第19話 出航

王都から馬車で港町マーグナスに到着した僕たち

すぐに港でマルザム行きの船を探したけど

今、港に居る船でマルザム行きは無いらしい。


「仕方ないから、ギルドでも覗いてみようか?」


ガシッ 「ナオさん、見つけた!!」


いきなり腕を掴まれたと思ったら、アマンダさんか、びっくりした。


「アマンダさん、お久しぶりです。いきなりなので驚きました」


「ナオさん、あなたの事だから、ファイナ商会ウチに寄らずに

 マルザムに行こうとしたでしょ?」


 確かに船があったら、そのまま乗っていたかもしれない。


 しかも、何故かマルザム行きの事まで知られている。


「いえいえ、


「それは良かった、皆さんも是非うちに泊まって行ってください」


「長谷川さん、知っている方ですか?」


「以前、依頼でご一緒させて頂いた、

 この街のファイナ商会の会頭の娘さんでアマンダさんです」


「私にとって、ナオさんは命の恩人なんですから、来て頂かないと困ります」


「いえ、ちゃんと依頼料も盗賊の賞金まで受け取ってますから、

 気にしないでください」


「それに、今ではナオさんは、この国の英雄なんですよ。

 そもそもナオさん、あなたがこの街に来ていながら

 ウチに寄らずに素通りされたら変な噂が立つんです。

 ファイナ商会が何か不義理をやったとか言われるんですよ」


 ・・・アマンダさん、ごめん。

 それは、想像してませんでした。


「ごめんなさい、さすがにそこまでは頭が回りませんでした。

 ぜひ伺わせていただきます」


 さすがにそれはまずいわ、慌ててファイナ商会に伺う。





「モーリスさん、すみませんナオです。ご無沙汰しています」


「ああ、ナオさん、よく来てくださいましたね。どうぞどうぞ歓迎させてください」


ファイナ商会で歓待をうける

どうせなら相談してみよう


「モーリスさん、僕たちはマルザムに行くつもりなんですが、

 マルザム行の船は、いま港には入っていないんですね」


「はい、港でもナオさんがマルザム行きの船を探していると噂になってましたよ。

 先週出てますから、おそらく来週1隻入港します。

 荷卸しと積み込みで通常3日は停泊します。

 来週末には次のマルザム行きの船が出るでしょうね」


「なるほど、来週末まで時間が空きますね、ギルドで依頼でも見てみるかな」


「それでしたらナオさん、是非うちの者に算術を教えて頂けませんか?」


「いいですよ。それじゃあ、みんな、それまで自由にしていいからね」


 そうして、僕は算術の勉強会に取り掛かった・・・もっとも夜になると


「ナオ、9mmパラちょうだい」

「ナオ、5.56mmと40mmHEとHEDPを」

「長谷川さん、私も40mmHEとHEDPそれと9mmパラ」


 みんな、弾薬の補充に来るのはどういう事だろう、君達自由に遊んでてよ。




そうしたある日、朝、いつものようにサキさんにリストを渡すと

リストを見ていたサキさんが「んん?」と変な声をあげた。


「サキさん、何か変な物があった?」


「長谷川さん、たぶんこれ保存食料だよ、

 おそらく20年位前に期限が切れてると思うけど」


 MREと書かれた部分を指さす。


「でも、消費期限表示を見ればいつの時代の物か、ストレージに入れたのが、

 どこの国の人なのか分かるかも知れないね」


というので1つ出して見ました。

何とパッケージにはアメリカ製の表示があって、

なのに期限が書いてない? どういう事?


