第5話 誘拐

翌日朝から急いで出立して街道を進んで行くと、

向こうから1台の馬車がやって来た。


グレイシアさんが気付いて、全ての馬車を止める様に声を掛ける。


向こうから来たのはやはりファイナ商会の馬車だった

「モーリスさん、グレイシアです」声を掛けると馬車が止まる。


中から恰幅のよい禿頭の男性が出てきた

「グレイシア、アマンダが誘拐された」


「モーリスさん、街道の途中で盗賊に襲われたファイナ商会の馬車を見つけました、

 中には4人の遺体があったの。それじゃあ、アマンダさんも一緒だったの?」


「ああ、身代金の要求が来た、これから持って行くところだ」


「馬車1台で、モーリスさん1人で大丈夫なの?」


「それが向こうの指示なんだ、逆らえばアマンダの命は保証しないと」


グレイシアさんがトラキスさんを呼ぶ

「トラキスさん、緊急なので協力して欲しいんだけど」


「グレイシアさん、依頼内容の変更にしたって、これは無理ですね」


「でも、ギルドとしてもファイナ商会とサグナス商会に恩を売れるチャンスよ」


「グレイシアさん、盗賊の人数も規模も分かりません、

 こっちの冒険者は6人ですよ、

 それにあなたは妹さんまで巻き込むつもりですか?」


「ですが、それではアマンダが」


「冷静になってください、こちらも3台の馬車で移動しているんですよ、

 我々が一緒に行けばかえって危険です、向こうもこんな大勢は見逃しません」


 その時ケイナさんが泣きながら

「お姉ちゃん、トラキスさん、アマンダを助けて、お願い」


 トラキスさんが、ため息をついた。


「トラキスさん、僕は何をしたら良いですか?」


「ナオ、お前の所にあとどれ位入るかな?」


トラキスさんがグレイシアさんの方に向き直り、声を掛ける。


「グレイシアさん、ケイナさん、モーリスさん

これはギルドで検証中の内容なので内密にお願いします。」


「わかりました」「わかったわ」「わかった、約束しよう」


 今度は、パーティーのメンバーに

「すまないな、今回はお前らにも秘密の任務があってな、これからいう事は秘密な」

「しかたないな」「ああ、わかった」「そんなこったろうと思ったよ」「承知した」


「今回の任務は、ナオの持っているギフトの検証だ、

 どれだけ大量の荷物を持てるかのな」


 ケイナさんが不思議そうに「でも、ナオさん、何も持って無いですよね?」


「いいや、こいつにはバールキナを出る時に20樽の塩漬け肉を

 持たせたままなんだ」


 「「「「「ええ~~~」」」」


 「こいつのギフトで馬車3台分が持てれば、俺達は馬で隠れてついて行ける」


 「ナオ君、そんな事出来るの?」とグレイシアさん


 「いえ、そもそも持てるかどうか試さないとわかりません」


 「ナオ、とりあえず、やってみろ」






【ストレージ】  ヴォン♬ ・・・できちゃいました。






 「入りましたね、ホントに」


 「いや、他人事みたいに、やったのはお前だから」とトラキスさん。


 「モーリスさん、指定された場所はどこなんですか?」グレイシアさん


 「ああ、この先の廃村跡だ」


 「となると、どこかの廃屋に捕まっているかもしれないか?

  ホーサル、ナーサは俺と廃屋探索」とトラキスさん


 「ナオはグレイシアさんとケイナさんとここに居ろ、

  ガラバスとイブラムも置いていく」


 「僕も何か出来ませんか? 」


 「ナオ、もう十分だ、それに、今度は人を殺すことになるぞ」






 モーリスさんの馬車は廃村に到着した

 「モーリスだ、金は持ってきたアマンダはどこだ」


  モーリスさんの声に反応して盗賊たちとみられる

  髭面の汚い男が11人、ぞろぞろと現れた

 「本当に1人で来やがった」「馬鹿なやつだ」と定番のセリフを話している。


 「アマンダはどこだ?」


 「金は持ってきたか?」

  いや、今言ったよね?


 「金はこの馬車の中だ、アマンダの姿を見せなければ、

  このまま帰るが良いのか?」


 「ばかやろう、こっちには人質がいるんだぞ」


 「生きているか分からなければ、人質にはならないだろう?」


 「娘を連れてこさせろ」2人が離れていった。


 よし、かかった


  しばらくすると、「娘が逃げたぞ~」と声が聞こえる

  その声を聴いてモーリスさんは馬車から降りて走って逃げていく。


  盗賊の残り9人が馬車に6人来て、声の方に3人走って行く

  6人が馬車に乗り込んだのを確認して、僕は、ある物を馬車の窓から投げ込んだ


 「馬車の中から「目が見えねー」「耳が」と声が聞こえる」

  XM84閃光発音筒スタングレネードって本当に効くんだ。


  ガラバスさんとイブラムさんが馬車の中の盗賊を縛り上げる。


  確認出来ていないのは、向こうに行った3人とアマンダさんだけか?

