますと、ここは地球とは違う、

 まったく知らない世界です。

 僕も半年ほど前に気が付いたら、別の街の広場で座ってました」


「そうなんですか」


「あと、サキさんの身体ですが、こちらのミラセアが受けていた呪いと

 その見た目の症状が酷似しているんです」


「こちらの女性が同じ姿だったんですか?」


「はい、僕が偶然ミラセアの呪いを解いたので、

 僕なら解けるかもしれないと呼び出されました」


「そうだったんですね」


「ですから、同じ解呪を試そうと思いますが、まず、呪いが別の物で解けない可能性もありますし。解く方法にも色々と問題があります。そして、

 解けた場合、別の問題が発生しますので説明をさせてください」


「良くわかりませんが、問題だらけですね、解呪できた場合でも

 問題があるんですか?」


「はい、まずですがサキさん、この世界にはがあります」


「ちょっと、待ってください。いきなりそんな事を言われても、

 それが解呪と関係あるんですか?」


「困った事にあるんです、こっちのキーラは僕の身を守る為に

 来て貰っている奴隷です」


「キーラ、ナオの奴隷、ナオの物」


「長谷川さん、あなた、こんな幼い子供を、

 これは日本人としてどうかと思いますが? 」


「キーラ、お願いだから誤解を招く様な言い方はやめて、お願い」


「でも、事実」

キーラが抱き着いてくる。


「話を続けますと、奴隷商は国の許可が必要で、奴隷と主人に契約を結ばせます。

 主人は衣食住を保証して、奴隷は言う事を聞くという形です」


「国が許可してるんですか、こんな事を」


「はい、それで奴隷商に行ったときに、

 ですがミラセアの呪いを解呪しました」


「ミラセアさんが奴隷だったんですか?」


「いえ、ミラセアは千年前に呪いを掛けられたまま、

 色々な所を転々としていたそうなので、

 そこに居たのは偶然です」


「千年って、ミラセアさん幾つなんですか?」


「まあ、その辺は僕も聞いた事はないですが、問題は解呪された時に

 ミラセアと僕に奴隷契約が結ばれてしまってました」


「え?」


「奴隷商が何かしたわけでもなく、しかも解放出来ませんでした」


「では、ミラセアさんも長谷川さんの奴隷なんですか?」


「サキさん、だから僕が解呪するとサキさんと僕の間に奴隷契約が結ばれる

 可能性があるんです、しかも解放出来ない形で」


「ヒッ」


「なあ、ナオよ、黙って解呪した方が良かったのでは無いか? 

 実際に奴隷契約が結ばれるかは分からんのじゃろう?」


「ですが、可能性がある以上説明をしておかないといけませんよ」


「じゃあ、この子に言ってやってくれるか、

 私は千年以上あの状態で呪われておったからな。

 肌に何か触れる感覚が無いまま居るのはツライぞ、

 それだけは言っておいてくれぬか?」


 そうか、ミラセアとキーラの言葉は通じて無かったんだ。


「サキさん、ミラセアが言うには

『私は千年以上あの状態で呪われておったからな。

 肌に何か触れる感覚が無いまま居るのはツライぞ、

 それだけは言っておいてくれぬか?』だって


 サキさんは、しばらく考えていたが

「長谷川さん、私決めました。解呪してください」

 とはっきりと言った。


「いいんですね?」と念を押す

「決めましたが、解呪って具体的には何をするんですか?」


「サキさん、最初に確認をしておきたいのですが」


「なんでしょうか?」






「その影の下、ちゃんと服は着ていますか?」


「長谷川さん、前言撤回してもいいですか?」



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