第21話執事の逃走劇2

「なんだ、雲龍じゃないか。久しぶりだね。」

この河原でバーベキューをしている男は雲龍幸太郎。

『大きな』執事がピースサインで数えられる数少ない友達である。


「それにしても遅かったじゃないかって、会う約束してたっけ?」

『大きな』執事は用意?されていたソーセージすべて食べ終わると、少し考えるようにそう訊ねる。


「お前この時代にスマホ持ってないだろう?住んでるとこも最寄り駅しか分からない。それにお前は異常に太ってる。」

「太ってるのは関係ないんじゃないか?」

『大きな』執事はお腹をさすりながら文句を言う。


「そんな奴に用事があるときはどうすれば良いか。過去に同じような状況を思い出してくれ。」

そう言われ、『大きな』執事は街中で幾度か雲龍に出会ったことを思い出す。


公園で子供たちに秋刀魚を七輪で焼いている雲龍。

高架下で豚汁の炊き出しをやっていた雲龍。

そして今日河原でバーベキューをしていた雲龍。


「......、まんまと釣られていたということか。おかしいと思ってたんだ。君が子供たちやホームレスの人に優しくしているなんて。」

「勘違いしてほしくないのは、俺は子供が好きだ。炊き出しをしてたのは完全にお前を釣るためだが。」

雲龍はにやりと笑みを浮かべながらそう語る。


「そうなると、僕に何か用があるということかい?」

すると雲龍は、足元のクーラーボックスからステーキ肉を取り出して焼き始めた。

「まぁ久しぶりに会ったんだ。少し食べながら話そうじゃないか。」

目の前で焼かれる肉を見ながら、『大きな』執事は静かにナイフとフォークを取り出した。


ステーキや海鮮焼きを食べながら、他愛のない近況報告や世間話をする2人。

「そういえば雲龍は今どういう仕事をしてるんだい?前聞いたときはビスケット屋さんだっけ?」

「バスケットボールはやってたかな?今は貂彩学園ってとこで教師をやってるよ。」

「そうなんだ。天才なんてダサい名前だね。」

「ジーニアスのてんさいではない。イタチ科の貂に彩ると書いて貂彩だ。まぁ確かにダサいけどな。」


「そのてんさい学園はどこにあるんだい?」

『大きな』執事は漢字を理解することを放棄してそう訊ねる。

「お前は自分の主の学校も理解していないのか?」


そもそも『大きな』執事は、自分が執事だということをあまり理解していない。

『大きな』執事の一日は、10時に起きてご飯を食べて掃除をしてご飯を食べて散歩してご飯を食べて希美の夕飯の手伝いをしてご飯を食べてテレビを見てご飯を食べて寝て終わる。

仕事と言えば掃除と希美の夕飯の手伝いくらいだ。


なので希美のことを『主』として認識をしていない。

「主って誰のことだい?」

雲龍は髪をかき上げ、深く息を吐く。

「お前が今世話になってる砂糖元家の希美って娘がいるだろう?彼女が通ってる学校が貂彩学園で、俺は今そこに勤めてるってわけだ。」

雲龍は言葉のキャッチボールをあきらめて、ど真ん中にボールを投げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る