  まもなく、若い女性と縄に捕らえられた盗賊を連れてトラキスさんが現れた。


  アマンダさんはウェーブの掛かった黒くて長い髪をして華奢な女性だった

  モーリスさんとアマンダさんが抱き合って泣いている。

  こうして、アマンダさんの救出作戦は無事成功した。






僕たちは、港町マーグナスに到着した。


僕は1人、グレイシアさん達と別れてギルドの建物に入る。


  ギルドの受付カウンターに並ぶ、僕の番がきた。

 「バールキナのギルドから手紙を持ってきました」


内容を確認して奥に通される。

対応してくれた職員の人に「樽はどこに置いたらいいか」確認して、

ここの裏の倉庫に通される


 「樽20個納入完了確認しました」


職員さんに、次に行く塩の商人さんの場所を確認した






 「え?塩の商人さんてここなの、ここファイナ商会ですよね」

  表にファイナ商会の看板が出ています。


 「すみません、バールキナのギルドから来ました、

  塩40樽購入をおねがいします」


 「はーい、あれナオさん?」


 「やあアマンダさん、すみませんコレお願いします」とギルドの書類を渡す。

  アマンダさんは書類を受け取って。


 「はい、今準備します。お父さん、ナオさんよ~」

  いや、呼ばなくても大丈夫だから。


 「お~い、ナオ どこ行ってたんだ」あれ?トラキスさん?


 「ギルドに手紙と樽を渡して、塩の購入に来ました」


 「そういえば、お前の仕事はそっちだったな」


 「はい、トラキスさん帰りの予定を教えてください」


 「おう、帰りもサグナス商会の護衛だから3日後の朝な」


 「はい、では塩を受け取ったら宿を探してきます」

  ガシッ 


 「あれ? アマンダさん、どうしました?」

  怖い顔してる


 「ナオさん、今なんて言いました?」


 「はい? いえ塩を受け取ったら宿を探そうかなと」


 「どうして、そんなに水臭いことを言うんですの、

  うちに泊まっていったらよろしいでは無いですか」

 

「アマンダさん、せっかく無事に家に帰られたんですよ、

 親子水入らずに入り込む方がよほど無粋ではないですか

 よって遠慮させていただきます」


 「まあ、なんで筋道立ててキッチリ断って来るんですか? 

  泊っていけばよろしいではないですか」


 「いえ、国の諺にも親しき中にも礼儀ありと言ってます」

  トラキスさん、どうしました。


 「お~いガラバス、構わないからナオ連れてこい」


 「わかった」


  泊めて頂きました、豪華な海鮮は素晴らしかったです。






 (アマンダの部屋)


【アマンダ】


  私の部屋でグレイシアとケイナがお茶をしている。


 「しかし、ナオさん。律儀というか水臭い方ですね。

  まさか宿を取ろうとしてたとは思いもしませんでした」


 「律儀なのは性格ね、帳簿の数字とかちゃんと並んでないと

  気に入らないみたいだから」とグレイシア


 「国民性もあるんじゃない? あれで学業半ばで出てきたと言われた日には、

  どうしようかと思ったわ」とケイナ


 「ちょっと待ってケイナ、ナオ君て学業半ばなの?」


 「うん、お姉ちゃん、算術教えてもらった時にそう言ってたよ」


 「二人とも、ナオさんて算術得意なんですか?」


 「あれ?アマンダちゃんに言って無かった? 

  バールキナに算術の神様がいるって」


 「お姉ちゃん、帳簿の神様って言って無かったけ?」


 「ケイナちゃん、本人は知らないんだから絶対言っちゃダメよ」


 「ちょ ちょ ちょ」


 「どうしたの? アマンダちゃん?」


 「ちょっと待ってください、バールキナの算術の神様って実在するんですか?」


 「いえ、現にナオ君、居るでしょ?」


 「いや、王都の学者が逃げたとか帳簿の間違いは見ただけで分かるとか

店の帳簿見るのに一晩いらないとか」


 「そうだね、帳簿見るのに一晩掛けてたら、バールキナじゃ間にあわないね」


 「しかし、今回は運がよかったわ、

  まさか家の護衛にナオ君がいると思わなかったから、

  ケイナちゃんにナオ君の算術を教えて貰えるとは思わなかった」


 「確かにそうね」


 「え? ケイナさん ナオさんに教えて貰えたんですか?」


 「この5日間、けっこう色々教えてもらったよ」


 「い~なあ、私も頼んだら教えてもらえるかな?」


 「多分、大丈夫じゃないかな」






(トラキスの部屋)


