第4話 出発

出発の日、僕はギルドに夜が明ける頃に到着して

他の人が来るのを待っていた。


向こうから3台の馬車がやってくるのが見える。


知っている人が居たので、手をふってみる

20代半ばの、淡い灰色の髪の女性だ、商会の仕事で以前ご一緒した事がある。


 「グレイシアさ~ん」

  その人は驚いた様子でこっちを見ている。


 「ナオ君、?」


 「今回、マーギナスまで、ご一緒させて頂く事になりました」


 「そうなの? 全然聞いてないわよ」


 「護衛は別の人ですし、それでかも知れませんね。たぶんあの人でしょうか?」


 やって来たのは5人のパーティーだ。


 「おはようございます、今回護衛担当のトラキス、Dランクです、

  そっちがギルドから聞いてる人かな?」


 「はい、ナオです Fランクです、よろしくお願いします」


  トラキスさんは30代中ごろに見える男性で、顎髭細マッチョだ、

  長剣を腰に差している。


 「後はうちのメンバーです、お前ら自己紹介だ」


  ムキムキのおじさんが斧を持っている

 「ガラバスだ、ランクEだ よろしく」


  若干細身のおじさんが槍か

 「ホーサルだ、同じくランクD、よろしく」


  筋肉質のお姉さんだ、剣が曲がっているな、カトラスとかかな?

 「ナーラだ、ランクD」


  これはたまに見かけるお坊様だな

 「イブラムです、ランクD」

 

 「私が今回サグナス商会側の代表グレイシア・サグナスだ

  マーギナスまでよろしく頼む」


 「グレイシアさんは、この坊やの事知っているんですか?」とトラキスさん


 「ああ、ナオ君は数字に強いからな、

  この街にある商会の人間なら大体知っているんじゃないか」


 「その節はお世話になりました」


 「いや、決算の時期はどこの商会も君の取り合いになるからな、

  君が来ると知ってたら、うちの若いのに算術を伝授してもらいたかったな」


「時間が合えばお教えするのは問題ないですよ」


「それは、ありがたいな、そうだ、おーい ケイナ」


「なあに、お姉ちゃん」

 同じ色の髪をショートにした、20歳位の女の子だ。


「ナオ君、この子が妹のケイナだ、ケイナ、この少年がナオ君、

 店の決算になると取り合いになるのは知ってるな」


「え~、こんなに若いの てっきりおじさんだと思ってた」


「初めまして、ナオです ランクFの冒険者です」


「ケイナ、マーギナスまでナオに算術を習っといてくれ」


「えっと、ナオさん、いいの?」


「ああ、大丈夫ですよ」


 こうして、僕は商隊と一緒にバールキナから出発した。





 

マーギナスまでは馬車で5日、途中に街は無く街道の横に天幕を張って寝る。


トラキスさん達に天幕の張り方を教えてもらう

夜は必ず2人起きていて交代で見張りをするのが冒険者のルールらしい。


僕はトラキスさんと一緒になった


「トラキスさんは今回の件知っているんですよね」


「ああ、しかし変わったギフトだな昔からか?」


「いえ、先週、偶然気が付いたんです」


「ギフトなんて気が付くものなのか?」


「もっと昔に気が付いていたらどんなに楽だったか」


「いや、そもそもなんで気が付いたんだ?」


「スイルベリーの群生地を見つけて、

 何とか持って帰ろうとして色々やってたら、このギフトに気が付きました」


「それは、なんとも。お前の事を知っているのはパーティでは俺だけだ」


「了解です、ありがとうございます」




翌朝出発するまで、ケイナさんに算術を教える。


基本は出来ているからそれ程難しくは無い様だ・・・


「う~ 」あれ?難しかったか?


 「ケイナさん、どうしました?」


「ナオさん、あたしとそうは変わらない年齢なのに、

 どうしてそんな早く計算できるの?」


「ケイナさん、私はこの国の生まれでは無いのですが。

 私の国は特に算術に力を入れてまして小さい頃から学ぶんですよ」


「それにしても、いくら小さい頃といっても限界があるでしょ、

 一体いくつまで学ぶのよ」


「それがですね、私も学んでいる最中この国に来てしまいまして、

 


その日の夕刻、馬車を止めて天幕を張っている時に、槍のホーサルさんが

「何かいるぞ、気を付けろ」と声をあげた。


草むらから、複数の狼が現れる、ダメだ完全に不意をつかれた。


ケイナさんは動けないか、グレイシアさんがケイナさんをかばって前にでた

これは仕方ないか。


狼の頭に向けて銃の引き金を引く


      ダーン


銃声と共に狼が崩れ落ちる、音で狼達の動きが止まった、今だ


もう一頭に近づいて、頭に向けて引き金を引く


     ダーン


二人をかばうように前に立って周囲を牽制する。







【ケイナ】


今、何が起こったの?

