第21話 後悔その2
太陽が地平線に沈みカーク伯爵領都に夕闇がせまるころ。
グラハムの陣に交渉のため領都にいった、ロイアとその護衛が無言の帰還をした。
全員が丁寧に棺に入れられ死化粧をされて送られてきた。
王国の使者いわく、一部の兵が暴走した不幸な事故であったと。首謀者はすでに首を刎ねたので、望むのであればその首を差し出すといった。
謝罪と降伏交渉は後日再びさせてもらいたいとして、使者は帰っていった。
真っ青な顔をしていたクリスは、ロイアの最後の言葉を使者から聞くとそのまま泣き崩れてしまった。
「すまない、クリス。俺のせいだ。すまない、クリス」
グラハムは繰り返し謝罪するがクリスは棺にとりすがり泣き続けた。
グラハムは遠くに見える、城塞都市を見る。すでに夜の帳はおり城壁のうえでは篝火がたかれている。
グラハムは考える。
ニーナを信じたのは誤りだった。信じるべきではなかった。
ロイアをいかせるべきではなかった。
ニーナを信じるべきではなかった。1度裏切ったものは2度3度裏切るのだ。
自分の愚かさでロイアが死んだのだ。
クリスのすすり泣きが聞こえる。
グラハムはその声を心に刻みつける。
グラハムはニーナの首をこの手で刎ねると決めた。もはやどんな謝罪も言い訳も聞くつもりはない。
クリスのロイアを繰り返し呼ぶ声は静かに帝国の陣に響き渡った。
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その後の降伏交渉はおどろくほどすんなりと終了した。
領都の民に出を出さないこと。
王国の将兵を助命し開放すること。
細かい内容はいくつもあるが、大まかなところはこの2点で交渉はまとまった。
城門は開かれ、掲げられていた王国の旗に変わり、帝国の旗が掲げられた。
王国兵は順次武装解除されていく、そのまま街を出ていくものもいれば、もともと街の出身者はそのまま家に帰っていく。
王国からの軍勢は来ず、元カーク伯爵領は帝国の暫定統治領に切り替わった。
街の様子も、街角に立つのが王国兵から帝国兵に変わったぐらいで変化はない。
グラハムはかって自分が使っていた執務室で、帝国からの命令書を読んでいた。
帝国皇帝コーデリアからきた内容は、カーク伯爵領都を落としたことの称賛と、ロイアの死をいたむ内容だった。
そしてグラハムにこの地の暫定統治を当面まかすという命令書だ。
王国から切り取った領地を、もともとこの地を治めていた寝返りの将に預けるというのだから、コーデリアの度量の広さに驚くしかない。
グラハムは、まさかこんな短期間で再び領主に舞い戻るとは思っても見なかった。
まったくどうやら自分は流転の運命を背負っているようだ。
隣国のサラン国からの圧力がなくなれば王国は再び軍を起こし、この地を奪還しようとするだろう。
それまでに防衛体制を固めるのがグラハムの役目だ。この地で何年もやっている仕事ではあるが、以前は帝国から街を守るために働き、現在では王国から街を守るために働く。
これを皮肉というにはスパイスが効きすぎている。
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