 「どうだった、ナオ、護衛任務は?」


 「気を配らないといけない事が多いですね、こちらの人数が決まっているのに、

  それでやり繰りするのは大変そうです。

  あれ、盗賊の数がもっと多かったらどうしたんですか?」


 「そりゃ、まともに当たったら負けだから、

  時間をかけて少しづつ削って行くしか無いだろ」


 「無理はせずに確実にやるんですね」


 「数の少ない方が、無理をすると、経験上一気にひっくり返されるからな」

 

 「負けるのは許されませんからね」


 「ところでナオ、お前、討伐やダンジョンはやらないのか?」

 

 「戦闘がからきしなんで、無理です」

 

 「あの音のデカイのはどうなんだ?」

 

 「あれは、いいとこ護身用ですし味方の居る所で使いにくいんですよ」

 

 「使いにくいって何がだ?」

 

 「狼の頭では止まりましたけど、身体だとあれ貫通するかもしれません、

  味方の位置を見ながら使わないと、もし味方に当たったら危ないですよ」


 「混戦では使えないか、でも国では、

  あれを使って戦ってたんだろどうやってたんだ?」


 「国では自分の身を守るのに持っているだけですね、

  少し離れると当たりませんし」

 

「護身用じゃないのもあったんだろう?」


 「それだともう国同士の戦争です、

  大勢が互いに物陰から遠距離でばら撒きあって

  それこそ命の削りあいですね」


 「恐ろしいな、それは」


 「国同士の戦争が最後に有ったのが80年前ですから、

  僕も記録でしか見た事は無いですよ」

 

 「しかし、もったいないな、何か出来そうなのには」

  

 「近くに来られると、逃げるくらいしか出来ません」


 「近接の得意な仲間を持つのはどうだ?」


 「よほど、うまく位置取りをしないと危ないですね」


 「位置取りを覚えさせるか」


 「仲間にそこまで甘えられませんよ」


 「それなら、奴隷でも買って鍛えるかな」


 「この国、奴隷制度があるんですか?」


 「ああ、国の制度としてあるぞ、

  金銭的な問題でなる奴隷と今回の盗賊みたいに

  犯罪者の処罰としての奴隷があるな」

 

 「確かに盗賊は他に使い道なさそうですね」


 「国で盗賊を養うくらいなら、孤児対策に回すだろう」


 「もっともです」


 「今回の盗賊の報奨金も出るから、まとまった金になるだろ。

  それで近接の得意そうなやつを鍛えればうまくいきそうだぞ」


 「ありがとうございます、確かに近接のできる仲間は欲しいので、

  バールキナに戻ったら一度覗いてみます」





  3日後、トラキスさん達と無事にマーグナスを出発する。

  もちろんサグナス商会の護衛だ。


  帰りの道中は、拍子抜けするほど何も無くバールキナに到着した。


「まあ、警戒するに越したことは無いが、だいたいこんな感じだぞ」

 とトラキスさん。



  街に入って、僕は、グレイシアさんたちと別れギルドに向かった。






  ギルドのカウンターでカークさんに声を掛けられて、

  裏口から裏の作業場に行く。


 「さて、ナオさん。塩はどうでした」


 「はい、大丈夫でした、ここで出していいですか?」


 「お願いします」


 【ストレージ】  ヴォン♬


  塩の樽を出していく、40個よしオッケー


 「これで以上です」


 「確かに塩の樽40個、確認致しました、

  報酬の支払いはカウンターで行いますので、

  そちらでお願いします」


 「はい、わかりました」


  カウンターでカークさんから報酬を受け取る

 「今回の報酬、金貨6枚と盗賊11人の討伐報酬が130枚でしたので

 1人16枚になりました。全部で金貨22枚になります、ご確認ください」


 「はい、確かに受け取りました。ところでカークさん、

  トラキスさんに勧められて奴隷商を見に行こうと思っているんですが、

  どこかご存じ無いですか?」


 「この、バールキナには3つの奴隷商があります。

  一番大きいのはベンハムでしょうか?

  抱えている奴隷の数も一番多いはずですよ」


 「奴隷をパーティーに入れるのに、

  いきなり奴隷商に行っても良いんでしょうか?」


 「はい、奴隷商は国の許可が必要ですから、冒険者への説明の義務もあります。

  購入されましたらギルドで奴隷の冒険者登録とパーティー登録を行いますので、

  連れて来てくださいね」


 「なるほど、それで良いんですね、ありがとうございます」


 「ベンハム奴隷商は東の大通り沿いの目立つ所に店がありますから、

  見ればすぐわかると思います」

 

 「そうですか、一度行ってみます」

  

  そういって僕はギルドを後にして、ベンハム奴隷商に向かった。



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