第2話
「・・・んぅ?朝?」
夢さえ見ずに熟睡していたようだ。
窓から差し込む朝の陽ざしで目が覚めた。
軽く伸びをして自分の両手を開いたり閉じたりする。
う~ん・・・どう見ても少女よね。
って事はやっぱりこれは夢じゃないって事よね。
「よっと」
ベッドから飛び降りてシスター二人の方へ向かう。
今は何時ぐらいなんだろうか?
「おはよう、エレノール、アンジェリカ」
「おはようございます。オネー」
「あら、よく眠れたかしら?オネー?」
「えぇ、ぐっすりよ」
シスター二人に挨拶をし、顔を洗う。
うん、相変わらず美少女ね!!アタシ!!
「今日は二人に色々聞きたいことがあるの。ダメ?」
「いえ、良いですよ。朝食を取りながら話しましょう」
「うん!!」
昨日ご飯を食べた席に着き、床に届かない足をぶらぶらとさせる。
前世だったらこの椅子がアタシの体重を支え切れるかすら怪しいわね・・・。
「神の慈悲よ」
「「神の慈悲よ」」
長くてよくわからないお祈りだったので最後の部分だけ真似をする。
シチューを口に運びつつシスター二人に質問をする。
「ここはどこなの?何て言う国?」
「ここはアリスヴェールと言う国ですよ。大陸のちょうど真ん中あたりにあるんです」
「大陸?」
「はい。ちょうどあそこにかけてある地図の真ん中です」
「あ、あれね」
「えぇ、この国は海は無いですが、北と南の間での貿易によって成り立っているんですよ・・・難しかったですか?」
「ううん、大丈夫」
う~ん、本当に異世界っぽいわね。
地図ですら見た事無いわ。
「この国にはいろいろな情報が出入りしているので、その伝達速度を生かして教育機関なんかが近年発達しているのよ」
「アンジェリカは物知りなのね!!」
「そうでしょう?アンジェリカさんは元貴族令嬢なんですよ」
「そうなの?」
「エレノール!!もう昔の話ですよ」
成程ね、どうりで食べ方や所作から気品がにじみ出ているわけだ。
それにしても教育機関かぁ・・・学校の事よね?
あんまりいいイメージ無いのよねぇ・・・。
前世の頃は学校で男が好きって理由でよくいじめられてたっけ・・・。
う~ん・・・でも今は美少女だし、このっ世界には美男美女が多いみたいだしちょっとぐらい行ってみたいわね・・・。
「学校ってどうやったらいけるの?」
「あ~、お金があれば平民でも行けるんですけど、基本は貴族階級の方々が行くみたいですよ。アンジェリカは行ってたんですよね?」
「えぇ、今はどうだかわかりませんが、昔は本当に学校とは名ばかりの貴族の社交場のようなもので良く嫌気がさしたものです」
貴族は貴族で大変なのねぇ~・・・アタシはそういう小説とかあんまり読んでないからよくわからないわ。
「でもどうしてです?」
「いや、あの~・・・行ってみたいな~・・・なんて」
「・・・」
やっぱり無理よね?お金が必要だって言ってたし。
この教会だって見るからにお金無いしね・・・。
「ごめんなさいね、オネー」
「良いの!!謝らないで!!アタシのわがままだから!!それよりも魔法とかについて聞きたいわ!!」
危ない危ない、せっかく助けてくれた二人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないものね。
「魔法と言うのはですね、魔力と言うものを消費して火を付けたり水を出したりする技の事です。お風呂にあるような魔石は誰でも使えるんですけど、魔法に関しては天性の才能があるか、鍛錬を積むことで身に着けるかの2択になります」
「頑張ればだれでも使えるの?」
「えぇ、すごく時間はかかりますが」
「使えるようになってどうするの?」
「多くの魔術師はギルドでその魔法を発揮しています。魔法を極める事が出来れば宮廷魔術師になれたりしますよ」
「ギルド?」
「はい、ある者は名声、ある者は富や財宝、冒険を求めてパーティを組んでダンジョンにもぐったりする人たち。冒険者ですね。その冒険者たちに依頼を斡旋したり管理したりするのがギルドと呼ばれる組織です」
ふむ、ここまで来るとマジにゲームみたいね。
何とかクエストを思い出すわ。
それにしても、財宝、財宝ね。
ギルドでお金が稼げれば学校に行けるかしらね?
