閑話 ミラセア

海洋国マルザム行きの船 【麗しきカーミラ】船内


ある日、船室でくつろいでいると

「ナオ、中に居るかの?」

とミラセアが入って来た。


ミラセアの顔色が白を通り越して青く見える・・・

「どうしたの?ミラセア何かあった?」


ミラセアは船室内のベッドに腰かけて

「すまぬが、少し話し難い内容での、こっちに来て貰えぬか?」


僕は緊張しながらも隣に座る

「何かあったの?」

「ナオ、すまぬが、手を出してくれぬかな?」

黙って、両手を差し出す。


ミラセアは僕の両手を握って、

その青い瞳から涙を流していた。


「ミラセア、何があったのか教えてもらえるかな?」


「すまぬな、わらわは千年の間あの黒い影に包まれて、

 人と触れ合うことが出来なんだ。

 見る事は出来た、話し掛ける事も聞くことも出来た。

 ただ、何かに触れる事は出来なくなって、

 風も感じられなくなった。

 物を食べる事も、味を感じる事も出来なくなった。

 人からは、私の表情は見えないから、

 次第に感情も擦り切れて行った。

 それでも、も出来なかった」


ミラセアの独白は続く・・・


「お主に呪いを解いてもらった時はな、

 呪いが解けた事より人に触れる事ができた喜びの方が

 大きかったんじゃよ。

 千年ぶりに、お主に腕を掴まれた時の喜びは口では表現できぬ。

 ただ、人前でお主の手を握って涙を流していては、

 お主に妙な噂が立つじゃろうし、

 わらわも少々、気恥ずかしくてな」


「そうだったんだね。

 あの時、僕にはミラセアが寂しそうにみえたんだ。

 それで思わず手をのばしてしまったんだけどね、

 これで安心できるなら、僕に言ってくれるかな?」


ミラセアは目を閉じて、何か決心する様に・・・

「実はな、ナオがサキの呪いを解いた時に、

 やはりお主が呪いを解いたのだと実感したのじゃが、

 その後で恐怖が押し寄せてな」


「恐怖って、いったい何が?」


「もし、お主の呪いを解く力が消えてしまったら。

 わらわは、またあの黒い影に囚われるのではないかと

 考えてしまったんじゃよ」


僕の手を握るミラセアの手に力が籠った。

「この暖かさを失う恐怖に、次は耐えられるのか

 そう考えると、気恥ずかしい等と言っておられなくなってな

 ここに来てしまったのじゃよ」


ミラセアがやっと笑顔を見せてくれた。

「ナオよ、お主を抱きしめても良いかな?」

「いいよ」


ミラセアは僕をだきしめて

「すまぬな、ナオ、しばらくこのままでいさせてくれ」




そうして、僕たちは無事海洋国家マルザムに到着した。




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