21.猫、塔を建てる
さあ楽しい楽しい実地仕事、建築の時間だ。
けど、これも結構一筋縄じゃいかない作業。
なぜならドーム状の鳥籠は、直線ではなく、弧を描いている部分が多いから。真っ直ぐな鉄の柱であればそれを建ててしまえばお終いだけど、曲線型の天井は骨組みに沿って鉄を成形していかねばならない。
そしてその仕事は、作業台ではできない。完全手仕事なのである。
とはいえ、ぼくには心強い味方もいる。
夢現鞄のクラフトツール一式に含まれていた、【ブラックスミスのグローブ】である。これは嵌めると、金属を炎などで熱せずとも、直に粘土みたく成形できてしまう便利道具なのである。
触れたところから高温の熱が生じて、それで金属を柔らかくすることができるみたいね。だからグローブで触ってやわこくした後に、他のツールを使って形を整える、なんてことも可能だ。
ただね、そこはやっぱりハンドメイドなわけで、完璧な歪曲、完璧に均整の取れた線が形作れるわけではない。ちょっとぼこぼこしちゃったり、どうしてもツールの跡が付いちゃったりもする。
まあ、そこは手仕事の“味”ってことでご勘弁。
もっともよく見ないと分からない程度の歪みではある。
そもそもが巨大な作品なので、そんな細かいところにじっと目を凝らす機会もそうないとは思われる。遠くから見たり、実際に屋上に立って見る分には、全然完璧。
大方の枠組みは出来上がったので、ぼくは地上に下りて出来栄えを確認する。
うふふ、いいじゃないいいじゃない。オサレなかんじがでてきたぞ。
ピヨコが嬉しそうに塔の周りを歩いている。最近ピヨコは、ぼくの仕事中ずっとあんなかんじだ。
すっかり警戒心も解けたようだ。
ぼくが作業台前でうんうん考えていると、いつの間にか隣で覗いていたりして、逆にぼくがぎょっとしたりもする。こいつデカいからな。
それじゃあ鳥籠の仕上げ、装飾といこう。
鳥籠バルコニーには、土台近くの柵代わりに、そして上方にも一周、帯状の鉄バンドをぐるりと巡らせてある。ここにこれから、レース柄っぽく模様を彫っていこうと思う。
彫金と言えば彫金なんだけど、大きさが大きさなだけに、細工というより工作感が強いかも。グローブであっためて粘土みたくなった鉄に模様を描いて、切ったり削ったりする作業。
正直この部分が一番時間がかかった。ここだけに三日くらい消費したんじゃないかな。
けど美しい透かし模様が徐々にできていくのが嬉しくて、全然苦ではなかった。一休みのため塔を降りるたび、完成に近付くレースを眺め、にんまりしたものである。
ピヨコも女の子だからかな、目をきらきらさせてレース模様に見入っているようだ。ふふふ、なかなかお目の高いやつじゃないか。
そしてデコレーションの幕引きにと、ぼくは作業台で大きな鉄製【風見鶏】を作る。これくらいの大きさなら、作業台機能で簡単製造できるみたい。
ぼくは作った風見鶏を持ってって、鳥籠バルコニーのてっぺんに溶接した。地上でぴょんぴょん跳ねているピヨコに向けて、ドヤ顔を決める。
かっこよかろう、素敵だろう。空なんか飛べなくたって、ここに来ればきみは風を感じられるのだ。
それじゃあとはちゃちゃっと内装を整えて、ピヨコをお迎えしますかなー。そう思い、足場を使って地上に下りたところで、ぼくははたと気付く。
……あれ、高い高い塔を作って展望台を付けたところまではいいとして、あのでっかいピヨコをどうやって上まで連れて行こう。
内装はまだ全くの未着手、とはいえ大体の計画は建てていた。
塔の内部は二階層にしておいて、一階はエントランス、二階をピヨコの寝床にしようと思ってたんだよね。
で、屋上も含め、各階層は梯子で繋ごうと思っていた。下手に階段とか付けちゃうと居住スペースが圧迫されちゃうから、上り下りのめんどくささくらいは我慢してもらおうと思って。
けどよくよく考えたら、ここに住むのはあのずんぐりむっくり、水かき付きのあんよとちっちゃな翼しか持たないドデカサイズヒヨコである。めんどくさいも何も、梯子なんてそもそも使うことができないだろう。
じゃあ頑張って階段を付けるか?
でもピヨコも使えるサイズの階段ってなると、やっぱり場所を取る。住む場所というより、階段と屋上だけの建物になってしまいそう。
塔の下層に立って、遥か彼方の天井を見上げるぼく。
ピヨコが入口からこっちを覗いている。「まだかな? まだかな?」という声が聞こえてきそうである。
ヤバい。どうしよう。
「と、とりあえず一旦休憩だよ。内装作業もすっごい時間かかるんだからね。大人しく待ってなきゃダメだよ」
「ぴよ~」
ぼくはピヨコに言い訳を並べると、作業場にダッシュで舞い戻った。そしてDIYガイドブックを捲り、作業台のレシピ一覧と睨めっこする。
考えねば! ピヨコが自力で展望台まで登れる仕組みを、どうにかして考えねば!
一日うんうん悩んだぼくは、翌日、とあるレシピにより一筋の光明を見いだした。
その名も【マグネライト】。
これは【幻石】と【
ぼくはこれをピヨコリフティング計画に取り入れられないかな、と考えた。そう、
一先ず【侍山】でマグネタイトを大量に集めてきて、それから実際に小さなマグネライトを作ってみる。
実験にはあと二つ、【幻石】と【アダプター】が必要だ。幻石は動力の素となる電池みたいなもので、アダプターは幻石とマグネタイトを繋ぐ回路みたいなものね。
ぼくは【銀インゴッド】、【銅インゴッド】、【アースオイル】を作業台で合成してアダプターを二つ作り、そこに幻石をセットした。
それから作ったマグネライトを真ん中で二つに割って、それぞれにアダプターで幻石を繋ぐ。これでマグネライトに幻子エネルギーが流動するようになる。
二つの装置をちょっと離れた位置に置いてみると――――――二分されたマグネライトはじりじりと距離を詰めていって、やがて一つの塊に戻った。
このゆっくりとした速度感は、普通の磁石とは違う点かも。
マグネライトの場合は、距離の長さに応じて引き合う力に強弱が生じる、ということがあまり起きないように感じる。近くに置いても遠くにおいても、大体一定の速度でお互い近付いていくかんじだ。
ただ磁力が発生しない距離というのは存在するようで、置く位置が遠過ぎるとどっちのマグネライトもぴくりとも反応しなかった。
この一定した速度感は、エレベーターを作るには都合がよい。
次は片方のマグネライトに薄い木片を付けて実験してみる。反応できる距離はさっきより短くなったけど、マグネライトは木片を間に挟みながらも、やはりお互いを引き寄せた。
うん、間に障害物があってもある程度は大丈夫そう。つまり、上にひとを乗せる台があっても平気そうだ。
もっと大きいマグネライトを作ると、もっと遠い距離、もっと厚い遮蔽物があっても動かせた。
今度は上下で実験。
片方のマグネライトを地面に置き去りにしといて、もう半分を持ったぼくが木に登る。
そして高い枝の上からマグネライトの断面を下に向けてかざすと――――――地面に置いておいたマグネライトは断面を上に向けたまま浮遊し、近付いてきて、最後には一つになった。
これはいい。速度のみならず軌道も、非常に安定している。
対になったマグネライトは、互いの断面を目指して一直線に進んでくるっぽいね。
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