第10話2学期の始まり1
9月、旧暦で言うと長月。木の葉に紅が覆いかぶさり、やがて落ちる。
夜が長くなり秋の訪れを感じるとともに、夏がなかなか帰ってくれない季節。
楽しかった時間が終わって憂鬱な人。涼しくなることを心待ちにしている人。セロリが好きな人。さまざまである。
希美が通う貂彩学園には、そんな様々なお嬢様が通っている。
夏休みが終わり、2学期がスタートする始業式の日、希美はいつも通り60分前に登校していた。
いつも希美が一番なのだが、この日は先客がいた。
教室の観葉植物が手入れされている。植物委員の彼女かな?
希美が状況から類推していると、後ろから相も変わらず元気な声がやってきた。
「さときびちゃん!おはよう!元気だった!?」
始業式の朝から元気なこの娘は、彼女しかいない。
希美は振り返ることもなく、声の主に対して返事を返す。
「鮪川さん、おはよう。朝から元気ね。」
そう言うと希美は振り返り、鮪川泉海に植物の世話の謝意を伝える。
好きでやってるんだから気にしないでよ~、と泉海は喜びの感情を隠せずに踊っている。
「さときびちゃんが変わらずに早く登校してきてくれて良かった。ちょっと夏休みの課題に協力してくれない?」
そう言うと泉海はリュックサックからノートパソコンを取り出し、希美の前の席に座る。
希美は笑顔で答えるが、自分が夏休み3日目に終わらせた課題を提出日の朝にまだ終わっていないことに驚きを隠せない。
しかし泉海は課題を間際になって慌ててやるような性格ではないことは知っている。だからこそ現状を理解できないでいる。
おそらくこの時点で課題が終わっていないのは他に鮭川龍子くらいだろう。
「で、私は何をすれば良いの?」
リュックサックから様々な装置を取り出している泉海に問いかける。
「さときびちゃんは、ただ立ってるだけで良いからさ。」
泉海はそう言うと、カーテンがついていない簡易フィッティングルームのようなものを組み立てていた。
上についている蓋のようなものは動くようになってるみたいで、泉海はそれを上下させて動作を確認している。
装置には下から0,1,2,3と数字が書かれており、上は170まで確認できる。おそらく身長を測るのだろうか。
「じゃあこの足型に沿ってここに立ってもらって良い?」
希美は促されるまま靴を脱ぎ、足型にピッタリ足を揃えて位置につく。
「はい、それじゃあ壁に背中を合わせてじっとしててね~。」
すると上についてる蓋のようなものをゆっくりと降りてくる。
そして足元から電子音がしてしばらくすると、終わりの合図を告げるように某コンビニエンスストアでよく聞く音が流れた。
ありがとね~と言いながら泉海は希美の手を取り、何かの計測器?を片付け始めた。
手早く片付けノートパソコンに前に座り、恐らく計測の結果を確認しているのだろうと希美は後ろからひょっこり覗いてみる。
なにやら数字が並んでいるのは確認できるが、何を意味しているのかは分からない。
泉海の方に視線を移すと、何やら難しい顔をしている。何か不満な結果なのか。
「どうしたの?予想より太ってた?」
希美は自分が太っていないという自負から、軽口を叩いて泉海の反応を窺う。
泉海は希美を振り返り、希美の顔をじっと見ながらパソコンの画面に視線を戻す。
「逆だよ、さときびちゃん。私の計算ではもっと太ってると思ったのに。。」
泉海はそう言うと、そっとパソコンの画面を閉じた。
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