~episode Margaret?~

 ――いいえ? さしだしにんまええとったってにしませんでしたよ。

ゆずり》はごぞんじでしょう? このくにじゃよくあるんです。よんじゅうねんかん、ひたすらざっあきないでひととやりとりしてきたわたしがだんげんしましょう。

 なんでね、ありふれたかたらうかんけいだったマーガレットじょうがくれたこのがみの、ここ。さしだしにんのところをてもへいでナイフをりにきましたね。

 いざふうって、このがみんだときはちょっとばかりおもいましたが。

 それじゃ、げますよ。




はいけい イディオットさま


 すなつぶじりのかぜがやみ、あおくさちこめてくるみぎり、いかがおごしでしょうか。

 イディオットさまおしえてくださったばくしょうぎょうは、マレットにはごえんがなくって、ただただおもいをはせるばかりです。しのあざやかなせつがくるとまっておにわよごしてしまうすなつぶたちも、そこからはこばれてきたのでしょうか?

 おにわといえば、マレットはとしもおはなえようとおもいます。

 イディオットさまはどんなおはながおこのみでしょうか? あかいおはな? いろいおはな

 きっと、マレットがたこともないような、がいこくのおはなもごぞんじでおられるのでしょうね。

 おにわいろどりですけれど、もうすこさきになりそうです。イディオットさまおすすめのおはながございましたら、ぜひおへんにて。あらかしこ。


 マレットより』




 ええ、ええ、そこなんです。

 MargaretマーガレットからMaretマレット

 ごりっまえからさんうしなわれたのに、とつじょとしてマレットをったマーガレットじょうひとこともこれにれとらんかったんです。

 たとえがみであっても、《ゆずりくに》のこくみんめいめいしんまえいつわれません。ですから、わたしはかのじょまええたことたいうたがいませんでした。

 わけをかなかったのか? って、そりゃあおきゃくさん、ですよ。

 ヤブヘビ。つまりは『やぶをつついてへびす』――なことをしたせいでわるけっまねいてしまうっちゅう、がいこくつたえなんですけどね。

 とうのわたしは、マーガレットじょうきたであろうことをあれこれしんぱいしながらも、しきかいめいについてたずねたいちをむねにしまいました。とっさにヤブヘビがのうをよぎったからです。

 マーガレットじょうはわたしのよきはなあいでした。いちねんしょうしょうにわたってかのじょおくったがみかずといったら、さんじゅうじゃかんでしょう。

 まったくのない、ほんとうにただのしわばしですけどね。そんないこいがつづけられるんなら、かのじょまえわるくらいどうってことないですよ。

 ……いちきりなら、まあ。さっぱりわすれとったとおもいます。

 けんはここからです。なんとかのじょ、またしてもまえわったんです!

 つぎはこっちのがみなんですがね……ほら! さっきはマレットだったのに、ティーけてMareメアになっとるでしょう?

 マレットのまえがみおくられてからいっげつちょっとしかっとらんのに、みょうだとおもいませんか? おもいますよねえ。

 まえいのちどうぜん、いわば『名は体を表すナハタイ』なんですから、そうほいほいけずれやしませんよ。

 マーガレットじょうもといマレットじょうもといメアじょう……ややこしいので、つづきマーガレットじょうと呼びましょうか。

 こうもマーガレットじょうしきかいめいがたびかさなっては、さすがにごせません。ヤブヘビじょうとうです。

 そこでとうのわたしは、すぐさまかのじょがみおくりました。

 いつものせつぶんにこのようないをぜましてね。




『――ところで、としえるわかとともにごされたあなたはマーガレットでした。

 かぜにそよめくあおくさとともにごされたあなたはマレットでした。

 たねがもたらすはなぞのゆめとともにごされたあなたはメアでした。

 あなたのやせほそるさまをているかのようで、これじょうちんもくにはえられません。

 うるわしきメアさん。かつてはマーガレットだったかたよ。どうかおはなしください。

 なぜあなたは、けずるかのようにまえちぢめているのですか――』




 ええ、ええ、おきゃくさん、するどいですねえ。

 ぶんてきげました、こちらのがみふくせいでもなんでもなく、わたしがマーガレットじょうにあてたいのいっつうになります。

 かなしいことに、おくったはずのがみが、おくぬしであるわたししんかえってきたっちゅうわけですよ。

 わざわざがみかえしにってきたうには、あてさきじゅうしょとどけたものの、よくじつになってこのがみへんそうしてほしいとたのまれたんだとか。

ねんのためになかかくにんしたが、やはりひとちがいだった』――そんなゆうをつけて、りのったいくびきでくちもとかくしたおおおとこが、このがみしつけてきたんですってね。もちろん、がみふうられたまんまで。

