【完結】魔法具職人の就職活動
依月さかな
第一章 就職活動への旅
序.仕事、探さなきゃ
もともと人ってものを信用できない性分だった。
どれだけ笑顔で取り繕ったって、裏ではどんな顔をしてるのかわからない。
今まで嫌って言うほどわかりきってたはずなのに。
「え? なんだって?」
「だからー、もうお前さんとは取り引きできなくなったんだよ!」
人間族の王が治める大帝国ライヴァンの首都ライジス。意気揚々と商品を納品しに行ったら、とある酒場のカウンターで突然そう通告されたのだった。
「なんでだよ!? 今日までに
もちろん簡単に食い下がりやしない。俺だって、材料費が高コストな魔法具を慈善事業で作っているわけじゃねえんだ。
魔法具——魔法の効力を付与した道具——を作成し顧客に売るのが俺の仕事。ただ、それを買ってくれる相手っていうのが表だって活動していない組織、いわゆる闇
事前に契約書は交わしていたし、今まで一度だって代金を踏み倒されたことはなかった。表だろうが裏だろうが、組織は組織だからな。
結んだ契約を守るのはどこであろうと必要だ。じゃないと、商売なんて成り立たねえ。
けど、今回は例外が発生したらしい。
「たしかにそう言ったかもしれねえけどさ、その注文書を作成した幹部がつい昨日
「そりゃてめえらの都合だろうが! 俺が知ったことかよ!」
組織内の内輪揉めなんか関係ねえだろ。魔法具の売買には俺の生活がかかってんだぞ!?
「そういうわけだからさ! 悪いな、ヒムロ。
「あっ、おい! 待てよ!!」
そう言って、酒場のマスターに扮した闇
おいおいおいおい! 冗談じゃねえぞ!?
「これだから大陸の奴らは……!」
腹いせに契約書をビリビリに破いてやった。破いたところで向こうには痛くも痒くもないだろうが、すでに無効になった紙を視界に入れたくなかった。
時間は有限だ。過ぎ去った時はもう戻ってこない。
握っていた手を開くと、細かくなった紙片は風に飛ばされていく。故郷の島でよく見た吹雪みたいに、飛んでいった。
気が済むまで、店の外で紙が跡形もなくなるのを見送ったあと、作品たちが入った麻袋を背負い直す。
そうしてふと、我に帰った。
「……仕事、探さなきゃ」
小さなつぶやきは、一陣の風に虚しくかき消された。
こうして魔法具職人である俺の就職活動は幕を開けたのだった。
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