第6話 奴隷商人

『それは凶王の最後の物語。

 その王は王でありながら、この世の全てを憎んだ。

 この世の全てに呪いをかけた。

 この世の全ては呪いにむしばまれた。

 人とエルフとドワーフは王にいどんだ

 人は守り、エルフは攻め、ドワーフはつくった。

 人はかなで、エルフは歌い、ドワーフは踊った。

 人は願い、エルフは祈り、ドワーフはたてまつった。


 そうしてついに凶王は倒れた。


 しかし、そこには呪いが残った。

 呪いの全てはエルフに集まった。

 エルフの呪いは1人に集まった。

 集まった1人は【呪姫じゅき】と呼ばれた。


 凶王の最後の言葉

 何も殺さず、何も犯さず、神と呼ばれ

 この世の生まれで無い者なら呪いは解けよう』


             【いにしえの英雄譚 三英雄の物語から抜粋】







カークさんに教えてもらったベンハム奴隷商を訪ねてみる

恰幅のよい、目つきの悪い男がこっちを見ている。


「すみません、こんにちは」


目つきの悪い男がジロリと睨む


「なんだ」


「すみません、近接戦の得意そうな奴隷を探しているんですが、

 紹介してもらえますか?」


「いや、紹介って、ここは奴隷商だ職業斡旋所じゃないぞ」


「奴隷の事自体よくわからないんですが」


「そこからかよ、どこの田舎から出てきた」


「すみません、説明をお願いします」


「こっちへ来な」


「はい、失礼します」


  中に通してもらう、


「まず、奴隷には借金等が理由で奴隷になる一般奴隷と

 犯罪者が奴隷になる犯罪奴隷があるのは知ってるな?」


「はい、聞きました」


「一般奴隷は契約した人間が解放する事が出来るが、犯罪奴隷は解放不可能だ」


「盗賊を解放されたら危ないですしね」


「奴隷の衣食住は契約者が保障する、最低限だがな」


「それはわかります」


「あまりに扱いが悪いと訴えられる場合もあるが、

 殴ったり蹴ったりくらいでは無いな。

 邪魔になって街中で切りつけた奴が訴えられてたな、それぐらいだ」

 

「気を付けます、解放する時にはどうするんですか?」


「国の認定を受けた奴隷商なら解放できるから、そこに連れて行けば出来る。

 あと、契約した奴隷は持ち主を主人と設定する、

 それで主人の命令に絶対では無いが従うようになる」


 「絶対では無いんですね」


 「ああ、ただ反抗していると飢餓感きがかんに似た感覚が続くそうだ」


 「それはつらいですね」


 「基本命令に従うからな、奴隷のやった事の責任は主人の物になるぞ」


 「それは、そうでしょうね」


 「あと税金が、初年度は必要無いが毎年金貨1枚必要だ

  これは一般犯罪とも同じだ」


 「どこに支払いに行けばいいんですか?」


 「街の役所かギルドで支払い代行もやっている

  あとはそうだな、女性の奴隷の場合主人の設定が行われると同時に

  避妊の魔法が掛かる」


 「避妊ですか?」


 「ああ絶対では無いが妊娠の確率はかなり下がるらしい

  あと個人間の奴隷の転売は禁止だ必ず奴隷商を通す事」


 「はい」


 「説明は大体こんな所だな。それで、あんたが探しているのは

  近接戦の出来る奴隷だったな、予算は?」


 「予算は金貨20枚です」

  流石に装備も必要だろうし全額は出せない


 「まず、こっちだな」案内が始まる。






やはり、人が檻に入っているのを見ると、すごく違和感を感じるな。


 「この辺りに居る奴は元冒険者だ、おそらくすぐに戦えるだろう。

  ただし金貨20枚~80枚、能力的に低い奴やケガで動きの悪い奴にだな」


  ああ、わかる、みんなムキムキだ。


 「次は身体能力が高い奴、体格の良い奴だな大体金貨10枚~30枚の間だ」

  この辺は細マッチョか。


 「そして、この辺りが体格が小さかったり運動能力が低い戦闘に向かない奴

  まあ、読み書きが出来るのもいるので 金貨5枚~10枚だな

  多分この辺だな。


 「あそこが、子供や怪我や病気の奴 金貨5枚までだ、正直進められんな」

  ごめん、子供はちょっと無理だ。

  元冒険者は金額的にも論外だな、となると


「身体能力が高い人で、金貨20枚までだと誰が居ます?」

「それなら、この・・」「お~い、そこの若いの」


 あれ? 子供と病気の奴隷が居るあたりから若い女性の声がした?


 「え? なんでしょう」思わず返事をしてしまった。


「ここに一人おすすめがいるぞ」

 呼ばれた方に近づいてみる


「やめてください呪姫じゅきさま、営業妨害ですよ」

 目つきの悪い男が止めようとする。


「すみません、おすすめと言うと?」

 おそらく、檻の奥に居るのか女性の声は聞こえるが何も見えない。


「この子じゃよ、キーラおいで」

 女の子?が前に出てきた、見た所10歳位か?


「すみません、さすがにこんなおさない子供を戦わせることは出来ません」


おさなく無い、キーラ13歳」

 白に近い灰色のぼさぼさの髪、痩せた細い手足、どうみても10歳だよ


「いや、十分幼いよ」


「若いの、お主、近接の出来るのを探しておるんじゃろ、

 この子には獣人の血が入っておる、力も早さもすぐに成長するぞ」

 

「キーラすぐに強くなる」

 

「いや、それでもね」


「それにキーラ、妹探したい」

 

「いや、君に妹を探しに行かれると、置いて行かれた僕が死んでしまうよ」


「若いの、奴隷の主人設定については聞いたじゃろう、大丈夫じゃよ」


  いかんな、これを聞いてしまうと、もう断れない


「君はキーラだったか? 妹さんの手掛かりはあるの?」


 「ミーラ、同じ13歳」


  僕はため息をついて


 「すみません、この子との主人設定をお願いします」


 「あんた、それは人が良すぎないか? 

  わかった、準備するんでちょっと待て」


 「キーラ、良かったな」


 「うん、呪姫さまありがとう」


 「お主も、この子の事を頼むぞ」


 「はい、主人設定も初めてで、良くわかりませんが頑張ります。

  ところで呪姫様と呼ばれるあなたは一体?」


 「ほう、わらわを知らない人間がいるとはな」


 「はい、このあたりの生まれではないので」


 「呪姫様、この人、神と呼ばれる人?」


 「ははは、キーラあれはお伽話じゃよ、若いの、これはのろいでな、

  ずっと長い間このままよ」


 「呪いなんて物が有るんですか?」


 「ああ、解くことの出来ない呪いがな」


 「違う、呪い解ける」


 「キーラ、だからあれはお伽話なんじゃ」


 「何も殺さず、何も犯さず、神と呼ばれ、

  この世の生まれで無い者なら呪いは解けよう」

  キーラが呪文のように暗唱する


 「すごいですね、そんな人」


 「ああ、昔、教会の偉い坊主が私ならばと来よったが、

  わらわの手に触れる事も出来なかったよ」


  そうか、見えないんじゃなくて、影が包んでいるのか?


  ぼんやりと檻のすぐ手前で腕を組む人影が見える。


  この人、すぐそばに居たんだ。


  寂しいのかな?

  

  僕は思わず手を伸ばしていた。

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