そんな事を考えていたらいつの間にか食べ終わっていた。
後片付けや皿洗いを手伝いつつ、午後はギルドとやらを探すことにした。
「では、私たちは奉仕活動で出かけてしまいますが・・・」
「大丈夫よ!!草むしりは任せて!!」
「はい、怪我をしないように気を付けて下さいね?」
シスターの二人は奉仕活動と言う事で動けないご老人たちの元へ出向き、祈ったり話を聞いたりするそうだ。
アタシが出かけるには今しかない。
今しかないのだが・・・。
「与えられた仕事を放棄するのは性に合わないわ!!さっさと終わらせちゃいましょう!!」
この協会は小さいとはいえ、敷地内の雑草を全部抜くとなるとそれなりの重労働だ。
・・・本気を出すか。
「アタシはこう見えて、学生の頃はボランティアで雑草毟りのプロと呼ばれたオネエなのよ・・・!!」
正確には、ボランティアグループに好みの男の子がいたから参加していたのだが。
「うおおおおおおおおおおお!!雑草が何よ!!オネエ舐めてんじゃないわよ!!」
まさしく早業だった。いや、神業か。
明美、いや、オネーの目の前に生えていた雑草はいつの間にか地面に山盛りになっていたのだ。
そのあまりの速さに、おぉ、何と言う事だ・・・!!
この雑草、自分が引っこ抜かれたことに気が付いていない・・・!!
『へへっこんな小さな嬢ちゃんに何ができるってんだ。俺達は代々この地に根付いてる雑草だぜ?』
『あぁ、雑草魂見せちまうか!!なんつってな!!ガハハハッ!!』
『ガハハハッ・・・あれ?お前、根っこが・・・あれ?抜けてねぇか?』
『いや、何を言って・・・おい!!お前も!!根が!!』
『『う、うわああああああああああああああああああああああああ!!』』
「何か騒がしいわね・・・?虫でも鳴いてるのかしら?」
オネーは物の30分程度で敷地内の雑草全てを引き抜くと、頬に垂れる汗を手の甲で拭いつつ立ち上がる。
「さて、行きますか!!ギルドとやらに!!」
手についた泥と雑草の汁を洗い流し、乱れた髪を整える。
髪も今日の朝、エレノールが軽く切って整えてくれたのだ。
それでも長いので軽く下の方で一つに纏めている。
「う~ん、大体の地理はこの体が覚えてるんだけど・・・まぁ聞けばいいわよね」
アタシは日よけの麦わら帽子をかぶりなおし、何となく人の多そうな方向へ向かった。
「しばらく歩いたけど、看板がいっぱいあってどれがどれだかわからないわね」
どうやらそれらしい通りには出たのだが、看板だけではどれが何の店なのかよくわからない。
しょうがない、誰かに聞いてみるか。
「すいません、二の腕の逞しい素敵なおじさま♡アタシ、ギルドに行きたいんだけどどこだかわかりますか?」
「おぅ、嬢ちゃん見ない顔だな!!ギルドならあの翼竜と剣の看板だよ!!」
「ありがとう!!おじさま!!今度来た時には何か買っていくわね!!」
「良いって事よ!!それよりほら、これ持ってきな!!」
「良いの?」
八百屋のおじさんはニカッと笑いながらリンゴを手渡して来る。
「嬢ちゃんはべっぴんさんだしな!!サービスだよ!!サービス!!」
「あらお上手!!うふふっ、ありがとう!!おじさま!!」
・・・良い男だったわね。
やっぱり街に出てきて正解だったわ!!見渡す限り美男美女!!美女はさておきこんな八百屋にまで素敵な殿方がいるなんて!!この世界も捨てたもんじゃないわね!!
それになによりアタシの事べっぴんさんだって!!見る目あるじゃない!!
前世だったらこうはいかなかったわ!!
「さて、と、ここがこの町のギルドね・・・!!」
アタシは意を決してその扉を開いたのだった。
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