「缶詰もある、膨らんでないね、長谷川さん食べてみる?」


開けてみて、臭いをかいでみるビーフシチューの様だ、

付属のスプーンで食べてみる、普通に旨いな

クラッカーもぼりぼり、おいしいよ。


「大丈夫そうだね、僕が明日まで腹痛を起こさなかったら今後使えそうだ」


結果的になんの問題もありませんでした。


こうして僕たちは大量のMRE保存食を手に入れた。





そうこうしている内に港にマルザムからの船が到着した。


船との交渉はモーリスさんがやってくれるそうだ。


ちなみに船の名前は【麗しきカーミラ】だった。


船は明日から3日間を荷物の積み下ろしに使うらしい


さて、いよいよ出航だ。


モーリスさんとアマンダに別れを告げる。


船長はマイラスというもじゃもじゃの髪と髭のおじさんだった。






船が出航すると

「気持ち悪い」「揺れる~」すぐにサキさんとキーラがダウンした。


これは慣れるまで大変だぞ。


「あんたら、ドラゴンスレイヤーらしいな。何かあったら頼むぞ」

とマイラス船長が声をかけてきた。


「いや、見ての通り2人は役に立たないですよ、

 海の上では戦ったことがないから、

 大して役に立たないんじゃないですか?」


「同じ船に乗ってるんだ、船と一緒に沈むのがいやなら寝てる暇はないだろう」


「確かにそうですね、海ではどんなのが出るんです?」


「この大きさの船を狙ってくるのは、大ウミヘビや海獣かクラーケンくらいかな?」


「大ウミヘビはなんとなくわかりますが、海獣やクラーケンってどんなのですか?」


「海獣は鯨ほどの大きさのサメみたいな生き物だ、

 クラーケンはヌラヌラした吸盤のついた触手で

 船から人間を引きずり込むから気をつけろよ

 どっちも大きいのは船ごと壊そうとするからな」


 なるほど、くじらもサメもいるんだ。


「まあ、遠距離相手の方が得意ですから声を掛けてください」


「ああ、当てにさせてもらうよ」


 とりあえず、バレットと手榴弾は用意しておくかな。


「ナオ、ちょっといいかの?」


「どうしたのミラセア」


「海の生き物相手じゃから、テルミット手榴弾を出しておいておくれ」


「テルミット手榴弾ってなんだっけ?」


「確か焼夷手榴弾じゃったか、赤いのじゃよ」


「わかった、出しておくよ」


ミラセア、僕よりよっぽど詳しくなっているな


【ストレージ】 ヴォン♬


物陰でストレージを開けてバレットとテルミット1箱を出す。


木箱だ、箱の両側にロープの持ち手が付いている。

箱を開けると仕切られた中に16個の赤い缶のような筒が並んでいる

箱を持って「ミラセア、これだな」と見せる

ミラセアは箱から4個取り出して自分の袋にいれた。


僕もついでに自分の袋に2個入れておく。


「船長に聞いたんだけど、大ウミヘビや海獣、

 クラーケンに襲われる可能性があるって言ってたよ」


「たぶん、そんなところじゃろうな。

 シーサーペントや海竜はめったに出んじゃろう」


「シーサーペントなんているの?」


「おお、この船くらいじゃったら巻き付いて沈めにかかるじゃろうな」


「海竜はどうなの?」


「めったに出んな、500年前のドラゴンスレイヤーは

 海竜相手じゃと聞いておるよ」


「それなら大丈夫だね」


でも大丈夫じゃ無かった。






翌日のお昼前頃、僕が船室にいた時に上で「海賊だ~」と声が響いた。



慌てて船室から出て甲板に上がる。


船の右前方に2隻の帆船が見える、あれが海賊船か、さてどうしよう。


するとミラセアが2隻の内、左側を指さして

「ナオ、あっちを貰うぞ」と声を掛けてきた。


「え?」


ミラセアは手に持っているM4カービンの銃身に取り付けられた

グレネードランチャーをスライドさせた。


腰の袋から40mmHEを1個取り出してランチャーにセット、

狙いを付けて引き金を引いた。


シュポ


放物線を描いたグレネードは海賊船の甲板に落ちて爆発した。


「うん、いけそうじゃな」


ミラセアは筒をスライドさせて排莢し、次の弾を装填して、

狙いを付けて引き金を引いた。


シュポ


いかん、見とれている場合じゃ無かった。


バレットを船の縁に銃身を置いて構える。


右側の海賊船の喫水の下を狙う


ダァーン  水柱が上がる。


レバーを引いて次弾を装填して同じところを狙う


ダァーン


船長が「なあ、どこを狙ってるんだ」と聞いてきたので


「船底に穴を開けてます」

 

