第3話

オネーは翼竜と剣の看板の建物、ギルドと呼ばれる組織の扉を開く。


そこは小さな体育館ほどの大きさの建物で、大きな掲示板や沢山並んだテーブル、受付のような物が複数設置してあった。

テーブルでは昼間だと言うのに酒盛りをする美男美女が溢れていた。


「ギルドって言うか居酒屋って感じね」


オネーが前世で営業していたバーとは雰囲気が違うが、酒の匂いと酔っ払いの他愛もない話に親近感が湧いた。


「・・・ギルドに来たは良いものの、どこに行けば良いのかしら?」


意気揚々と扉を開けたものの、事前知識がまるでないせいで何をしたら良いのかわからない。

キョロキョロと辺りを見回すと、掲示板のようなものが目に入る。


「初めての方はこちらへ?・・・あの受付かしら?」


何故だかはわからないが見たこともないはずの文字が読めた。

困惑するが、その方が都合がいいので気にせずに矢印に沿って受付に向かう。


「ギルドにようこそ。依頼ですか?」

「いえ、お仕事を探しに来たんですが」

「ギルドに登録はされていますか?」

「してないです」


登録が必要なのか。

ハローワークを思い出す。


「ではまずご登録を、と言いたい所なのですが・・・」

「なにか?」

「いえ、あの、失礼ですがご年齢は?」

「8?9?10?ぐらいですけど!!」

「お仕事は?」

「教会?でお手伝いをしてるんですけど!!」


しまった。

もしかして年齢制限があるのかしら。


「ギルドでは実力に合った依頼を斡旋していまして、基本的には魔獣が出るものが多くてですね。最低限身を守れる実力がないと厳しいと言いますか・・・」

「こう見えてアタシ、結構強いのよ?」


やんわりとお断りされている気がするが、オネーも一切引く気はない。

シスター達に迷惑をかけずにお金を稼ぐにはこのチャンスを逃すわけにはいかないのだ。


「いや~・・・あ、そうだ!!技能検査をしてみましょう!!そこで適性が有れば登録作業にうつりましょう。もし適性がなければ・・・その~諦めていただくしか」

「う~ん、じゃあお願いするわ」


受付嬢の言いたいことも確かにわかる。

もしここで何の力もない少女を登録し、依頼を斡旋し、大怪我でもされたらギルドの信用と責任問題につながりかねない。

それに単に少女が自分のせいで怪我をしたりするのは寝覚が悪い。


きっとアタシが同じ立場だったら同じことを考えるでしょうね。


受付嬢は1枚の紙とペンを取り出した。

その紙の真ん中には魔法陣のような図形が書いてある。


「では、この図形の真ん中に手を当てて下さい」

「はい、どうぞ」


ペタリと小さな掌を図形の中心に押し当てる。

すると、図形の線が淡く光だし、その下の備考欄のような所に文字が浮き上がる。


ーースキル

特になし。


ーー契約

特になし。


ーー魔法

変身魔法(人型)。


ーー戦闘適性

適性あり。


ーーその他特徴、備考欄

強靭な肉体を持つ。



「どうなの?これ?」

「・・・戦闘適性はあるようですね。変身魔法は独力で身につけたものですか?」

「いや、使った事ないし知らないけど」

「と、なると先天的に身につけている・・・?ーー!!失礼しますっ!!少々お待ち下さい!!」

「あっ」


行ってしまった。

それにしてもスキルだの契約だの知らない単語が増えてしまった。

それに変身魔法?そんなもの使った事ないのだけど。

もしかして、魔法少女的な変身ができるのかしら?


5分程度待っていると、受付の奥からギャアギャアと喚く声が聞こえ、ドタドタと足音を立てながらさっきの受付嬢と数人の偉そうな人達が現れた。


「お、お待たせしました!!こちら、登録用紙になります!!ご記入をお願いします!!」

「あ、うん」

「本当にこの少女が・・・?にわかには信じられんが」

「しかし、検査用紙に嘘はつけますまい。気持ちはわかりますが」

「先天的に魔法を取得している人間はそれなりにいるが、絶対数の少ない変身魔法に加えて、強靭な肉体だぞ?見た所華奢な少女だが」


登録用紙に名前を記入している最中も筋肉質なおじさまや髭を生やしたダンディなおじさまがやんややんや言っている。


名前はオネーにした。

年齢は・・・9歳と言う事にしておいた。

精神年齢を加算したら・・・考えるのはやめた方がいいわね。


「お嬢さん、ちょっとこちらへ」

「?」


登録用紙を書き終えると、受付嬢とさっきのおじさま2人に受付の奥へ連れられる。


「お嬢さん、君は自分の変身魔法と強靭な肉体についてどこまで理解しているかね?」

「?」


おじさまは子供に言い聞かせるように優しく問いかけてくれる。


癖になりそうねこれ。


「ではまず、変身魔法について説明しようか。変身魔法と言うのはね、その名の通り一時的に自身の体を別の物に変えてしまう魔法なんだ。皮膚を石に変えたり狼になったり水に溶けたりできるんだ」

「へぇ~」

「これはもともと変化と言うスキルを魔法で再現した物なんだ。ここまでは良いかい?」

「はい、おじさま」

「うむ、で、だ。この世には生まれつき魔法を取得している人間がいるんだ。数はそう多くはないがね。そのほとんどは初級魔法であるファイアボールとかがほとんどなんだ。中にはそれなりにランクの高い魔法を生まれながらに取得している者もいるが、変身魔法を生まれつき取得している者は我々も初めて見る」

