第20話 海洋国家マルザム

 マルザムは諸島国家、いくつかの島が集まって1つの国を構成している。


 しかし他国との往来おうらいは、全て中央の島センタが窓口になっていて、

 ここに中央政府とマルザム中央ギルドも存在する。


 僕たちは船長に別れを告げて、ギルドに向かった。


 ギルドに入って受付の列に並ぶ、僕の番が来た。


「グザシマイス王国から来た、ナオ、冒険者ランクはB、

 しばらくこの国に居るので挨拶に来た」

 ギルドカードを出す。


 ああ、周囲の冒険者の“なにやってんだこいつ”的な目が痛い・・・

 でも、僕だってやりたくてやってるんじゃないんだよ。

 セリフまで指定されて、受付で大きな声で宣言するように、

 両方の国から指示が出てるんだ。


 受付の女性もセリフ通りだ

「ドラゴンスレイヤーのナオ様ですね。

 海洋国家マルザムへようこそ、ギルドをあげて歓迎いたします」


 周囲の目が集中する、痛いな。

「ありがとうございます。依頼を受けると思いますので、

 その時はよろしくお願いします、今日はこれで」

 さっさと逃げるぞ。


「ちょっと待ってもらおうか!!」


定番か? 絡まれるのか? 逃げられないのか? しょうがない・・・


振り返るとそこには、


あれ? モヒカン頭のムキムキもナイフを舐めてるトゲトゲ頭もいない・・・


女の子を連れたおじいさん・・・・誰?


「あんた、ドラゴンを殺せるのか?」


・・・・だから誰?





ギルドに部屋を借りて、おじいさんの事情を聴く、

説明の為にギルドの受付の人も付いてきてくれた。


「先に自己紹介しておきましょう、

 僕はナオBランクの冒険者で今この国に着いたばかりです。

 以前、依頼でドラゴンを倒したことがあって、

 ドラゴンスレイヤーの称号を貰いました」


「わしは、このセンタから西の島ウェスの住人でカルサークという、

 この子は孫娘のメルデじゃ。

 この子の両親はウェスから少し離れたボマラ島に住んでおったのだが、

 そのボマラ島にドラゴンが現れたんじゃ。

 この子は他の住人が逃げるのと一緒に逃げてこれたんじゃが、

 この子の両親とははぐれたらしくての

 おそらく、逃げ遅れて向こうに残っておるのじゃろう」


「それで? ギルドの対応としてはどうなんですか?」と受付の人に聞く


「ギルドからは生存者の確認と救助を優先、確認可能ならドラゴンの情報収集を

 する条件で、3組の冒険者を派遣しました。

 ドラゴンの討伐依頼については、今回島に出たのが、

 どんなドラゴンなのか数も種類も判明していませんので

 冒険者の帰還を待って、その情報を元に依頼を出すかどうかを検討する予定です」


「なるほど、もう探索と救助は派遣されているのですね、

 それなら確かに待つしか無いですね」


「まて、あんたらドラゴンを殺せるのだろ、

 だったら、あんたらが行ってドラゴンさえ殺せばいいんじゃないのか?」


「おじいさん、それは無理ですよ」思わずため息をついた。


「ギルドとしても、帰って来た冒険者の報告を聞いてからでないと判断できません」


「そうですね、僕たちもギルドを通さずに仕事は出来ないですよ」


「わしは西のウェスの代表じゃぞ、どうしても行ってくれないなら

 こっちにも考えがあるぞ」


 あ~だめだな。


「カルサーク、それはどういう意味かな?」


 聞いた事の無い声と共に、一人の男性が部屋に入って来た。


「バイル、いたのか?」


「ギルドマスター、お疲れ様です」


この人がギルドマスターか、銀色の髪をオールバックにした

いかにも切れ者のおじさんだな。


「ルールを守ろうとする冒険者に

 立場を使って仕事を強要しようとするのは、西の代表としてどうかと思うぞ」


「しかし、せっかくドラゴンが殺せる者が居るんじゃぞ、

 他から呼んでおる時間なぞ無いじゃろうが」


「やっぱり、そんなバカな事を考えていたのか。

 この方たちの事を本当に知らなかったんだな」


「バカとはなんじゃ、異国の人間の事など知らんわ」


「国同士の話し合いで、ギルドでもめ事が起きないように、

 わざわざドラゴンスレイヤーの宣言までしてくれたのに。

 なんで国側の人間あんたが嚙みつくんだ」


「なんじゃと?」


「そもそも、500年ぶりに誕生したドラゴンスレイヤーだぞ、

 今、ここにしか存在しないのに、よそから呼べる訳がなかろうが」


「・・・1人なのか?」


「いいや、ここにいらっしゃる4人だけ。

 しかもお一人は、この世界の恩人である呪姫じゅき様だぞ

 これでマルザムが世界中から国交断絶されたら、あんたのせいだからな」


「じゅ 呪姫様・・・」


 もう逃げていいかな?


「すみません、どうやら冒険者の帰還を待たないと話にならないようですので

 我々はこの辺で失礼しますね」


 逃げろ。


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