第70話 せめて今くらいは
12月も間近に控えた土曜、俺は自室で椅子に座り背もたれをキィキィ鳴らしていた。
俺が……ヨリコちゃんと。
ぼんやりした頭で過去を振り返る。
そもそも出会いがアレなのだから、いまだに信じられない。
ヨリコちゃんが、俺の彼女になっただなんて。
現実感のないまま天井を見上げていると、机の上に置いてるスマホが着信音と共にバイブした。
電光石火でスマホを取り、相手もたしかめずに通話状態にする。
「もしもし!?」
『――……もしもし。つか出るのはや』
「ヨリコちゃん!」
『――あーはいはい。……ヨリコちゃんですよ?』
テンションひっく!
でもうちの彼女かわいい!
ダウナーかわいい!
なんかヨリコちゃんが俺に電話してきて寝取られ報告しないなんて新鮮だな。
「…………」
『――……』
ところでなんの用事なんだろうか?
いや、こんな考え方はよくないよな。
なにせ彼氏彼女の関係なんだ。
用がなくたって電話くらいするんだよ、よく知らないけど。
「俺の声が聞きたかったとか、そういうことなんだよね?」
『――え? ぜんぜんちがうけど』
「ちがうのかよ!」
『――なんでそんなキモい解釈したの?』
「言いたい放題だな!?」
付き合ったのって幻かなんかだったのか?
最近変な夢みるし……夢か。
『――……その、さ。あたしら、そ、そういう風になったじゃん。でも、問題とか、いろいろあるでしょ? どうしていくのかちゃんと話したいなって……思って』
どうやら夢ではなかった。
話し合い……つまり、これから付き合っていくことを前向きに捉えてくれてるというわけだ。
それだけで嬉しい。
「ケンジくんから連絡は?」
『――ううん……ない。学校でちょっと話したのが、最後』
俺が見かけたときかな。
ヨリコちゃんから別れを切り出したのは事実らしいんだけど、それで諦めれられるんだろうか。
個人的にも、ケンジくんには助けられたことがある。
いくらちゃんと別れ話したからって、はい終わりってわけにはいかない。
「俺が……あらためてケンジくんとは、話するよ」
『――ケンジくんにはあたしから――……ううん、ちがうよね。ふたりで話そ? それがきっと、いちばんいい』
「わかった。じゃあ、ふたりで」
『――うん』
ヨリコちゃんがそうしたいなら、そうしよう。
あとはマオや、ヨリコちゃんの友人でもある双葉さん達にも関係はオープンにしようという話になった。
クラスメイトだとか、周囲の目は厳しいかもしれない。
陰口なんかもあるかもしれない、けど。
コソコソと付き合うのを望まないのは、俺もヨリコちゃんも意見が一致した。
「もちろんこういう話も大事だけどさ、えっと……せっかく付き合うことになったんだから」
『――うん、なに?』
「たのしい話もしたいっていうか。恋人らしいことしたいっていうか」
『――た、たとえば? なにがしたいの?』
「そりゃまあ……デート、的なやつ」
やったことないし。
ぜひはじめてをヨリコちゃんで経験したい。
『――う、うん。い、いいよ? いいんだけどね。でも外で遊んだりとかは、さっき言ったみたいにちゃんと公言してからじゃないと』
「あ、ああそう、そうだよな! もちろんわかってる!」
もやもやしたままじゃ、楽しめないよなそれは。
あんまり浮かれ過ぎるのはよくないか。
残念……ではあるけど、しょうがない。
『――……ソウスケくんさぁ、あしたヒマ?』
「終日ひま!! そこらのニート並にひま!!」
『――声うるさ! 外で遊ぶと目立っちゃうから……じゃあ、あした家行っていい?』
「え……!?」
『――前から思ってたんだけど、ふだんなに食べてる? もしコンビニとかスーパーのお弁当とかばっかりなら……体に悪いし、なんか作ろうかな、なんて……』
「毎日添加物しか食ってない!!」
『――声うるさ! てかしぬよ!?』
まじかよヨリコちゃん来てくれるの!?
しかもご飯作ってくれるなんて!
実はけっこう自炊してるなんて口が裂けても言わない。
掃除しとかなきゃ、キッチンもトイレも。
風呂場とかも……一応しとこう。
『――じゃあ、あした……また連絡するね?』
「う、うん待ってる!」
通話が終わっても、しばらく夢心地でスマホの画面を眺めていた。
浮かれてばかりじゃだめだとはわかってる。
わかってるけど。
やっぱ幸せだわ……。
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