第9話続・料理長の憂鬱4
「...................」
落とされて上げられてまた落とされる。まるで某テーマパークの恐怖のホテルのように。なんちゃら三世に来ちゃだめだと何度も制止されても気にせず乗ってしまった気分だ。
万事休すな料理長は、そんなくだらないことを考えてしまうほど思考が停止してしまっている。
「脂元、実はなぁ。そいつの正体はこいつなんッ」
「酢矢くん!」
大吾はこの試食会を台無しにするものを出そうとする軽率な庭師を抑える。
「大吾さん、もういいじゃないですか。ネタばらしして驚く様を見たいじゃないですか。」
ダメだ、この男は楽しくなる方向にしか考えてない。
『大きな』執事は料理長と庭師がこそこそ話しているのを横目に、何か食べ物がないかを探している。
すると『大きな』執事は二人の足元に、何か白い物体が落ちているのを発見する。
『大きな』執事は二人が静かに言い争っているなか、その物体を拾い上げる。
言い争っていた二人はしまったと顔を見合わせる、いや、しまった顔をしているのは料理長のみで庭師は満面の笑みで「見つかっちゃったかぁ。」とわざとらしく頭を掻く。
しかし二人の予想に反して、『大きな』執事は感嘆の声を漏らす。
「これって食用のカブトムシの幼虫ですか?懐かしいなぁ。でも糞抜きはしてるんですか?ふっくらしてる。でも腐葉土の臭いはしないですね。養殖ですか?」
『大きな』執事はまるで専門家であるかのように流暢に語る。
糞抜き?腐葉土?養殖?
庭師に紹介された業者が同じようなことを言っていた。
いや、そんなことよりこの反応は成功なのか?
あの虫嫌いな執事が素手で触ってるし、今にも食べてしまいそうな雰囲気である。
これはエレベーターを降りられたのか?はたまたまた上に昇っただけなのか?
大吾は予期しなかった光景に戸惑いを隠せなかったが、この機会を逃してはならないと悟った。
「そうなんだよ。酢矢くんの知り合いの業者が養殖で育てているものでね。腐葉土の臭いについては詳しいことは分からないけど、特殊な環境で育てているらしいよ。糞抜きもしてくれてて、僕の方で海老の切り身を入れてあるんだ。味付けも敬介くんの好きなエビフライと同じようにしたんだよ。どうだい、また食べてくれるかい?」
必死な料理長は営業マンのごとく、畳み掛けるように言葉を並べる。
「んー、これ食べるならエビフライ食べたいですね。」
「....................」
「そりゃそうだよな。わざわざこんなの食わないよな。」
自分の思い通りの展開にならなかった庭師は味方ではなくなっていた。
大吾は徐々に体が浮いていくのを感じた。
しかしここで諦めたら試合終了だ。
大吾は腹を括り、代案を探る。
「じゃあこれを使ったデザートならどうだい?味付けでどうにか甘くして見せるよ。」
「味付けで甘くなりますかね?飼育環境か餌でどうにかしないと厳しいんじゃないですか?」
「よし、之弥さんに、今回食材を提供してくれた会社を買収してもらって研究開発してもらおう。」
「脂元のためだけに買収なんかしてくれるんですか?」
すっかり興味を失った庭師は、ふてくされたままあきれたように言う。
「もともと敬介くんの体じゅ、体調管理を之弥さんに頼まれて今回の試食会を開いたからね。敬介くんのためと言えばすぐやってくれるよ。」
いったいこの『大きな』執事はなんなんだ。
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