第11話2学期の始まり2

「逆だよ、さときびちゃん。」

泉海はパソコンの画面を閉じながら、不満そうな顔で希美を見つめる。


「逆?もっと痩せてると思ってたってこと?」

「だってさときびちゃん、この夏休み食後のデザートいっぱい食べてたでしょ?あれだけ食べてたらもっと太ってるはずなのに。運動も朝のウォーキングくらいでしょ?それとも私に隠れて運動してたの?」


何を言ってるんだこいつは。

全く予想していなかった言葉に、希美は危うく考えることを放棄しそうになった。

我に返った希美は改めて彼女の言葉を反芻して考える。


デザートをいっぱい食べてた?大吾さんが考えたメニューだから食べ過ぎってことはないはず。それよりなんで彼女が自分の食事メニューを知ってるの?朝のウォーキングのことも知られてるし。誰かが鮪川さんに教えたってこと?食事メニューを知ってるってことは調理スタッフの誰か?でも私に内緒で教える人なんていないと思うけど。じゃあいったい誰が?......そんなの決まってるじゃない。


「鮪川さん、それはうちの『大きな』執事に聞いたのかしら?」

「『大きな』執事?あぁ、そうよ。確か酢矢さんって言ったかな?100kgは超えてそうな人だったよ。」

「...........」

「それがどうかしたの?」

「....いえ。その人は酢矢さんじゃないわ。名前なんて覚えなくて大丈夫。『大きな』執事と言えば通じるわ。その『大きな』執事に聞いた食事メニューは、デザートのとこだけ少し違うはずよ。」

「えぇ!?それじゃあウォーキングのとこも違うの?」

「ウォーキングはいつも6時に起きて、ストレッチも含めて1時間ちょっとかしら。『大きな』執事はなんて言ってたの?」

「『大きな』執事さんからは10分ちょっと敷地内を散歩してるだけって言ってたよ?全然違うね。。」

「彼が知ってるはずないわ。だって10時まで何しても起きないんだから。」


「うぅ、それじゃあ私の課題がぁ。」

泉海は頭を抱え、そのまま手を頬に寄せ唇で雪だるまを作っている。

希美は自分の執事のせいで級友の評価に影響が出てしまうことを心苦しく思い、なんとかできないかと思索する。

「どんな課題にしてたの?」

希美がそう聞くと、泉海は顔を上げてパソコンの画面を見せる。


「さときびちゃんはクラスで一番規則正しく生活してるじゃない?だから同年代の女子の、生活で消費するカロリーと摂取カロリー、それに運動での消費カロリーを計算して体重を予測できるんじゃないかと思って。」

なるほどね、と希美はカバンからスマートフォンを取り出して何かを探し始めた。

「あったわ。鮪川さん、今から私が本当に食べたデザートを言うから、修正していって。詳しいカロリーは分からないけど、個数で比較すればだいたい一緒になるでしょう?期間は8月6日から10日の5日間で大丈夫なはずよ。ウォーキングについても10分を60分換算すれば大丈夫じゃないかしら。」


「うぅ、さときびちゃんありがとう。」

泉海は希美の言う通りに修正をしていく。確かに体重予測のグラフを見ると、8月6日から10日に大きく数値が上がっている。希美が注意をしてからは正しい値が入力されてるので、これで正しい結果が出るはずだ。希美が安堵しかけたが、まだ数か所数値が他と比べて大きく上がっているところがあった。

泉海も気づいたのか、希美を振り返る。


「さときびちゃん、7月27日と30日、8月2日も数値が上がってるよぅ。」

「その日はデザートはどうなってるの?」

希美が尋ねると、泉海はえぇと、と食事メニューのシートを確認する。

「27日がおからのきなこもち24個、30日が豆乳の黒ゴマプリン12個、2日が牛乳寒天32個だよ。」

「......、そこも今から言うのに変えて。。」

後でじっくり確認する必要があるわね。


なんとかなりそうだよぅ、と泉海は希美に謝意を伝えるとともに、安堵感から肩の力が抜け、椅子にもたれかかる。

ふぅ~、と息をつき、泉海はパソコンを閉じる。

「さときびちゃん助かったよぅ。ありがとう。もうすぐ他の人も来そうだね。」


泉海がそう言うと、示し合わせたかのように教室の前後の扉から続々とクラスメイトが入ってくる。


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