第七雨-③

 ひたり、と彼女は足を止めた。紫がかった灰色の空から、僕の頭に雨が降り注ぐ。雨に打たれるのも、悪くない。

「環境が変われば友達との付き合い方も変わる、それは当たり前のことで、大人になるために必要なことかもしれない。君の決定が間違いだったなんて思わない。でも僕らは、今すぐに大人にならなくたっていいんだ。少しずつ慣れていけばいい。いつか、雨音だけが響く傘も、君は好きになれる。だから今はまだ、」

 口を閉じた。二人の間に雨音だけが響く。彼女の顔は傘に遮られて見えない。

「ごめん、ちょっとごちゃごちゃになってきた。言いたいのは要するに、君が傘に入れるのは、君にとって本当に大切な人だけでいい、代わりなんて作らなくていいと思う、ってことかな」

 さあさあと雨が鳴っていた。どこか遠くから、低い雲を伝って踏切の音がした気がした。

 前髪から僕の目へ向かって水滴が滑り落ちて来る。目を瞑って開くと、そこに彼女はいなかった。僕を雨の中へ残して一人、駅へ歩き出していた。彼女は片方だけぽっかりと空いた傘を持って、雨音に紛れ去って行く。僕はそこでしばらく雨を見上げ雨音を聞いていた。久し振りにイヤホンを取り出す。雨音は聞こえなくなった。折り畳み傘を出す気にはなれない。僕も彼女と同じように、この雨に漏れて帰ろう。

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