ダァーン  3発目を撃ち込んだ。


ダァーン  4発目を撃ち込んだあたりで


目に見えて海賊船の喫水線の位置が高くなってきた。


ダァーン  もういいかな?


1艘は炎上して1艘は沈みかかっている。


「船長、後はどうするの?」


 船長は引きつった顔をしている

「放っておこう」


「うん、わかった」




その時、船室からサキさんが現れた、

手にはグレネードランチャーHK69を持っている。


「海賊は?」


黙って炎上・沈没していく船を指さす


「終わっちゃったか」


と船室に戻って行った。





「なあ、海の上で戦った事ないんだよな?」


「初めてですよ」


「ドラゴンスレイヤーって、やっぱりすごいな」

 船長がしみじみと呟いた。




それから、しばらくは平穏な航海が続いた。


サキさんもキーラも慣れてきたのか、甲板に顔を出す様になった。


そうして海の上にも慣れた頃に、ついにあれと遭遇した。





昼下がり、皆が退屈を持て余し始めた頃。


なんの前兆も無しに船全体が、

下から突き上げられるような衝撃を受けた。


いや、実際に下から突き上げられたのだろう、

甲板の上にあった物が全て上に浮き上がり、

甲板に叩きつけられた。


その時、甲板にいた全員が倒れている。


船員の一人が叫ぶ「クラーケンだ」


みると甲板の上に巨大なタコようなの脚が上がってきている。


太さは大樽くらいか、とても抱えられそうに無い太さだ

人の顔程の大きさの吸盤と短剣程の鋭い突起がびっしり並んでいる。


甲板の上を脚で探っている様だ。


ミラセアが手にしたM4カービンの3点バーストで脚を撃つとひっこんだ。


痛覚はあるのかな?


「待った甲斐がありました」


サキさんが手に赤い缶の手榴弾を握っている。


そのピンを抜いてクラーケンが居るだろうところに投げつけた。


船縁ふなべりの向こうで、白い閃光とオレンジの炎が見えた。


「逃がすか」


サキさんが次の手榴弾のピンを抜いて投げつけた。


いや、サキさん。へりの向こう側、


炎が船に燃え移らないか気になったので、おそるおそる船縁ふなべりに近づく。


そっと下を覗き込むと、まだ居る、


「すぐ下に居ます」と声を掛けると

サキさんとミラセアが2人とも赤い缶のピンを抜いた。


僕は慌てて船縁ふなべりから離れた。


僕の頭の上を2個の赤い缶が通過してへりの向こう側に落ちた。


ミラセアは次の缶を手にしている。


サキさんはこっちに手を伸ばしている


「長谷川さん、持ってる?」


僕は両手を袋に突っ込んで、持っている赤い缶を2つ共サキさんに渡した


「ありがとう」


2人がまた赤い缶を投げる、縁の向こうで白い閃光が見えた。


2人はピンを抜いた次の缶を手に持ったまま縁に近づく、

息を合わせて下を覗き込む。


2人は顔を見合わせて、缶にピンを差し込んで、腰袋に入れた。


僕も覗き込んでみると、

ズタズタになったクラーケンらしきものが沈んでいく所だった。





船長が

「クラーケンを追い返すことは多いが、

殺されるのを見るのは初めてかもしれない」

と呟いていた。


キーラから、次にクラーケンが出たら

自分にテルミットを使わせるよう

要求されたのは言うまでもない。

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