~episode “Greed”~

 きつとされるおまえをごぞんじ?

 いいえ、おまえそのものではありません。ヒントはかずです。

 ――まあ、っていらしたのですね。

 でしたら、みずとりこえめんひょうじょうよりもつまらないおはなしになってしまうかもしれませんね。

ゆずりくに》はおまえだいおもくにです。

 ながいほどかくしきがあるとされております。

ゆずり》によってをいただいたり、ゆずったりして、こくみんのおまえわることはよくありますの。

 でも、こくみんなかにはおまえについてこうおかんがえになるかたがいらっしゃいます。

『《ナナシ》はけず、《ヒトモジ》はてず、えられじ』って。

 おまえながいほどいいけれど、すうじゅうさんたっするのはよくない……たっすればきつなことがこってしまう……そうつたえたおことだそうです。

《ナナシ》や《ヒトモジ》とならべられるほどのきつがなにか、おわかりになって?

 ――ええ、ごめいさつです。

 死んではかなくなってしまったらおまえながくするなんてできませんもの。

 ただのめいしん? ……そうおっしゃるのでしたらすこしだけ、わたしがっているにおみみかたむけてくださいな。




 かつて、ふうがおりました。

 つまにはLisリスおっとにはややていさいながらもGgジージーというまえがありました。

 まえみじかさが《ヒトモジ》にちかかったためでしょう。ふうはよりながまえをしきりにほっしていたといいます。

 じゅうさんにかかるきつらないふうではありませんでした。

 けれどもふうは――とりわけおっとのジージーはねっしんたいで――そのつたえをかろんじ、あまつさえ『たみうえつづけたいぞくどもがつくった、ただのめいしんだ』とみとめなかったそうです。

 ――ふふ、あなたとおなじではありません。ほんしつことなりましてよ?




ゆずりくに》でまえすうやそうとするには、《ゆずり》をおこなうほかありません。

 いまむかしも、それはとくべつなことです。

 ……みずからおまえるおかた

 そのようなおかたにごきょうりょくいただけたなら、《ゆずり》でかんたんにおまえととのえられるでしょうね。じっさいにいらっしゃったら、のおはなしですけれど。

 だってありえません。こくみんいのちはおまえとともにありますもの。




 それでは、よりながまえ――もとい《ゆずり》をしきりにほっしていたリスとジージーはどうしたのでしょう?

 おそろしいことに、このふうに《ゆずり》をおこなわせてのぞみをかなえたのです。

 きんりんらすかたがたふうにうっすらとかんかんじ、やがてないないたしかめて、それにづきました。

 けば『まずしいからぎょうしょうしたばたらきにやった』とふういました。

 らいふうちょうなんだったTedテッドかえってきませんでした。

 けば『うてのようへいりしていった』とふういました。

 らいふうなんだったGeraldジェラルドまえさえもかなくなりました。

 わかむすがひとり、ふたりとえていくたびに、よりながい《ゆずり》がリスのかおをほころばせていたそうです。




 あらたにまれたこくみんめいめいは、りょうしんまえのよりながいほうのすうじょうげんとしてゆうおこなえる――《ゆずりくに》にさだめられたこのまりをあくようしたすえに、ふうすうねんのうちにべつされがたいながさの《ゆずり》をほんめいにしておりました。

 GriseldaグリゼルダGreedグリードGustavusグスタヴァスGreedグリード

 すうはいずれもじゅうさんです。

 さて、ふうあいだにんまれたころです。

 ふうらすむらにはよからぬうわさがっておりました。

 むらひそんでいるというのうわさでした。

ゆずりくに》をよくごぞんじでいらっしゃるあなたでしたら、このうわさにめられたしんえていることとおもいます。

 そう、かつてのしがないリスとジージーだったふうを、きんりんかたがたはついにはなっておけなくなったのです。まえりはことのあやです。

 これにともなって、ごろしのつみあばかれまいとかんがえたのでしょう。

 ふうみったずに、ぶんたちのよからぬうわさがとどきそうもないまちへとうつみました。

《ヒトモジ》にちかぶんだったふう姿すがたはとうにありません。

 まちへのれをものともせず、ものがおであちらこちらにはばかせるようになるまではあっというだったそうです。

 ふらりとあらわれてはまちかたがたおおくをへりくだらせてしまうさまは、さながらぞくのようでした。

 そうしていつしかふうがグリゼルダ、グスタヴァスではなくグリードじん、グリード――ときにはグリードさいともばれ、らしぶりさえもぞくとうしゅうするかのようになったあるのことです。

きょていんでるから、わすれないうちにいのっておきたいの』

 グリゼルダはめいめいしんへのいのりをささげるべく、ひとり、しんしつのこりました。いつもよりうんとはやあさがたいのりでした。

 ところがグリゼルダはなかなかちょうしょくつくりにもどってきません。

 そこでおっとであるグスタヴァスはおさなむすめをテーブルにかせると、おもたげなあしりでつまのもとにかいました。

 グリゼルダをびながら、しんしつとびらひらき、そこでグスタヴァスはたりにしてしまったようです。

 がらのようにゆかちている、はいまみれになったにんふくを。

 ――あなたはまるで《ゆずりくに》のこくみんみたいですね。

 ええ、このくにこくみんはいになるというのは、死んでかえらぬたびにでてしまわれたことをします。

 おまえうしない、《ナナシ》になられてしまったかたも。

 めいめいしんへのいのりにさいしておまえいつわるようなことをしてしまい、めいめいしんいかりにれてしまったかたも。

 れいがいはありません。

 みなからだはいになり、かぜにさらわれてしまうのです。




 じきにれんらくせんこうぎしくみたいですね。

 まあ、さいまでおはなしいてくださるの?