馬車を止めて野営の準備をしている最中、突然、草原狼の襲撃を受けた。


誰もここまで近づかれたのに気が付かなかった。

皆、バラバラの位置にいて

私は向かって来る狼に何も出来ずに棒立ちになっていた。


それに気が付いたお姉ちゃんが庇おうとして私の前に飛び出した


その最悪の事態は突然終わりを告げた。


「ダーン」大きな音と同時に狼が横に吹き飛んだ、狼は頭から血を流し動かない。


そして、ナオさんが私たちを庇うように立って、手に持った何かを別の狼に向けた

「ダーン」さっきと同じ音がして、その狼も倒れた、ナオさんは何かを持ったまま周囲を警戒していた。





【ナオ】


どうやら、こっちに来たのは2頭だけのようだ。


「大丈夫ですか?」と後ろの二人に声を掛ける

「ええ、ナオ君、ありがとう助かったわ」とグレイシアさん。


ケイナさんはショックでまだ動けない様だ

ただ、僕は素人だ、警戒を解いても良いかはプロに任せる。


トラキスさんの「もう大丈夫の様だ」と声を掛けてくれたのでやっと力を抜いた。


トラキスさんに

「ところで、ナオ、それなんだ?」と聞かれる、まあ当然か。


「国から持ってきた武器なんです」


 まあ、持ってきたかはともかく、武器なのは間違いない。


「でかい音だったな、ところでナオ、何でそんなに顔色が悪いんだ?」


「トラキスさん、すみません生きてる物にコレ向けたの初めてなんです」


トラキスさんが、頭を抱えている。

「ナオ、お前討伐任務を受けた事あるか?」

「そういえば・・・・1度も無いですね」


他の人にも被害は無かったが、念のため見張りは厳重に行われた。






翌朝


「ナオさん、ちょっといい?」とケイナさんに声を掛けられた。


「ケイナさん、いいよ何かな?」


「昨日は庇ってくれてありがとうね、驚いてお礼もロクに言えなかったから」


「いやいや、僕も初めてだったから緊張してたし、ケガが無くてよかったよ」


「初めてって、何が初めてなの?」


「襲撃されるのと、生き物に向けて撃つ事かな?」


「初めてなの?」


「うん、前は熊と鉢合わせして逃げたしね」


「そうなんだ」


「だから、どこで息を抜いていいのか自分では分からないから

 トラキスさんをずっと見てた」


「そうなんだ、とにかくありがとうね」


「どういたしまして」



 今日の野営はみんなが緊張していたが、何もなく夜になった。






そして、翌日 馬車は問題無く街道を進んでいったが、

ホーサルさんが街道の外れに壊れた馬車を見つけた。


「ホーサル、ナーサ、すまないが見てきてくれるか?」

 とトラキスさんが声を掛ける。


「ああ」「わかった」2人が警戒しながら壊れた馬車に向かう


「他の奴も周囲を警戒してくれ、まだ何か居るかもしれない」

とトラキスさんが注意を促す。




馬車を確認して来た2人は

「どうやら、盗賊にやられたようだ遺体が4体ある、

 それほど時間が経ってない気を付けろ」


「ごめんなさい、遺体は商人かしら」とグレイシアさんが聞く


「多分そうだが、身元を特定出来そうな物はなかったぞ」とホーサルさん


「ごめんね、知り合いの可能性もあるから、確認するわ」

と、グレイシアさんは遺体の方にいってしまった。





帰って来たグレイシアさんの顔色が悪い、知り合いだったのだろうか。


「お姉ちゃん、どうしたの?」ケイナさんが何かに気が付いたのか聞く。


「ケイナ、よく聞いて、襲われたのはファイナ商会の馬車よ」


「じゃあ、アマンダがいたの?」


「遺体の中には居なかったわ、マーギナスに着いたらファイナ商会に伝えないと」


「急ごう、おねえちゃん」





野営の準備中も皆、口数が少ない。


さて、こんな状況だが、僕は盗賊に銃を向ける事が出来るんだろうか?


「ナオさん、ちょっといい?」ケイナさんが声を掛けてきた。


「ケイナさん、いいよ」


ケイナさんは何も言わず黙っている

「ケイナさん、ファイナ商会って知り合いなの?」


「うん、商会長のモーリスさんはお父さんの友達なの」


「そうなのか、じゃあアマンダさんというのは」


「モーリスさんの娘さん、私より1つ上で、今商売の勉強をしているはず」


「それで、もしかしたらと思ったのか」


「うん、もしかしたらと思ったら怖くなってきちゃって」


「そうか、それなら急いで確認しないとね?」


しかし、翌日、その悪い予感は的中してしまう事になる。


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