 それじょうのことは、やれおぼえてないだの、にしてられないだのと、いくらいてもかんでしたよ。

 ああ、よろずとどけっちゅうのは、おきゃくさんのくにでいう『便たよ』ですよ。え? ごぞんじない? ……ま、まあ、そのあたりはおきゃくさんがよしなにそうぞうしてください。

 ともかく、です。とうのわたしは、くちもとかくしたおおおとことやらがマーガレットじょうじょうるもんとかくしんしました。

 じつかのじょへあてたがみっとるんです。きをともにするおやさんかもしれんでしょう?

 もそぞろだったとうのわたしに、ざっあるじはとてもつとまらなくって。

 みせさきに『きゅうぎょう』ときなぐったかんばんしたら、さっそくまちぐちかい、とうてのはこしゃててマーガレットじょうらすむらへとちました。

 ……そう、あのあさも、あれくらいくろずんだくもそらを……っと! こりゃひとあめりそうだ。こうしちゃいられません。

 あめかぜこごえながらのばなしもなんでしょう。ものであふれかえっとりますが、どうぞほろなかへ。

 いいんですよおきゃくさん。あなたあいものしんぱいなんてしません。

 ぬすむこともできたでしょうに、げたうまをわたしのところまでれてきてくださったおひとなんですから。




 ばらばら、ばらばら、っとりますねえ。

 あのてんいまほどれず、たまにぐずつくくらいでしたよ。では、つづきをおはなししましょうか。

 とうのわたしがいそいどったのは、おわかりですね?

 わたしがんどったまちからマーガレットじょうのところまでは、しゃはやさでおよそいっちゅうはかかるんですが、そこまでちんたらできません。

 はこしゃったわたしは、しゃたいとびらをわずかにひらき、ぜんぽうぎょしゃだいえるかたはばひろなかめがけていました。

『おい! もしわたしがとびらまどにかがりずにすんだら、おまえきょゆうしょくむらいちばんのうまいさけをつけてもつりがもらえるぞ』

 じょうきゃくふとぱらづいたぎょしゃむちさばきときたら! なにごともいざとなれば『金に飽かすカネアカ』をくのがばやいもんです。

 こうしてとうのわたしは、まえによって、おかのひとつもないたん調ちょうはんにちたずにえることができました。

 ぎょしゃはこしゃにつないだとううまいきばかりか、かたみちぶん運賃ベルをもおおいにはずませたっちゅうわけです。




 マーガレットじょうらすむらって、とうのわたしはおもわずちからとしてしまいました。

 きしにまさる、のぎゃくきしにおとる、とでもいいましょうか。

 みぎいえても、ひだりいえてもなかくさい。めんととのえたふつうのレンガをけんざいもちいたいえたらず、ほとんどがくさきのちいさなひらです。なかには、ガラスをまどにはめんどらんいえもありました。

 にわはどこもいえうらに、さくぶのもおこがましいぼうきれでかこわれとりまして、ちらとのぞけば、ひとうね、ふたうね……おきゃくさんだって、きっとかぞえるのがばかばかしくなりますよ。

 がみのやりとりをつうじて、むらこうけいあたまれたはずだったんですがね。マーガレットじょうかされたいんしょうとは、ずいぶんちがいがありました。

 へんかんがえてもはじまりません。わたしはひとり、そんどうすすみまして、よるのとばりがかんぜんりるまえにマーガレットじょうのもとへいそぎました。いちねんじょうぶんつうしたあいだがらなんです。じゅうしょはそらでおぼえてますよ。

 さいわいにも、かのじょまいはかされたいんしょうちかいありようでした。

 まず、じょうごのはなくつるくさからめた、つちたまいしへいむかえてくれます。しきぐちには、いたざいまれた――ちょうどおきゃくさんぐらいのかた使つかいやすそうな――ばこもあります。もんがまえではありません。

