第7話
「おじさま、おばさま、お兄様にお姉様でお困りの方はいらっしゃいませんか~」
「こちらご注文の麦酒にソーセージになります~」
「・・・って、何で私達が給仕なんかやってるワケ!?」
ギルドの酒場エリアで2人の美少女?が給仕をしていた。
時は少し遡る。
「アタシ達が出来ることで人の為になる事、ねぇ」
「そうよ!!とにかく困ってる人を助けて報告しなきゃならないの!!何かない?」
「う~ん、街や商店街はすでに他の子がグループで回ってるのよね・・・貴女は友達と一緒にやらないの?」
「・・・ぐっ、べ、別に良いでしょ!?私は1人でも出来るもん!!」
オネーは察した。
あぁ、この子…友達がいないのね…
なんとなくここまでの会話である程度わかっていた事だが、この子は悪い子では無いけど致命的に言葉足らずなせいでなかなか同年代の子に理解されない性格なのだ、と。
「貴女は特技とかないの?」
「その呼び方やめてよね」
「ファリンは特技とかないのかしら?何か役に立ちそうな」
「ふっふ~ん、聞いて驚きなさい!!私、回復魔法が使えるのよ!!」
「それ!!それ良いじゃない!!」
そう言えばファリンの通う聖なんとやら学校は元々高名な回復術師にあやかって建てられたとか言っていたわね。
「でもそれって他の子も出来るんじゃないの?」
「ふふ、私の学年で回復魔法が使えるのは私だけなの!!どう!?すごい!?」
「凄いじゃない!!大変だったでしょ?」
「そんな事ないわ、練習し続ければこれくらい余裕よ」
「でも現に他の子は使えないんでしょう?」
「さぁ?努力が足りないんじゃない?」
オネーが思うにこのファリンと言う子は人並外れた努力家なのだ。
エレノールやアンジェリカ、ギルドマスターが言うには魔法を習得するには莫大な時間と努力が必要なのだと言う。
転生して元々変身魔法が使えていたオネーとは違い、ファリンはこの歳で回復魔法を自力で習得しているのだ。
その努力量は計り知れない、のだが…
恐ろしい事にこの子はそれが当然の事のように言ってのける。
確かに友達が出来にくそうな性格である。
「なら、それを生かしたいわね」
「そうね……聖女候補に選ばれるにはやっぱりそれなりに成果を出さないと」
「じゃああそこに行ってみますか」
「あそこ?」
「冒険者ギルドよ!!」
そして今。
「なんで回復魔法をいかそうって話だったのに給仕の仕事なのよ!!」
「だって…今の時間は大体みんな依頼に行ってるし、その間はこうしてギルド内で出来ることをやるしかないわよ」
「ぐぬぬ…」
「オネーちゃん、こっちよろしく」
「は~い♡ただ今♡」
そう、時刻は真昼間、この時間は腕自慢の冒険者達も皆討伐依頼で出払っておりギルドにいるのは酒を飲んで仕事を休んでいる非番の冒険者達だけなのだ。
そんな中ギルドマスターに掛け合い、設けてもらったのがギルド内での便利屋なのだ。
今は酒場エリアの人手が足りないと言う事でこうして給仕の手伝いをしているのだ。
「ファリンちゃんはこっちお願いね~」
「え?あっ、はい!!」
文句を垂れつつもしっかり仕事はこなそうとするあたり人の良さが滲み出ているファリンである。
「…疲れた~」
「お疲れ様、ファリン。飲み物貰ってきたわよ」
「ありがとう…って!!なんで私がこんな…みんなは街の人の為に頑張ってるのに」
「給仕だって立派な仕事よ?」
「それはわかるわよ、わかるけど…」
「ギルドにいる冒険者だってこの街や国を守る為に一生懸命働いているわ。その仕事を手伝う事だって立派に人の為になっていると思うけど?」
「そう…?そうよね!!私、ギルドの人達がこんなに働いてるなんて思ってもなかったわ!!」
「そうそう、きちんと働いているなら仕事に貴賎はないわよ」
「立派な仕事…」と噛み締めるように呟くファリン。
