最終話 姉視点

 なんなのよっ、いきなり帰って来いだなんて。弟に呼びに来させるなんて。


 そりゃあさ、コンビニの店員(バイトのお兄ちゃん)をたぶらかすことはできなかったけどさ。お母さんに叱られるようなことなんて、した覚えはないわっ。


 まさかあの店員、うちに苦情の電話なんてしてないわよねぇ!?


「た、ただいま」

「ただいま!! ほら、お姉ちゃん、早く、早く!!」


 な、なんなのよっ!?


 って、思っていたら。弟に手を引かれて台所まで着いちゃったけど。なんでお母さん、そんなにニコニコしているの? あたしのことを叱るんじゃなかったの?


「おじいちゃんとおばあちゃんから、あなたたちにどうぞって、贈り物が届いたの。なんだと思う?」


 そんなの、わかるわけないじゃんっ!!


「じゃーんっ!!」


 って、お母さん、これ、どういうノリ? 機嫌良さそうに冷凍庫開けちゃってさ。って、アイスじゃんっ!! あたしが食べたかったやつよりもっとお高いアイスがいっぱいあるじゃんっ!!


「どうしたの? これ?」

「かつてのおじいちゃんの部下にあたる人が、お孫さんにどうぞって。特にあなた、アイスが好きじゃない? だから、できるだけ早く食べさせてあげようと思って。はい、どうぞ」


 お母さんは、あたしが好きなストロベリーをテーブルの上に出してくれた。弟には、バニラ。


「うっ、うわぁーん」

「えっ!? どうしたの? お姉ちゃん!?」

「だって。だって、みんながやさしいからっ」


 あたしは駄女神だったのに。先輩の駄女神たちは、引きこもりの子供たちを外に連れ出すことができた。でも、あたしにそれはできなかった。


 かたくなに城に閉じこもり、部屋からすら出てこなかった王子様。ついにあたしは、王子様と一緒に魔族に踏み潰されて、死んでしまったのに。それなのに、ご褒美なんてもらってもいいのだろうか?


「お姉ちゃんが先に食べてくれないと、ぼくも食べられないよ。レディーファーストだからね」


 そういうところ、まだ王子様を引きずってるよね。でも、いいや。


 アイスが溶けないうちに。


「「いただきまーす!!」」


 今はただの、人間の子供なんだから。もし、これから先、弟が引きこもってしまったら、今度こそあたしが助け出してみせるからねっ。


 おしまい








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前世では王子様だった少年と、前世では駄女神だった少女の話 春川晴人 @haru-to

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