 せっかいられとったんでしょうか。まいのほうはしろがいかんでして、きのげんかんそなえたけっこうかいてです。

 わたしはかれたじゃらしながら、げんかんへとまっすぐつづつうなかほどまですすんで、ふと、づきました。かりがついとらんのです。

 かえれば、あたりのいえいえまどからだいだいいろをほのめかしとります。もうよるでした。

 しかしながら、しょうめんなおしてみても、わたしのにはくらがりとせっかいかさねたあおじろさがうつるのみです。マーガレットじょうまいからは、いっこうひとかんじられません。

『……こりゃか』

 ちっぱなしですうふんったあげく、とうとうわたしはそうぶんかせました。

 また明日あしたあらためる。そのためにはどこかせません。

 むら宿やどいとなものがおらんかったもんですから、とうのわたしはっちゅうがいこくおもわせるたたずまいのさかいまして、いっ宿しゅくいっぱん――もとい、いっ宿しゅくはんけいやくりつけました。いたしゅっでしたよ。

 さて、ほこりっぽいゆかうすっぺらいもうよるかしたわたしは、さかした朝食つまみものもそこそこに、むらおとずれたもくてきたすべくかけました。

 どくにもまえちぢめられたマーガレットじょうか、あるいは、よろずとどけがかたったじんぶつでもかまいません。のぼっとるうちにたずねれば、だれかしらにおえできましょう。

 ……いいえ。さきけっをおはなししますと、マーガレットじょうにはえずじまいでした。えるわけがなかったんです。

 たいむねに、マーガレットじょうまいにふたたびあしはこんだとうのわたしのんできたのは、にわおもわぬれざまでした。

 よるやみかくしとったんでしょうね。それにしたっておどろきましたよ。

 いえよこもうけられただいしょうふたつのだんにはかたそうなつちしかなく、まわりのとおみちなんてうざうざえたざっそうだらけ! マーガレットじょうがみかれたにわとはてもつかない!

 たとえだんはなわっとっても、あれじゃいっしゅうかんたずにむしどもがらしますよ。

『おお、おお……ここにはながらく、ひとんどらんようだ……』

 つちたまいしへいうらにさびまみれのしょくごてまでつけてしまい、ほうれとったときです。うしろのほうから、ふとく、さくなあいさつこえてきました。

 がっかりしてようがれいかんじんです。

 おうむがえしではありましたが、とうのわたしもかえりざまにあいさつをしました。

『やあ、おはようさん』

 うしろにっとったのは、すきかたかついだ、わたしよりうんとわかおとこでした。

むらひとかね? わたしになにか?』

 するとわかおとこは、ぽんといをげました。

だんくちかい?』

『やられた……っちゅうと?』

『あれ、ちがった? そこのいえたずねるひとっつったら、がいしゃしかいねえとおもったんだけど』

 わかおとこがつまらなさそうにきびすをかえそうとするのを、とうのわたしはあわててめました。

 だって、あきらかにわけりじゃないですか。

 とうのわたしにはのどからるほど、マーガレットじょうしょうそくかんするがかりがしかったんです。

 わたしがせがむと、わかおとこはすっかりげんなおしてはなしつづけました。

『そこのいえみっまえまではひとんでたんだよ。だいおとこがふたりぐみで』

『もしやそのふたりぐみ、ひとりはりのったいくびきを――』

『そうそう! なんだ、やっぱりだんもやられたんだ』

んどったのはおとこだけか? じょせいもいたんじゃないか?』

おんならねえや。すくなくともおれはたことねえよ』

『ええ……?』

『でさ、そのおとこふたりぐみは――まえTerahテラGramグラムだっけかな――よそからうつんできたくせに、むらだれともなかくしねえでやんの。ひょうばんもとからわるかったよ。そこへってきてだましときた!』

 だましだなんてぶっそうことかされたわたしのかおいろたるや、わずもがなでしょう。

『やられただんは、なうわさきよりってるだろうけど』わかおとこかたをすくめました。『おとこふたりぐみは、まえをとっかえひっかえしてべつじんになりすますってぐちで、いろんなやつをってたらしい。それでまんまとやられたやつらがけいだんしょしかけてきて、おれがたいおうするはめになったのがみっまえってわけ』

 あのみっまえっちゅうと、りのったいくびきでくちもとかくしたおおおとこから、よろずとどけががみへんそうたのまれたかさなります。

 おそおそろしさにこえふるわせながら、とうのわたしはかくにんしました。

『そ、そのときにはもう、ここはもぬけのからだった、と?』

『まさにそうなるしゅんかんくわしたんだ。おとこふたりぐみのうちひとりしかいなかったけど、そいつがまたはやいのなんのってね……』

 わかおとこおおとりものしゅやくにはなれんかったようです。『こんったら、このすきげるなかにぶつけてやる』とはないきあららげとりましたよ。

 ……まったく、とんでもないはなしでしょう?