「すごいの?」


アタシ自身、魔法なんて使った事ないし、何ならこの世界だって昨日初めて認識したし。

魔法と言うファンタジーな単語に心はときめくものの、何が凄くて何が凄くないのかはよくわからない。

アタシからすれば魔法なんてどれもすごいわよ。


「凄いなんてものじゃない。何に変身する魔法なのかはわからないが、今から極めれば宮廷魔術師も夢ではないだろう」

「そ、そうなのね」

「あぁ、で、次に強靭な肉体についてだが」


それに関しては何となくわかる。

アタシの前世だ。

この体で目覚めた時にはすでに自覚していた前世で身につけた身体能力。


「これは本来長年の鍛錬を積み重ねる事で表示されるものでね。天性の肉体と言うスキルがこの世にはあるが、この強靭な肉体と言うのは努力でそれに追いついた証でもある」


まぁ、前世ではトレーニングを怠った事は無かったし、何なら自動車に跳ねられても無事でいられる自信はあったんだけどね・・・当たりどころが悪かったのかしら。


「君のような、なんだろう、可憐な少女が強靭な肉体を持つと言うのは中々考えられなくてね」


可憐な!!少女!!アタシが!?

テンション上がってきたわ!!

こんな素敵なおじさまに可憐って言ってもらえるなんて!!


「検査用紙が間違っているとは思えないのだが、1度実技で実力を確かめさせてはもらえないだろうか?」


そう言って右手で指された方を見ると、角材やらレンガやらが無造作に積まれていた。


「君は9歳だったね?あのどれか一つでも自力で破壊してみて欲しい」

「えっ?」

「すまないね。疑っているわけではないのだが」


ーー余裕じゃない?

アタシは無造作に角材を手に取ると、端と端をそれぞれ持ち、へし折った。


「!?」


その次は両手にレンガを一つずつ持ち、おじさま達に向き直る。


「っ!!それ!!」


両手に力を込めるだけでレンガは塵になった。


「嘘!?」


受付嬢は両手で口を覆い、おじさま2人は目を皿のように見張り、無言でオネーを凝視していた。

その後も目につくものを尽く破壊していった。


「ま、待て待て!!もう充分だ!!どうやら君は本当に、我々が思っている以上に強靭な肉体を持っていたらしい」

「そう?」


ストップがかかったのはオネーが鉄槍を針金のようにねじ曲げている時だった。

髭をはやした紳士は驚きを隠さないまま筋肉質な男に尋ねる。


「・・・なぁ、君は鉄槍を曲げた事はあるかい?」

「ねぇよ、剣の達人なら鉄槍を切るぐらいはできるだろうが・・・素手でねじ曲げるのはなぁ・・・あの槍だって特に加護はないが充分丈夫な品物だぜ?」


ブチッ


「あっ」


つい鉄槍を引きちぎってしまった。


「なぁ、俺は夢でもみてるのか?」

「さぁ?あのお嬢さんに頬でもつねってもらったら良いのでは?」

「首から上がなくなりそうなんだが?」


もう良いのかしら?


「これぐらいなら余裕よ」

「う、うむ。君がどんな過程を経てその力を手に入れたのかはわからんが・・・さすがにここまでされると認めざるを得ないな」

「じゃあアタシも依頼を受けても良いの?」

「いや、それに関しては我々も一度君の実力を上に報告してからになる。許可は下りるだろうが、それまでは待ってくれ」

「・・・う~ん、わかったわ」

「他に何か質問はないか?」


質問、質問ねぇ・・・。

レンガを握りつぶすぐらいなら前世でもできたし、ここはやっぱり変身についてよね。


「変身魔法と変化スキルはどう違うの?」

「うむ、変化スキルの殆どは生まれつき持っているものだな。人狼族ウェアウルフ達は生まれつきこの変化スキルを持っているな。中には石になったり木になって植物と心を通わせる者もいるらしい」

「魔法は?」

「魔法の方は一般的にはそう言った変化スキルを魔力を消費したり条件を付けることで模倣したものだ。中にはオリジナルで変化魔法を作成した魔術師もいるようだが」

「つまり、生まれつき条件なしで変身できるのがスキルで、ある程度の条件を付けて変身できるのが魔法って事ね!!で、魔法の場合は割と何にでも変身できるのね」

「理解が早くて助かる。だが、何にでも変身できると言ってもそう簡単にはいかないんだぞ?魔法を一つ作り上げるのにはそれこそ何十何百という年月がかかるからな」

「そうなんだ」


どうせならスキルが欲しかったけどそう考えると魔法でも悪くないわね。

・・・でもあたしの変身魔法の条件って何なのかしら?

それに変身(人型)って言われてもアタシそもそも人だし。


「まぁ、正式に許可が下りるのは何日か先だろうから今日の所は帰ると良い。・・・正直我々も頭を休めたい」

「あ、はい」

「では、登録証が届いてから又出直してもらえると助かる。気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます♡おじさま♡」


ホントに良い男ね!!筋肉質な腕が良い感じだわ!!


イケメンと触れ合い、褒められ上機嫌になって教会へと戻っている最中だった。


登録証も数日後に届くって言ってたし、自力で稼げる日もそう遠くは無いわね!!

ーー届く。

届く、どこに?


「教会に?」


ばれちゃうんじゃ・・・?


どうしましょう?

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