 ……わたしはいいのです。ごらんのとおりのもつしかありませんから。




 グスタヴァスはたいへんにうろたえておりました。

 まさかつまめいめいしんへのいのりをしそんじるはずがない、などとおもっていたことでしょう。

 あるいはそう――これがじゅうさんにかかるきつなのかと。

 しばらくして、グスタヴァスはけっそうえたままいえしました。

 さきまちきょうかいだったそうです。そこにはいつもしんがおります。

 いかなるものとてせいひつにあるべききょうかいしんろうはしってきたグスタヴァスにがつき、さいだんからしんったそうです。

『もし、グリード? いったいなにをあわてておいでか?』

 するとグスタヴァスはまくしたてたそうです。

『「《ナナシ》はけず、《ヒトモジ》はてず、じゅうさんえられじ」! しんこたえろ! このつたえにおぼえは!?』

 ――おどろかれましたか?

 グスタヴァスはじゅうさんにかかるきつ、そのしんについて、めいめいしんつかえるしんはんだんあおぎたかったようなのです。

 グスタヴァスもひとちがいありませんもの。

 いままでみとめずにいたことがげんじつこったかもしれないとなったら、つよあんかんじることでしょう。

 さて、しんいたのち、くびよこります。

『とんといたためしがありません。すくなくとも、きょうかいすじつたわるせいきょうのたぐいではないものとぞんじますぞ』

 しんによるおすみきでした。

 これをけたグスタヴァスはいくらかもどり、いつものおうへいくちぶりでグリゼルダがはいになっていたことをしんはなしたといいます。

めいめいしんへのいのりをあやまられたのでしょう』としんれいせいげます。

ゆずり》をおこなえば、しゃいきかえさせるのはぞうもありませんもの。グスタヴァスもきっと、むすめにえにしてつまをよみがえらせるつもりだったのでしょう。

 じゅうさんにかかるきつへのうたがいがれたところで、グスタヴァスはしんにおれいをしないままきょうかいをあとにしようとします。

 そのときでした。

『もし、グリード

 グスタヴァスをめて、しんはこうげたそうです。

めいめいしんへのいのりになんらのごしんぱいもなければよろしいのですが……さもなければ、わたくしのまえいのられてはいかがか?』

 ゆいしょただしいせいしょくあいなのです。

 わたりにふねだんしていたのだとおもいます。

 かくしてグスタヴァスは、しんわれるがままめいめいしんへのいのりをささげ――。

 ――――かぜに、さらわれていったのです。




 グリゼルダ・グリードにグスタヴァス・グリード。

 りょうしんいっちょうにしてうしなったのち、のこされたむすめはどうなったかとおもいますか?

 こううんだったとおもわれるかもしれませんね。

 まちがなかったグリードむすめは、ほどなくしてまちきょうかいられました。

『おまえのらいうれえばこそ、わたくしはそのよきほんめいをごりょうしんゆずるべきだとはおもえません』

あんしんなさい。めいめいしんつむぎなさったえにしにかけて、きょうかいがおまえをすることをやくそくしますぞ』

 しんことをグリードむすめれ、やがて、はなざかりをむかえるがはやいか、まちいちばんめいとされるぞくちょうなんめられました。

 ただ、こんいんまでいささかはやすぎたせいでしょうね。

 なかなかさずかれず、ぞくちょうなんにおさけよるなぐさめとすることがえていきました。

 ……しなまでしゃくをするまいにちでした。

 いしれたくちから、じゅうさんにかかるきつしんじつがこぼれるまでは。




ぞくとどくところでぞくのまねごととは、おろかよなあ、あのふうは……』

ほんめいがわかれば《ゆずり》のたいしょうにできる……わけだ』

『……おかげでがりものしょすどころか、めいじつともにわるくないわすがたはいった。くく、しんどののてんにはつくづくかんしゃしなければなるまいなあ……?』




 ――ぞくみとめるほどのまえりょうってまれなかったら、わたしのじんせいはつつましくともおだやかなものとなったのでしょうか。

 いたきょうむらかつての母リスかつての父ジージーのうわさをかなかったら、わたしのこうかいはもっとかるいものとなったのでしょうか。

 こころも、そしてげるためにまえさえもけがしたわたしにのこったのは、『かたきをつにあたわぬりょうしんのためにひとあやめたつみ』だけです。

 ――いけませんね、わたしったらまるではなしてしまいました。いまのはどうかおわすれになって?

 さ、こうぎしあゆいたがかかりましたよ。おさきせんなさってくださいな。

 わたしはここでしばらく、みずうみかぜびたいとおもいます。

 ごきげんよう……。




 あら? あなたはさきほどの……わたしをっていらしたの?

 このふくろをわたしに、ですか?

 なんだかおもたく……これは、ほうぎょく

 こんなにごりっしなじならずのわたしがいただくわけには……!

 ――つづける、ぎんしに……。

 れんらくせんでたまたまごいっしょくださったときもそう。おやさしいのですね、あなたは。

 でも、ほんとうにきれいなほうぎょくです。

 あたたかならくようをこんなにもかえして。

 ――せっかくのおくものばなすつもりでたずさえて、わたしはけっきょく、なにをほっしてきるのでしょうね?

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譲名つ国 水白 建人 @misirowo

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