 ざっあきないにかまけとったなるイディオットをやしてくれたマーガレットじょうは、あたたかなことつづられてきたかのじょらしぶりは……!

 なんとにくらしいことか、すべてだましがつくったまやかしだったんですよ!




 むらけいだんいんだっちゅうわかおとこはなしは、とてもできるもんじゃないでしょう。

 だましのTerahテラGramグラム

ゆずり》をもって、ふたりがまえエイチとそれがいとにければ、Margaretマーガレットのできあがりです。

 とどのつまり、とうてのはこしゃててのとおけはほねぞんでした。いもしないじょせいしんぱいしとったわけですからね。

 とうのわたしのみじめさったらありません。さかんだくれとるはこしゃぎょしゃはらうベルはとうになく、むらきゅうしゃからどものうしいをはしたがねやとい、やまのようにくさんだうしぐるまだいいえにつくはめになりました。

 そうぞうしてみてくださいよ。あおけにからだかせ、くもながれゆくのをながめるほかないちぶさたなさんちゅうを。

 てるべきごとていなんかうわそらでして、あたまかんどったのは、マーガレットじょううしなったことへのつうこんねんがほとんどです。どうしてこんなに、となげかんかったはありません。

 ですがね、おきゃくさん。あたま使つかえば使つかうほどさえるもんです。いえにつくことみっにして、とうのわたしはわたしをたぶらかしたテラとグラムのしょぎょうにあるかんおぼえました。

 おきゃくさんもっかかっとったでしょう?

 だましのおとこふたりぐみは、なぜマーガレットといつわり、いちねんじょうもわたしとぶんつうしたのかと。

 ちょくせつてきにかけず、いったいなんのとくがあったんだと。

 こたえは、つきばんあるじむかえたざっにありました。

 そこでようやく、とうのわたしはかんそのものが『後の祭りアトマツ』であることをおもらされたんです。

 ――あぶらあせめるほどのつめたいかぜが、みせなかをそよいとりました。うらぐちです。まえじょうろしたはずなのに、とびらはすひらかれ、すきからくらひかりばしとるじゃないですか。

 あつかんじょうだいおくにいっそうをこらしてみますと、そこはめまいをもよおさんじょうでした。

 ものゆかつくえにとらかされ、まるよこだおし。

 しまいには、ひっくりかえったしがこれでもかと! さながら、とうひつじわれたかのようでした。

 ……いえ、ひつじじゃたとえがよろしくありませんね。なおしましょう。

 はんにんほんあしこうかつなたてがみいぬです。

 わたしがたんしんしゃであり、ながねんかせぎをこつこつたくわえとって、マーガレットじょうちゅうだったことをねらい――ようするに、テラとグラムですよ。

『し、しまった!? きんは!?』

 ぶんにそうさけんだところで、もはやどうにもなりません。

 たして、ころげるようにえたかんじょうだいしたにわたしがたのは、こじけられたてつきんのがらんどうだったのでした。




 いかがでしたか? おきゃくさん。まことずかしいしっぱいだんではありますが、いまや、わたしのきょうくんでもあるんです。

 ずばり、はなしょうばいはかんばせ! ハナカン、とでもりゃくしましょうか。

 まえったくらいじゃ、したしいいっちゅうのはうまくいかんようです。かおえないぶんつうだましのふたりにほんろうされたあげく、ろうたくわえをこそぎぬすまれたわたしがうんです。そうにちがいありません。

 だからわたしはみせばなし、つぎはぎだらけのほろしゃぎょうしょうにんとなったんです。

 なぜですって? 《ゆずりくにじゅうおもむいて、かおりからはじめてくれるよきはなあいさがすためにまっとるでしょう。あきないがてらにいっきょりょうとくねらってやりますとも。

 ……ときにおきゃくさん、こうしておなほろしたはなしとるのもなにかのえんです。ねんにおひとつ、わたしのざったびともにされてはいかがでしょう? もちろん、べんきょうさせていただきますよ?

 たとえばこちら、かの《くろくに》かられましたアウライトなるほうぎょくは、お調ちょうさせやすいあおみどりふくんだぜんななしょくりそろえ――――。

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