なんともちょろいファリンである。
「ただいま~…いや~疲れたぜ全く…最近は魔物も多くてかなわねぇ」
「あらおじさま、おかえりなさい。疲れてない?大丈夫?」
「おっ、オネーちゃん!!聞いてくれよ~最近魔物が多くてさ~ほら、今日もこことかこことか切り傷だらけよ」
「あら本当、大変じゃない」
「ちょっと見せて!!」
丁度討伐依頼から帰還したベテラン冒険者にファリンがかけより腕の傷を見る。
「いやいや、傷はそんなに深くないんだけど…オネーちゃん、この子は?」
「この子はアタシの友達のファリンよ」
「友達…えぇ!!私に任せなさい!!」
ファリンは冒険者の袖をまくり傷を見ると、短く何かを呟きながら目を閉じ、両手のひらを傷に向ける。
すると、淡い緑色の光と共に冒険者の切り傷がみるみるうちに塞がっていった。
「おぉ!?」
「どう?まだ痛い?他は大丈夫?」
「あ、あぁ、ありがとう…いや~、おっちゃん嬉しいよ!!こんな可愛い女の子達に癒してもらっちまってな!!ガハハ!!」
「当然じゃない!!こんなに傷だらけになっても私達のために戦ってくれてるんだもの、立派な事よ」
「嬢ちゃん…」
照れて笑っていた冒険者だったが、ファリンの一言を聞くと涙ぐみながら席に着いた。
「久しく忘れてたなぁ、その感覚。なんだかこの仕事を続けてるとよ、それが当然のことのように感じちまってな。そうか、そうだよな!!俺らぁ、お嬢ちゃん達の為に戦ってたんだ!!大切な事を思い出せたよ、ありがとう」
「…えぇ、えぇ!!これからも頑張ってね!!でも無茶はしちゃダメよ?」
「天使…」
「天使だ…天使が2人に増えたんだ」
「そう言えば俺、ちょっと怪我してた気がする」
「いや俺も実は肘擦りむいてたんだったわ」
「お前テーブルの角に肘擦り付けてたの見たぞ俺」
「もう!!怪我してるなら早く言いなさいよ!!」
…わざと怪我をしてる不届き者もいる気がするが、いつの間にか2人の周りには人が溢れていた。
それを片っ端から癒していくファリン、そしてそのテーブルを回り注文を取るオネー。
「ねぇ、オネー」
「なぁに?」
「私、人助け、好きかも」
「ふふっ、そう」
「えぇ!!私ね、本当はこの課題、乗り気じゃなかったの」
「どうして?」
「だって…私達に出来ることなんて限られてるし、そんな時間があるならもっと勉強して回復魔法を上達させた方が良いと思ってたから…でも違うのね。本当に重要な事は高みを目指すために周囲を見ないふりする事じゃなくて人を助ける事とかその仕事の凄さ?偉大さ?を少しでも理解する事だったんだわ」
そう言って笑うファリンがあまりにも眩しくてオネーは少し目を細めてしまった。
この子…どうして友達が出来ないのかしら?
アタシがこのくらいの頃は鼻水垂らしながら走り回って遊んでたわ。
そんな中、ふと、視線を感じ、ギルドの隅に目をやると。
「う、うおおお……こんな若い子達がこんなに一生懸命に…この国は安泰だ…アリスヴェールに栄光在れ!!」
ギルマスがギルドの床に涙で水溜りを作っていた。
正直ちょっと引いた。
「オネー?」
「な、なんでもないわ!!」
そこはみないふりをしつつ。
きっとファリンはこの課題における本質を理解できたのだろう。
最初は文句を言っていた給仕も自分から手伝うようになっていた。
「ファリン、貴女、きっと良い聖女になれるわ」
「な、なによ急に!!当たり前じゃない!!…ありがとう…」
「天使だ…」
「天使がいる…」
照れるファリンに褒めるオネー、そしてそれを生暖かく見守る男達と言う異質な空間ではあるが、ファリンの人助け大作戦はひとまず大成功として幕を閉じるのだった。
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